第43話 その後の出来事


「寛人、昨日はどうだったんだ?」


 陽一郎と一緒に、試合のある野球場に向かっている時、昨日の学園祭の事を聞いてきた。


「相澤さんの事か? 普通に学園祭を見て回っただけだぞ」


「寛人。自分で気付いてないのか? 相澤さんの事になると楽しそうにしてるんだぞ?」


「相澤さんと一緒にいる雰囲気は好きだな。楽しいとも思ってるし、自覚はしてるよ。でも……俺は……」


「寛人……お前はまだ……」


 陽一郎には幼馴染の事や、西城市に来る前の事を話した事がある。恐らく遥香ちゃんの事を言いたいんだろう。


「相澤さんと会うと本当に楽しいよ。良い子だし、不思議なんだが……一緒にいると、俺が自然な感じでいれるんだ……陽一郎は幼馴染の事を言いたいんだろ?」


「ああ……前に聞いてたからな。寛人は女子と仲良くするけど、何処かで壁を作っていた。だけど……今回はその壁が見えないなって感じててな」


「今は練習には参加が出来ないから、文化祭が終わったら幼馴染に会いに行ってくるよ。母さんにも話をしたから……まぁ、相澤さんと向き合えるのはそれからだ」


「そうか」


 陽一郎は一言だけ返して何も言って来なかった。俺に気を使う必要はないのにな……話題を変えてやるか。


「そっちはどうだったんだ? 西川さんと……もう1人は山田さんだっけ?」


 触れてはダメだったのか? 陽一郎の顔色が悪くなってきた。


「はぁ……大変だったんだよ……西川さんは俺の手を引っ張って行くし、それを見た琢磨は『今度は陽一郎かっ! 俺と代われや!』と騒ぐし……気付いたら連絡先の交換をさせられてた……」


 琢磨はいつも通りとして、西川さん……相澤さんの為と言って、俺に一緒に行けと言ってたけど、本当は陽一郎と行きたかったのか?


「大変だったな……まぁ……頑張れ」


「寛人……お前にも責任を取って貰う。少し待て」


 陽一郎はスマホを取り出して操作を始めた。責任って……俺は何もしてない。何か分からないけど巻き込まないで欲しい。


 そして、俺のスマホに一通の招待の通知が入った。


「陽一郎、何だよこれ?」


「琢磨が騒いだって言ってただろ? もう1人……山田さんもいたし、メッセージのグループを作ったみたいで、俺達全員が入れられた。入ってないのは寛人と相澤さんだけだ」


 琢磨の悪ノリとはいえ、西川さんと山田さんも楽しそうに参加したらしい。俺と相澤さんも誘う予定だったみたいだ。相澤さんには西川さんと俺から伝える事になっていたようだ。


「俺はともかく、相澤さんまで巻き込むなよ。何で西川さんまで一緒になってやってるんだ?」


「西川さんは、相澤さんは男が苦手だけど、会話じゃなくて文字なら大丈夫だろうって言ってたよ」


「はぁ……もう分かったよ。俺からも言っておくよ」


 相澤さんには今日メッセージで伝えておくか。


「それと、和也と奥村もグループに入ったぞ」


「そうなのか? 奥村は連絡先を知らないけど、アイツ等って彼女達と同じクラスだろ? グループに入る必要なんてあるのか?」


「原因は寛人だ」


「何で俺だよ。意味が分からんぞ」


「家に帰った後に、西川さんから連絡があってな……寛人と相澤さんと仲が良さそうに歩いて行った後、和也と奥村の顔が酷い事になってたらしい。まぁ、クラス全員みたいだけどな」


 相澤さんと教室に入った時もそんな感じだったな。俺が相澤さんと仲良くなってる事と、教室に戻ったら陽一郎の腕を西川さんが掴んでいたのを見られたみたいだ。それで、接点のあった2人が「俺達も入れろ」って来たらしい。


 和也は中学時代の仲間だし、奥村も知らない奴じゃないから俺は構わない。でも、同じクラスなんだから相澤さんと話をしたければ話せば良いだろ……


 スマホを開いてグループに参加の所を押した。


「俺達も文化祭だな。俺や安藤と真田は何をするんだ?」


「チョコバナナの売り子をやって貰う。俺は実行委員の校内巡回や受付で不在が多いから、谷村さんに任せてる」


 3人に詳細を伝えていない。言ったら逃げるからな。当日はチョコバナナを提案した谷村さんにリーダーを任せている。問題があるなら言ってくると思うけど、順調に準備は進んでいると報告が来てるから大丈夫だろう。



 秋季大会の4回戦……


 今日の試合は無事に勝った。5対4だったけど、先発の木村さんと、リリーフの琢磨が不安定だった。前回投げた早川さんも登板になり、何とか逃げ切った感じだった。


 これでベスト8の進出が決まり、次は準々決勝だ。勝ち進めば東光大学附属と準決勝で対決する。


 次の試合は、文化祭が終った翌週の土曜日になった。それまでに監督や陽一郎と次の先発を決めなければならない。


 学校に戻り解散となって帰宅した。



「母さん、文化祭が終った翌週の土曜日が試合になったよ。その翌日に遥香ちゃんの所に行ってくるよ。住んでないかもしれないけど、居場所を知ってる人がいるかもしれないから」


「そう。遥香ちゃんが何処にいるのか分かったら良いんだけどね……」


 母さんにも行く日が決まった事を伝えたし、後は文化祭だな。東光大学附属の学園祭みたいに盛り上がったら良いな。



 相澤さんにはグループチャットの件は伝えた。「参加しても無理に会話に加わらなくても良いよ」と言った。何かあれば、俺か西川さんに直接言ってくれれば大丈夫だろう。


『ありがとう。何かあったら言うね。文化祭は土曜日に行くよ。綾ちゃんと優衣ちゃんも一緒に遊びに行くって言ってたよ。私も楽しみにしてるね』


 相澤さんは土曜日に来るのか……


 俺はバタバタしてるから会える機会は少ないだろうな……



 そして西城高校の文化祭が始まった。

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