第107話

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「エルヒン様、これからどうされるおつもりですか? 王妃殿下と共に王を立て直すなんてことをお考えで?」


 村長ヴィントラが王城でそう聞いてきた。

 だが、俺は首を横に振った。


「訓練もされていない民衆だ……。結局、彼らは農民じゃないか。それに大陸の情勢からすると、これだけ分裂した国は他国の餌食となるだけ。当面はこの地を狙う国々によって血を撒く戦場となるだろう」


 そう。間もなく各国がエストレンを狙って襲撃してくるはず。

 無政府状態になったも同然のエストレンの各領地は中央政府がないため団結できずに各個撃破されるだろう。


「では、我われはこの先どうすれば……?」

「ここを離れるってのはどうだ?」

「ここに生活の基盤があるのに、ここを去れと仰るのですか?」


 ヴィントラが難色を示しながら尋ねた。


「仕方のないことだ。残念だが、この地はいずれ戦場となる。そんな戦争の真っ只中にここへ残ったところで命が無駄になるだけだ」

「ですが……どこへ行けば……。みんなこの地に愛着があるはずですし……だからこそ今回の蜂起にも参戦したのではありませんか!」


 ヴィントラの言っていることは妥当だ。

 だからこそ俺と一緒にここを離れてもらう必要があった。

 それが最大の目的だったから。単なる人口ではなく俺に従順な人間で人口を増やすこと。

 それ以上にいいことはない。


「だから、君が民衆を率いてくれないか?」

「それはどういうことでしょう……?」

「エイントリアンで君たちを全員受け入れようと思う。エイントリアンの領土はまだ狭いがすぐに飛躍的な発展を遂げると断言する。それに俺は民衆を戦争の危険にさらすようなことは絶対にしないつもりだ」


 俺はそこまで言って村長に頭を下げた。


「それにあなたなら十分にエストレンの民衆を率いることができるはずです」

「そ、そんな……おやめください!」


 俺が敬語を使うと村長はさらに困惑した様子で慌てふためいた。


「村長を慕っている民はたくさんいます。その民衆を率いてエイントリアンへ避難してください。彼らと過ごすための地域は用意しておきます。少し遠回りにはなりますが、北の情勢が安定したらエストレンの旧領土は必ず取り戻します。そうなれば、みんな故郷に帰れるし。……そのエストレンの旧領土で領主となるのはあなたしかいないかと。つまり、今私は村長にエイントリアンの家臣になってほしいと頼んでいるのです」


 ヴィントラは驚いた顔で首を横に振った。


「いや、ですが、私はこのまま農夫として一生を終えるつもりの村男に過ぎませんので、私にはとても務まりません!」

「全てはエストレンの民衆のためで、彼らをまともに率いることができるのはあなただけです。他国の人間である私におとなしく従うはずもありません。民には決して苦労させません。彼らの平和のために努力します。それとも……戦争で死んで、避難民となって、戦災孤児となって、そんな事態を作りたいですか? しばらくエイントリアンで過ごせば再び故郷へ戻れます。何があろうと、それだけはお約束します」

「……」


 戻ってきた時のエストレンの領主はこの男がいいだろう。

 当面はミリネと共に農業の奨励を任せれば、彼の専門分野だから相当な発展がありそうだし。

 多方面で必要な人材だ。


「まだ十分健在ではありませんか。私はエイントリアンを大陸統一の国としてみせます。彼らにはその民となってほしいという意味です。私にそんな資格はないと思ったらすぐにでもエイントリアンを去っていただいて構いません。ですから、最後に言います。私についてきてくれますか? 混乱の時代、神聖ラミエ王国はエストレンの地を真っ先に狙ってくる国で彼らは間もなく国境を越えてくるでしょう。時間がありません、村長」

「……」


 ヴィントラは黙ったまま俺を眺めていたが、ようやく決心がついたのか口を開いた。


「行かないという者たちを無理に連れて行くわけにはいきません」

「それは当然でしょう。最終的にどうするかは本人次第です。ひとまず連れて行けば当面は税を免除して農業を営むための土地は施すつもりです。安定するまではこちらで支援し、その後は決められた税を納めて暮らせばいいのです。搾取はありません。そこはしっかり説明してください」

