第100話
ご無沙汰しております。
近況ノートでも明らかにしましたが、まもなく書籍版第6巻が発売され、第7巻も完成し、今年中に書籍版として出てきます。
健康問題でとても久しぶりに再開されて申し訳ありません。
忘れた方々が多いようで、久しぶりに本が出るので出版社と相談した後、カクヨムの公開部分をもう少し増やすつもりです。 一巻ほどの分量がさらに公開される予定ですので、よろしくお願いします。
また、私の作品の中で
コミックス累計販売150万部を突破した『僕の現実は恋愛ゲーム』の原作小説がカクヨムに公開されます。
こちらは完結まで連載を再開します。 コミックス版も後半に向かっているので、小説版も再公開を決めました。
以前なろうに連載されていた分を飛び越えて完結まで連載されます。
現在カクヨムで公開中(https://kakuyomu.jp/works/16818093074337563336)なのでたくさんの関心お願いします。
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第100話
「村に潜入するですって?」
「そうだ。そのために……戦乱のさなか全てを失った夫婦を装ってもらおうと思う」
「夫婦!?」
セレナはかなり驚いた顔で俺を見た。
「嫌か?」
「いや、嫌というか……私は既婚の身ですから……」
「そんなのは身を売られたようなものだ。まともな婚姻とは言えないだろ。それに本当に結婚するわけじゃないぞ。夫婦のふりをするだけだ」
「それはそうですが……わかりました。たまにはこんな幸せがあってもいいですよね! やりましょう! ヘヘッ」
飛び跳ねるセレナ。よほど機嫌が良さそうだった。
「あっ、その前に」
俺はそんなセレナを止めた。近くで煙が上がったのだ。いわゆる狼煙だ。
それに応じて俺は二本の煙を上げた。
「何されてるんですか?」
「合図さ。エイントリアンから人を呼んであるんだ」
「なるほど! エイントリアンの他の方にもお会いできるなんて、緊張します!」
自称ファンというだけあって緊張で顔が強ばっていた。
「そんなに緊張する必要のないやつらだ」
「っ、誰なんです?」
俺は肩を聳やかした。こうした村への侵入に最適の人材がいる。
俺はこの世界の村に不慣れだ。エイントリアンの家臣の中でも慣れているのはやはりジントだった。
ただ、ジントを一人呼んでもどうにもならない。まともな社会生活ができるやつではないから。
だからミリネを一緒に呼んだ。
彼女ならこの任務に適任だった。
煙で俺のいる場所を知らせたから間もなくやってくるだろう。
緊張した様子で道の向こう側を眺めるセレナ。しばらくして馬の蹄の音が聞こえると待ちわびていた二人が登場した。
「領主様! あそこに領主様がいらっしゃるわ! 早く馬から降りて!」
俺を見るなりミリネはジントにあいさつをさせた。
ジントは社交辞令を言うようなやつではないが、ミリネが一緒にいる時は小言を嫌がる顔はしているものの俺に頭を下げる。
「よく来た、ご苦労」
この後ルシャクを始末する上でもジントは必要だった。だから、この二人を呼んだのだ。
ミリネは、俺の後ろで借りてきた猫のように緊張した様子で立っているセレナを見つけては首を傾げた。
「領主様、その方はどなたさまですか?」
「新しい家臣だ。ドフレ・セレナという」
「ああ、っ、貴族の方でしたか」
フルネームを聞くとむしろミリネの方が緊張した様子で口籠った。
「違います! 貴族出身ではあっても今となっては何の取り柄もない逃亡者です。お話はたくさん聞いています。本当に素敵です!」
二人のことを知っているのか、セレナはとても幸せそうな顔で手を組み興奮を隠せなかった。
「ミリネ、毎回言うが君もジントも貴族同然だ。国を宣布すれは爵位も与えられるだろうから、その自責の念を捨てろ」
「その、それが……思うようにうまくいかないんです。ヘヘッ」
