第83話 2人でバイキング

 正門の受付で相澤さんが返却手続きをしてくれている。


 俺は振り返って、さっき見学をしていた大学の施設を眺めていた。


 この地域では一番大きいってだけはあるよな。他の大学は知らないけど、やっぱり東光大学より規模が小さいんだろう。


「吉住くん。どうしたの?」


「大きかったなって思い出してたんだ。見に来れて良かったよ。ありがとう」


 相澤さんが見学の事を言ってくれなかったら来れなかった。

 学校でも行ける事になったけど、それは今日の見学があったからだと思う。


「まだ見たかった?」


「大丈夫だよ。行こうか?」


 俺達は大学を出て、西城駅前に向かった。これから食事か……そういえば何の店なんだろう?


「相澤さん。今から行く店って何が食べれるの?」


「イタリアンのバイキングだよ。チケットに書いてあるよ。ほら?」


 相澤さんからチケットを手渡された。


「バイキングか……」


「バイキングは嫌だった?」


 下に何が食べれるか書いてあるのを見ていただけだったけど、もしかしたら嫌と思われたって感じたのかな?


「嫌じゃないよ。バイキングは皆で行く事もあるから……今メニューを見てたんだ」


 パスタとピザにオードブル。後はデザートって書いてある。


「種類が多そうだよね。楽しみだねー」


「そうだな。バイキングは焼肉しか行った事がないから楽しみだよ」


「ふふふ。男の子だねー。いっぱい食べそうだもん」


「いっぱい食べそうに見える? 普通だと思うよ?」


 相澤さんは俺の「普通」って言葉に驚いたみたいだったが、嬉しそうな表情を向けてきた。


「食べそうに見えなかったけど、食べるんだなって思ったよ? この前のお弁当を全部食べたんだもん」


 この前の弁当か。

 あれは全部食べたんだ……

 普段はあんなに食べないんだけど……


「美味しかったからね。普段はあそこまで食べないよ」


「うん。ありがとう……」


 水族館に弁当を持っていくって言ってたよな? 一応言っておいた方が良いのかも。


「水族館にお弁当って言ってたよね? 量はあそこまで無くて良いよ? 美味しいから、あったら全部食べちゃうし……そしたら動けなくなるから」


 俺は笑いながら相澤さんに伝えた。

 少なくって言った事に変な考えを持って欲しくなかったから……


 美味しいくて、あったら食べてしまうのは本当だ。


「分かってるよー。あの時は頑張ってたら作り過ぎてしまったんだよ。私も吉住くんが食べ過ぎて苦しそうなの見てたもん。だから、あそこまで作らないよ……あっ! でも……量は少ないけど品数は作るから期待しててね」


「うん。ありがとうって言いたいんだけど、無理しないでね? 寝不足で水族館が楽しめないのも悪いし」


「前の日から作るから大丈夫だよ。水族館って日曜日でも良い? それなら土曜日に作れるからね」


「大丈夫だよ。日曜日を楽しみにしてるよ」


「うん!」


 嬉しそうに返事をした相澤さんはニコニコしながら前を向いて歩いている。

 俺はその姿を眺めていた。


 相澤さんと会わないとか考えられなくなってきてるな……


 この子しか俺には居ないんだと思う。

 言いたい……

 言っても居なくならないで欲しい……

 我慢できない所まで来てしまってるな。


「あっ! お店が見えたよ」


 相澤さんが指を差しながら言った先を見たると綺麗な店が見えた。


「本当だ。焼肉バイキングと違ってオシャレな店だね」


 店内に入って席に案内された。

 座席は二人用で、お互いに向かい合って座るタイプだ。


 店内を見渡したら座席は全て壁側にあり、中央に料理が置かれていた。


「それじゃあ行ってみようか」


「うん。楽しみだね」


 2人で料理を取りに行って、お互いに好きな物を皿に載せていった。

 バイキングだけど、高級そうだな……

 品数も多いし、大量に作ってる感じでもない。

 少量を何回も作ってるのか、全ての料理が作りたてだと分かる。


「あれ? 一緒だったね」


「本当だな。やっぱりパスタの好みが似てるみたいだね」


「前のパスタ屋さんでも迷ったのが一緒だったもんね」


 俺達の皿にはカルボナーラと明太子パスタが盛られていた。


 俺の皿には肉とポテトサラダとスープ。相澤さんの皿は魚と生野菜。一緒なのはパスタだけだけどな。


「ふふふ。やっぱりお肉なんだねー」


「肉を見たら食べたくなるよ。でも、相澤さんの魚も美味しそうだね。後で食べてみようかな」


 相澤さんは凄く笑っている。

 何がそんなに面白かったんだろう……

 変な事を言ったかな?


「どうしたの? 何か変な事を言った?」


「だって……お弁当の話の時、普段はそんなに食べないって言ってたのに、まだ魚も食べるんだって思ったら可笑しかったんだよ」


 相澤さんは俺の皿を見て笑っていた。

 確かに肉を盛りすぎたかもしれない。


「肉は取りすぎたかもしれないな。でも、これ位なら大丈夫だよ。冷めない間に食べようよ」


 俺達は食べながら感想を言い合っていた。俺の「肉が美味しい」って言葉に「美味しそうだもんね。どんな味付け?」って聞いてきた。

 だから俺の皿から肉を食べてもらった。「美味しい」としか分からないからな。

 代わりに相澤さんの皿からも魚を少しもらって食べたんだ。


 バイキングだから取りに行けばいいのに俺達は何で分け合ってるんだろう……

 そう思ったけど、気にしないで俺達は楽しく食べた。


「食べたねー」


「食べたな。肉を取りすぎたよ」


「ふふふ。あれは多かったよ? 面白かったけどね。でも、デザートはどうするの?」


「うーん。まぁ、あれ位なら食べれるよ。取りに行く?」


 俺は少し考えて答えた。

 確か一口サイズのケーキだ何種類もあったから、数個なら食べれるな。


 そして相澤さんとケーキを取って席に戻った。


「これ美味しい……」


 相澤さんはケーキを何個か皿に乗せていて、一つを食べていた。


 それを見た俺もケーキを食べた。

 確かに美味しいけど……


「うん。これは美味しいな……でも、俺は相澤さんのケーキの方が好きかも」


 確かに美味しいんだ。

 だけど俺には甘過ぎるんだよな……

 相澤さんのケーキの方が俺の口には合ってると思う。


「ありがとう。また作るね……」


 それからケーキも食べ終えて飲み物を飲んで休憩していた。


「相澤さん。今日はありがとう。本当なら音大の見学に行きたかったんでしょ?」


「ううん。大丈夫……音大は希望者が少ないからね。吹奏楽と管弦楽部で希望してる人達は、先生に連れて行ってもらう予定なんだ。でも、その予定が先で、私も早く大学が見たかったんだよ」


「そっか。でも、本当にありがとう。相澤さんが居なかったら、今日の見学はなかったからね。それに……楽しかったよ」


「うん。私も楽しかったよ」


 それから俺達は店を出て西城駅に向かった。西城駅は目の前で、日曜日の時間を決めてから別れて家に帰った。

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