「他はともかく……まずは説得をしてみます。エルヒン様の人柄を信じます」


 それが可能な理由は金塊があるからだ。国の財政が破綻しないようにするエイントリアンの金塊のおかげ。

 もちろん、それも今後はもっと安定的に運営していかなければ底がついてしまう。金を利用して他国と物資を交易し収益を得る必要があるから。

 でも、そっちには方法がある。

 だから今は人口を増やすことの方が切実だった。

 幸いにもヴィントラはうなずいた。

 同時に跪く。

 エリウ村の人たちには彼に協力するよう話すつもりだった。

 50万の人口のうちどのくらいの人口が移住してくるかはわからない。

 だが、俺はエストレン全域に噂を広める準備を終えた。

 エイントリアンが積極的に難民の受け入れを行い優遇しているため、すでにエストレンから大勢の農民がエイントリアンに移住したということを。


 ***


 神聖ラミエ王国の大殿。


「陛下、どう考えてもこれは絶好のチャンスでございます!」


 貴族たちは我先に王を説得していた。

 その理由は当然ながら無政府状態に陥ったエストレン地域を容易に手に入れるためだった。


「それはそうだが……そうしているうちにナルヤ王国が攻め込んできたらどうする! ルナンがそうだった。ブリジト領土を占有しようと騒いで滅亡してしまったではないか!」

「それとは違うかと。我われはナルヤと国境を接しているわけでもありません!」

「まあ、そうだが……」


 ラミエの王は悪い王ではなかった。

 ただ、それなりにラミエ王国をうまく率いている王だったが、かなりの優柔不断であることが問題だった。


「陛下! 陛下! 急報です!」

「どうした?」


 情報部を率いる貴族が駆けつけてきて報告すると王はやれやれと首を振った。


「ロゼルンが、ロゼルンが、エストレン地域で動きを見せているとのことです」

「何だと? あいつらがエストレンを狙っているというのか?」


 エストレンの西にはロゼルンが、東にはラミエ王国があった。

 真ん中にエストレンがあるためロゼルンとは国境を接していないが。


「このままでは北のシントラージェもエストレンを狙ってくるのでは?」

「陛下! 先手を打つべきです。我われが占領すればやつらに狙われることはないでしょう。結局、滅びた国でより多くの地域を占領するのは逸早く動いた勢力ではありませんか!」


 優柔不断も他国に奪われるという嫉妬心から直るものだ。


「すぐにエストレンに進撃しろ!」

「はい、承知しました!」


 そして、エストレンと少しでも国境を接する国はどこも同じ状況だった。

 みんなロゼルンに動きがあるという知らせを聞いていたのだ。

 もちろん、ロゼルンは動きがあるということを見せるだけで戦争をする気はなかった。

 ロゼルンを動かしたのはエルヒンで、東南部の各国はこれに釣られて動き出した。


 狙いは東南部の混乱とエストレンからの農民大移住だけではない。

 まだもう一つあった。

 エストレンの滅亡に乗じて必ず得るべきものがあったのだ。

 実はこれが一番重要だった。

 これだけ長旅をしたのはまさにこれを難無く手に入れるためだった。


「ここがドフレ領地か?」

「そうです。ここへ来るのは本当に久しぶりです」


 ドフレ領地はルシャクの執権によって荒れてしまった。

 おかげで完全に崩壊した状態。

 その故郷を見てセレナはとても悲しそうな顔をした。

 だが、そのように一度滅びたこの地にも生存者はいた。

 ここまで来たのは旧ドフレ家の家臣を迎え入れるためだった。

 セレナの登場により、ルシャクの軍隊を逃れてあちこちに身を隠していた家臣が次々と接触してきた。

 ドフレの人柄の良さに家臣たちは最後までドフレ一族を見捨てることなくいたわけだ。


「エルヒンさんが父の敵を討ってくださいました!」


 セレナは彼らを集めてそう説明した。


「だから、今度は私たちがエイントリアンの力になってあげませんか?」


 これまでの状況を説明してセレナがそう言うと、ドフレ一族に忠誠を尽くしてきた家臣たちは当然セレナにお供すると立ち上がった。

 その家臣たちの下で身を隠してきた者たちまでも。

 残されたドフレの家臣たちは先を争うようにセレナに忠誠を誓った。

 そして、主の敵を討ってくれた俺にも忠誠を誓った。

 これが大事な理由は別にある。

 ドフレの家臣を受け入れてエストレンの港でやるべきことがあった。

 それを終えてからエイントリアンへと戻った。

 それからしばらくして。

 今やエストレンの首都も同然となってしまったブリンヒルの海岸沿いに艦隊が現れた。

 それはエストレンが誇る第一艦隊だった。


「ドフレ領地も港町です。軍船に乗ったことのない者などいません。船乗りが多いのがドフレ家の誇りでしたから」


 ドフレ家をそう紹介していたセレナだったが、民乱を成功させてすぐに領地へ寄り人々を救ったのは海軍のためだった。

 そして今、その結果物が目の前に現れたのだ。

 軍船が近づくにつれて最前列の艦隊にエイントリアンの旗が掲揚されているのが見えた。

 そして、その前に立っていたのは、旧ドフレ家の人々を糾合しエストレンの王都から第一艦隊を占有して戻ってくるという任務についたユセンとギブンだった。

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