第6話 Only to you(6)

「はあ? んでそこで3時間もかかっちゃったの?」



志藤はおかしそうに笑った。



「それがね。 どれにしようか迷ってるとかそういう次元じゃなくてね。 もうハナっからわかんないんですよ・・。どれがいいとかそういうのが。」



高宮は大きくため息をついた。



「やっぱ普通の女子とちゃうな~。 加瀬は。 ジャージ見る目しかないんちゃうの~?」



なんて言われると悔しいが、あながち間違ってもいないので反論もできない。



「あ~、なんか楽しみやな~。 おまえらの結婚式。 おもろいこと起こりそうやし、」



「ワクワクしないでください・・」




「え、スピーチを?」



萌香は斯波にコーヒーを運んできた。



「絶対におれには振るなって言ったのに!」



斯波はものすごく機嫌が悪かった。



「そんなこと言っても。 あなたは加瀬さんの上司でしょう? 当然と言えば当然・・・」



斯波は二人の披露宴でスピーチを頼まれていた。



「加瀬はともかく! 高宮の方なんかなんかわからないけど、めっちゃ偉そうな人間ばっか来るみたいだし! そんな中でおれは何を言えばいいんだっつの!」



元々口下手な彼は、スピーチなんてことはできるだけ避けて今まで生きてきた。



管理職になり会議への出席も増えたが、絶対に自分から発言などしない。



誰も絶対に振ってくれるな、というオーラ満載でその場を凌いでいる。



「だいたい! こういう場合は加瀬を褒めちぎらないとならないんだろ? あいつのどこをそんなに褒めればいいんだっ!」



大きくため息をついて、額に手を充てた。



萌香はそんな彼がおかしくておかしくて笑いたかったが、怒られそうなので必死に堪える。



「普通に感じたままを言えばええんとちゃうのん? 加瀬さんだっていっぱいいいところあるし。 あたしはあの子のことたくさん褒める自信あるし、」



「そんな・・人前で、」



斯波は恥ずかしくなり口ごもった。



本当は。



彼女のことを今だって誰よりも心配をして。



高宮さんのご両親に会いに行く時だって、どうしても黙っていられずに乗り込んで行ってしまったし。



かわいくて仕方ないこともわかってる。



だけど、彼のことだから人前で・・しかもたくさんの人の前でそんなことを言うのは



何よりも恥ずかしいことに違いない。



全てもう彼の気持ちがわかってしまう。



「予定が早まらなければいいけど。 あたしも絶対に加瀬さんの結婚式には出たい。 みんなでちゃーんとお祝いしてあげないと。」



萌香は大きくなったおなかを撫でた。



「・・いたっ、」



彼女がおなかを押さえたので



「どした?」



斯波は心配した。




「もう最近すっごくおなかを蹴るんです。 今日もすごく動いてて。 男の子かもしれへん、」



萌香は幸せそうに微笑んだ。



「んー・・」



斯波は黙ってそっと彼女のおなかに手をやった。



信じられないけど



もうすぐ人の親になる。



少し怖いような



でも



やっぱりこそばゆいような嬉しさが沸いてくる。


大事な大事な


彼女と一緒にその小さな命を育んでいきたい。

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