ミリネが明るい表情で頭を掻いた。
「できないことはないはずだ。貴族など何でもない」
すると、隣でジントが愚痴をこぼす。当然にもミリネはそんなジントの足を踏みつけた。
「とにかく話した通りだ。しばらく村に潜入するから協力してほしい」
「エリウ村ですよね?」
セレナが知っているかのように尋ねた。
「その村について知ってるのか?」
「はい。かなり有名な村長がいると聞きました。父とも何度か会ったことがあります。幸いにも私は会ったことがないので気づかれることはないでしょう」
まあ、気づかれることはないとしても問題はその目立つ美貌だ。
だが、それについては少し考えがあった。
暴徒に潜り込むわけでもなく基本的に善良な村に入るのだから。
それでも一応戦乱のさなかに逃げてきたという感じを出す必要はある。
「セレナ、ひとまず君は炭で顔を汚すんだ。みんな同じく、ここまで来るのに苦労したという感じを見せる必要があるからな」
「わかりました!」
ミリネが大きくうなずき二人は互いに扮装を助け合い、俺はセレナの顔に炭をつけた。
「きゃっ……ちょっと、くすぐったいです!」
艶めかしい声でそんなふうに言うなよ。
美貌を持つ女については、ユラシアのおかげである程度耐性がついたが、それでもやはりそれぞれの魅力があるもの。
「まあ、このくらいでいいだろう」
「では、あとは夫婦のふりをすればいいんですね?」
「そうだ」
「あの……演技は得意です。特に色仕掛けには一見識を持っています」
そう言ってセレナはまたもやにこにこ笑顔を見せた。
だが、どう見てもそこには偽りが隠れていた。
「セレナ」
「はい」
「さっき夫婦のふりをすればいいのかと明るく笑ったのは本物。そして、今の特に色仕掛けには一見識を持ってると笑ったのはそうじゃないな?」
「……」
セレナは不意打ちを食らった顔で俺を見た。
「つまり、演技だったってことだが。怖い女だな」
「……どうやってそれを見分けたんですか?」
「なんとなく」
「何だか悔しいです」
別に悔しがることでもないと思うのだが。
「領主様! 準備完了です!」
とにかく俺たちは準備を終えてエリウ村へ入った。村の入口からは畑の方で働く人々の姿が見られた。
彼らの視線が突然現れたよそ者の俺たちに向く。
村がなくなりいろんな噂が流れているせいで、よそ者への視線は優しいものではなかった。
そして、すぐさま村の男たちがこっちへ向かってきた。彼らは警戒心を露にしたままで俺に尋ねてきた。
「この村には何の用だ」
「避難してきた者だが入れてもらえる村を探している……うちの村は戦乱の巷と化しすっかり焼け野原となってしまった」
「住処を失ったのか?」
「そうだ」
「ふむ。悪いがすでに大勢の避難民を受け入れた後でこれ以上は無理だ。地方へ行ってみるんだな」
セレナの眉が動いた。彼らを動かすためにも王都付近の村への潜入は必須だと聞いていたはずだから心配になったのだろう。
村の男は外に向かって追い払うように手を振った。出て行けという意味だ。
二週間前に王都付近のほとんどの場所が廃墟と化し、生活の拠点を失った大勢の人々が他の村に移住していた。
だから、生き残った村も生活が困難なのは同じで、農地にも限りがあるためこうした反応も当然だった。
王都付近ではどの村へ行っても似たような状況のはず。
俺は切実な顔でもう一度その男のもとに近づいた。
「定着するまでの間に世話になる金は払う。このくらいでどうだ。全財産にはなるが……」
すると、俺たちを相手していた男の目が丸くなる。
だが、まさにその瞬間、彼らの後方から激しい叱責が下された。
「お前ら!!」
その声に一番前で話をしていた男はもちろん、後ろでじっと立っていた者たちも吃驚して肩を竦めた。
「っ、村長!」
男たちが道を開けると、村の奥から白髪の男が微笑みながら歩いてきては俺を上から下まで見た。
