第17話 相澤遥香の記憶と想い

 side:遥香



「遥香ちゃん。退院したらチーズケーキが食べたいんだよ」


「お婆ちゃん。本当に好きだね」


 お婆ちゃんは甘い物が大好きだ。和菓子から洋菓子まで何でも食べる。病院で毎日食べてたら怒られたみたい。そりゃそうだよ……動かないのに食べ過ぎだよ……



 ケーキか……確か誕生日を病院で過ごすって笑って言ってたよね。何も知らないけど、吉住さんってケーキ好きなのかな?



「今年は誕生日のケーキがあると思ってなかったので凄く嬉しいですよ」



 変な言い方をしちゃった気もするけど、喜んでくれて良かったな。


「遥香ちゃんがケーキを作って、男の子に渡すって珍しいね」


 吉住さんは数日前に退院し、私は病院に荷物を取りに行った。お婆ちゃんは私が吉住さんにケーキを渡した事に驚いていた。確かに何でだろう?


 久しぶりに良く話した男の子だからかも知れない……それとも下の名前が同じだったから?



 彼は吉住寛人さんで桜井寛人くんとは違う……



『ひろとくん』じゃないのに…… 



 彼に会うと思い出してしまう……





「ひろとくん大好き♪」


「僕もはるかちゃんが大好き!」


 私はいつも隣に住んでいた男の子と一緒に居た。


 男の子の名前は「桜井寛人くん」


 生まれた時から小学2年生まで一緒に居た幼馴染の男の子。あの頃は……ううん、今もだけど、男の子は苦手で「ひろとくん」しか私の世界の中には居なかった。


 私は話すのが苦手だったので、同じ教室の男の子達から「顔を見せろ」とか「声を出せよ」とか何度も何度も言われた。


 今思えば、男の子が苦手なのはこれが原因だったのだと思う。


 寛人くんはクラスで一番背は低いけど、いつも何かあれば私を守ってくれていた。


 寛人くんはピアノを習い、私はバイオリンを同じ教室で習っていた。


 ピアノを弾いている寛人くんは真剣な表情をしていて、私と居る時の笑顔では無いけど、私は……普段と違う「ひろとくん」が大好きだった。


 今思えば、迷惑だったんじゃないか? と思う位、寛人くんにくっついていた様な気がする……


 幼稚園、小学校……全て同じ教室で出席番号が前後してるから座席も隣。



「桜井寛人」と「佐藤遥香」



「名前の「さ」も一緒だね」って笑い合ってたよね。


 寛人くんとは宿題も一緒にしていて、テストの点数も良かったので負けない様に私も頑張った。


 2年生の時だったかな……うん……確か寛人くんと最後に過ごした寛人くんの誕生日。


 私はお母さんと一緒に初めてケーキを作った。勿論、寛人くんへの誕生日ケーキ。


「ひろとくん、お誕生日おめでとう。今日はお母さんと初めてケーキを作ったんだよ♪」


 お母さんみたいに上手に出来ないけど喜んでくれるかな?


「苺のケーキだ! 美味しそう~」


 やっぱり喜んでくれた。


「食べもいい?」


「うん。お母さんが切ってくれるから待っててね」


 寛人くんと一緒にケーキを食べた。


 寛人くんは「美味しいね」「はるかちゃん凄いね」「また作ってくれる?」と笑いながら食べてくれた。


「また作るね。来年も一緒に食べようね」って笑い合ったよね。


 これが「ひろとくん」と一緒に食べた最後の誕生日ケーキ……


「また作るね」って約束したから何度も……何度も練習したけど、2回目は来なかった誕生日ケーキ……



 ひろとくん……何度も練習したんだよ?



 私は『ひろとくん』と過ごした日々を思い出していた。




 ひろとくんに会いたいな……



 いっぱい泣いたんだよ……



 私は一人でも大丈夫になったよ……



 今どこに居るのかな……



 やっぱり会いたいよ……



 どんな男の子になってるのかな……



 ふぅ……考え過ぎたらダメだね。吉住くんは吉住くん。ひろとくんとは違うんだから比べたら失礼だよね。でも、吉住くんに会うとやっぱり不思議な感じがする。


 あっ! 明日からの新学期の準備をしないとね。綾ちゃんにも連絡して待ち合わせの時間を決めなきゃ。


 明日から新学期か……

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