第23話 分かっているけど…

 side:遥香



「うーん。始業式やっと終わったー! それにしても、久しぶりの学校って感じがしない!」


「綾ちゃんは夏休みは部活で昨日も来てたからだよ」


「でも、夏休みと新学期は違うじゃん!」


「まだ残ってた! 綾、遥香、久しぶりー」


「優衣ちゃん。久しぶりだね」


 彼女は山田優衣ちゃん。隣のクラスだけど、綾ちゃんと仲が良くて遊びに来ることが多く、私も仲良くなった友達。


「部活に行く前に会いたかったのよ!」


「私も陸上の大会が近いから、今から部活!優衣は何で部活なのよ?」


「学園祭に手芸部が展示するから、その作成で大変なのよ……遥香は?」


「私は部室に寄って用事を済ませたら帰るよ。私の方が先に終わるから先に帰ってるね」


 所属している管弦楽部の部室へ行き、用事を終わらせた。思ったより長かったけど、2人より早く終わったので帰ろうと正門へ歩いていた。


「あっ! 相澤さん! 今から帰るの? 俺達は今から遊びに行くけど一緒に行かない?」


「ごめんなさい……用事があるから帰るね……」


「そっか。また誘うから、今度は絶対に来てよ!」


 話した事もないのに、何で私を誘うんだろう。知らない人と居ても楽しくないし、話さない私と遊んでも楽しくないと思うんだけどなぁ……


 もうすぐ西城駅に着く頃に、今度は金髪の変な人が声を掛けてきた。


「君、東光の子? 何処か行かない?」


「……今から帰るので」


「帰るだけなら良いでしょ? まだ昼だし良いでしょ?」


「ごめんなさい。用事があるので……」


「少し遅くなっても大丈夫だって!」


 歩きながら断っても、着いてくるし帰ってくれなかった。綾ちゃんと居ると相手の人は直ぐ帰ってくれるのに、私1人だと強く言えないせいか諦めてくれない事が多い。


「遅くなってゴメン……」


 下を俯いていた私は「また誰か来た」と思ってたけど、「大丈夫ですよ」と声が聞こえきて「助けてくれたんだ」それに「聞いた事のある声だな?」と思いながら顔を向けた。


 吉住くんだった。同級生としか知らなかったけど、西城高校の制服を着ていた。話を聞いていると病院に向かうと言っていた。


 私もお婆ちゃんの荷物があった事を思い出して一緒に病院へ向かうことにした。


 お婆ちゃんの所で荷物を持って、忘れ物が無いか周りを見ていたら、今は空きベッドで誰も居ない、この前まで吉住くんの居た場所を眺めてしまっていた。


 私は助けて貰ったお礼をしていなかった事を思い出し、「まだ帰ってなければいいな」と思いながら帰る時に必ず会える、入口の所で待っていた。


 吉住くんはビックリした表情で私に話しかけてきた。さっきのお礼と言っても断られた。


 ケーキはそんなつもりじゃなかったのにな……


 私もお昼を食べてなかったので、駅前のショッピングモールに向かった。綾ちゃん達が居なくて良かった。男の子と話せない私が男の子と……それも他校の男の子と一緒の所を見られたら何を言われるか分からないからね。


 お金を払う時に用意をしていたら、吉住くんが私の分も払ってしまった……お礼だから私が払うのに……


 しつこく言ってしまって吉住くんに嫌な思いさせちゃったかな……と思ってたら「敬語を止めよう」ってなった。


 一番驚いたのは「吉住」でも「寛人」でも好きに呼んでと良い言われた事だ。


「寛人」だけは絶対にダメ……私が「寛人」と呼ぶのは1人だけだから。


 もうひとつ驚いたのは、あの時に怪我した男の子が吉住くんだった事。全く分からなかったな……


 学校や野球の事を聞いてなかったから、分からなかったのもしょうがないよね。


 でも、良かった……あの時、心配だったから。


 一緒にスポーツショップに行って、吉住くんとリハビリと野球のコーナーに向かった。


 私は初めて見る物ばかりで、あっちこっちと見ていたら吉住くんに笑われてしまった。


 私も興味あると見るし、楽しい時は笑うし、悲しい時は泣くよ?


 野球の事を話ている吉住くんは凄く楽しそうだった。いつもは冷静な感じで落ち着いてるのに、今の吉住くんは凄く笑顔で、新しい吉住くんを見れた感じ。


 吉住くんと初めてあった時の泣いた顔や、助けてくれた時、楽しそうな笑顔の時、困った表情を向けてしまった時に返してくれた優しい声……。


「吉住くん」と「ひろとくん」は違う。比べてはダメだし、失礼な事だと分かってる。私は吉住くんと一緒に居ると楽しいと感じてる。


 でも……


 自分の中で整理したはずなんだけどな……


 目の前のボールを見ていると思い出してし

まう。



 ひろとくんに会いたいな……



 大好きだったひろとくんに会いたい……



 ううん……



 今も大好きなのかも……



 でも吉住くんと一緒に居ると……



 ひろとくんが……ひろとくんが……



 私の中から消えそうになってしまう……



 私はボールを持ったまま変な事を言ってしまったみたい。


「俺だって楽しかった思い出もあるし、思い出すと今でも悲しくなる思い出があるから。だから気にしないで」


 変な事を言ったのに吉住くんは優しかった。それに彼にも悲しい事があったんだ……でも吉住くんは乗り越えたんだろうね……私も強くなりたい……


 私自身が少しでも前を向ける様にならないとダメだなって気持ちになって、吉住くんに「野球の事を教えて欲しい」って言ったら「野球に興味を持ってくれて嬉しい」と喜んでくれていた。



 私はベッドの上でスマホを開いて、アドレスに入った初めて男の子『吉住寛人』と表示された場所を眺めて、今日の出来事を思い出してたんだ。


 私はどうしたいんだろう……

 

 自分の気持ちが分からなくなるよ……

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