白髪ではあるが老人とまではいかず50歳から60歳くらいでカリスマ性のある顔をした男だった。
村長は登場するや否や持っていた杖で村の男たちの頭をとんとんと叩いた。
歩くのに不自由はなさそうだし、むしろあの杖は棍棒として持ち歩いているようにも見える。
おそらく、セレナが言っていた有名な村長っていうのはこの人のことだろう。
「皆同じ人間だ。生活に困っているのはどこも同じではないか。追い出すとはどういうことだ」
村長は男たちを叱ると再び俺たちを見た。
「よく来た。二週間前までは多くの難民が移住して来ていたが、最近はまた久しぶりだ。どこから来たんだ?」
「最近、王都の兵士たちが村を一つ消してしまいました。その村の出身です……。取引をしに他の都市へ行って来る間に村はもう……」
「村がなくなったと?」
「それが……どうやら反乱軍と関係が……」
俺が反乱軍の話を持ち出そうとすると村長は慌てて俺の口を塞いだ。
「死にたくなければ、その話は口にしないほうがいい」
「あっ、すみません!」
村の人々を虐殺してそれをもみ消すやつらだろうが、隠しても噂は立っているのか村長は俺に口止めをしながら大声を出した。
「まあ、とにかくこの村は幸いにも山を挟んでいるから焼畑もできる……なんとか食べていけるだろう。この村の人間はそれほど薄情ではない。あいつらは初めて見る人を警戒しているだけだ。むしろ焼畑をするには人手が多いほど良いからな。心配するな」
村長はそう言うと村の男たちを見た。村長の言葉は絶対的なのか彼らは何の反論もできずに頭を掻いた。
「その金はしまいなさい。後で必要な時に使うといい」
村長は杖をつき、村の男たちに向かって指示を出した。
「案内を頼むぞ。開墾作業をさせて、終わったら畑を渡し、暮らしの手立てを講じてやるんだ」
「は、はい……」
彼らが返事をすると村長は微笑みながら村の奥へと消えて行った。
それを最後まで見守ってから、さっき最初に話しかけてきた男が俺のもとへ近づいて来た。
そして、密かに囁く。
「だけど、記念に少しだけ金貨をわけてくれないか?」
「金貨を?」
「いや、今のは気にするな。ハハッ。俺はメロルだ。ついて来い」
「うん」
俺とセレナは彼の後に続いた。
ジントは村の男を目で殺す勢いで睨みつけてそれをミリネに阻止された。やはりミリネを一緒に呼んだのは正解だった。
村の中へ進んで行くと倉庫のような木製の建物の前で男が足を止めた。
「君たちのように他から初めて来た人たちが少しの間世話になる建物だ。時間が空き次第、家を建ててやるからな。とりあえず、男はあそこ、女はあの建物で過ごせばいい」
その指さした先へ行ってみると木材が置いてある空き地があった。
村長のおかげか本当にいろいろ面倒を見てくれるようだった。
まあ、村人も悪い人たちではなさそうだし。
王の政策によって国全体が人情に厚くなったり薄くなったりすることはあっても、結局こんな小規模の村は村長の政策により大きな影響を受ける。
完全に門前払いをする村も多いはずだ。そうした面から見ると、それなりに村の選択は間違っていないような気がした。
「今は誰もいない。みんな作業に出たからな。ついて来い。先にあいさつをしておこう。それと、そっちの二人は畑へ行ってみろ」
メロルは俺たちを分離した。ミリネは畑という指示にうなずいた。そして、セレナの手を引く。
「セレナさん、私たちはあちらのようです」
貴族だからと気兼ねしていたが、うまく演技をしろという俺の言葉にミリネはセレナにとって頼もしい存在になろうと努力しているところだった。
俺たちはおとなしくメロルの後について行った。
着いた場所は村の裏山付近にある岩山だった。
10人余りの男たちが巨大な石、小さな石、中くらいの石を掘り出して開墾作業に取り組んでいる現場だったのだ。
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