第91話 遥香と綾の昼休み

 side:遥香



 学校のお昼休みに綾ちゃんとお弁当を食べていたんだ。

 この時に言えてなかったお礼を伝えた。


「綾ちゃん、ありがとう。吉住くんと一緒に行けたよ」


「ちゃんと誘えたんだ。良かったね」


「うん! 楽しかったよ」



 数日前、綾ちゃんにバイキングの食事券を貰ったんだ。



「この食事券を遥香にあげる。吉住くんと東光大学に見学に行くんでしょ? その日に誘って行ってきなよ」


「綾ちゃん……でも、これって田辺くんを誘うって言ってた店だよね?」


「この前のお詫びだよ。だから受け取って」


「お詫び? 何の?」


 私は綾ちゃんがお詫びって言ってるけど、何の事か分からなかった。


「ほら……吉住くんの事……この前の試合の日の……グランドの裏で……」


 私が泣きながら邪魔しないでって言っちゃった事だよね……

 私も言い過ぎちゃったと思ってたんだ。


「私も言い過ぎたよね……ごめんね」


「ううん。私が悪いのよ。心配だっただけで、遥香の邪魔する気はないから……応援してるんだよ? だから、吉住くんと行ってきなよ」


「綾ちゃん……うん。ありがとう」



 本当は田辺くんと行きたかったんだと思う。だけど、綾ちゃんは私に食事券をくれたんだ。


 私も綾ちゃんに何かお返ししたいな……


「それで、バイキングはどうだったの? 吉住くんとは何か進展した?」


「進展? そんな事は考えてなかったよ」


 あの日って何があったかな?

 確かバイキングのお店に入って席に座ったでしょ? それから料理を取りに行ったんだよね……


 吉住くんはお肉を取ってて、多くお皿に載せすぎたから私の魚と分け合いっこしたんだよね。


 あれ……?


 分け合いっこって普通じゃないよね?

 あの時はお互いのお皿から食べ合って……

 何も思わなかったけど、恥ずかしい事をしてたかも……


「遥香? どうしたの? やっぱり何かあった? 顔が真っ赤だよ」


「綾ちゃん……あのね……」


 私は綾ちゃんにバイキングでの出来事を話した。


「えっ! 遥香がそんな事をしたの?」


「うん。したよ」


 綾ちゃんは凄く驚いてる。

 そうだよね……中学から綾ちゃんと一緒だけど、私が男の子と遊ぶどころか話す所も見ないと思うもん。


「……やっぱり私って変かな?」


「変じゃないよ! 驚いただけ……もしかして吉住くんと今まで何度も会ってたの? そういえばクリスマスも一緒だったよね? 今まで何があったの?」


「えっと……」


 私は綾ちゃんに吉住くんとの事は内緒にしてたんだ。

 クリスマスに吉住くんと一緒に居た所を綾ちゃんに見られたけど、それ以外は知らないと思う。私も言ってないし……


 吉住くんの事が好きだって綾ちゃんに言っちゃったから教えても大丈夫かな?


 もう邪魔しないって言ってたし……

 本当に大丈夫だよね?



 そして私は綾ちゃんに吉住くんと出会った日の事から、この前のオーケストラに行く予定だった日の事まで全て話した。


「そうだったんだ……遥香が吉住くんを好きなのは凄く分かったよ。でも……吉住くんって……」


「綾ちゃん。吉住くんが何かあった?」


「ううん。何でもない、私は遥香を応援してるからね」


「うん。ありがとう……綾ちゃんにも何かお礼を返したいんだけど、何かある?」


「そうだね……何か田辺くんが喜びそうな物ってないかな?」


 田辺くんが喜ぶ物……?

 私は田辺の事を良く知らないよ……

 どうしよう。綾ちゃんには何かしたいんだけど……


 あっ! そうだ! あれに誘ってみよう。


「綾ちゃん。あのね……それなら修学旅行の時に一緒に神社に行かない?」


「神社に? 恋愛成就のお願いに行くの?」


 うん。それも調べたから行くよ。

 でも違うんだ……


「スポーツの神様が居る神社があるんだよ。サッカーとか野球をやってる人が必勝祈願に行くんだって。そこに一緒に行こうよ」


「そんな所があるの? 行く! 絶対に行く!」


 修学旅行は6月末に京都と奈良に行く。

 予選は7月だって言ってたから、御守りを吉住くんにお土産で渡そうと思ってたんだ。


「そんな場所を調べたんだね。どんな名前の神社なの?」


「えっとね。ちょっと待ってね……」


 私はスマホを取り出して、神社のページを綾ちゃんに見せた。


「白峯神宮っていうんだ……成績向上に……怪我からも守ってくれる……それなら私の分も買おうかな。陸上で足を痛めちゃったし」


「うん。吉住くんも前に足を怪我しちゃったから。あとは成績向上……それって甲子園でしょ?」


「ふふふ。遥香……それって、私以外に同じ学校の子に言ったら駄目だからね。この学校は甲子園常連校なんだから」


「綾ちゃんにしか言わないよ。だって田辺くんを応援するんでしょ?」


「もちろん! 私は田辺くんの応援をするよ!」


 綾ちゃんは自信満々で田辺くんを応援するって言っていた。

 でも、声が大きいよ……


「田辺って……陽一郎の事か? 西川さんは西城を応援するんだー」


「俺達は同じ学校だし、東光を応援して欲しいけどな」


 ほら……声が大きいから森下くんと奥村くんに聞こえちゃったよ。


「大丈夫! 野球部の応援には行くから!」


「ふーん。西城と対戦になったらどうするんだ?」


「東光の応援席で応援してるに決まってるじゃん!」


 綾ちゃん、西城との試合になったら東光を応援するんだ……


 私とは違うんだね……


 森下くんと奥村くんは、部活の用事があると言って教室から出て行った。


「はぁ……野球部の人に聞かれたのは焦ったよねー」


「綾ちゃん。大きな声を出すからだよ……でも、西城と試合の時は東光を応援するんだね」


「えっ? 何で? 田辺くんの西城を応援するって言ったじゃん」


「だって、さっき言ってたよ?」


「東光の応援席で応援してるって言ったんだよ。東光の応援席で西城を応援するんだよ。遥香もでしょ?」


 綾ちゃんは堂々と言ってるから面白かった。


「ふふふ。そういう事だったんだね。うん、私もそうだよ」


 応援は学校行事だから西城のスタンドには座れないんだよ……


「とりあえず、吉住くんの事は分かったよ。日曜日は水族館に行くんでしょ?」


「うん。お弁当も持っていくんだ」


「遥香のお弁当かー。私も食べたいなー」


「じゃあ玉子焼きあげるよ。はい、どーぞ」


「うん。美味しいー!」


 綾ちゃんは私が差し出した玉子焼きを食べて喜んでくれている。


 吉住くんも日曜日のお弁当を喜んでくれたら良いな……


 そう思いながら残りのお弁当を食べた。



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最近は投稿時間がバラバラになってます。

明日は書けたら昼に投稿しますが、書けなかったら夜になります(*T^T)

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