救出劇

 適度な木に苦労しつつ登ると、俺は家から持ってきていた望遠鏡を覗き込んだ。


 開けた場所にテントが5、6個建っている。


 武器を手にブラつく男、昼間から酒を飲む男……外には10人ほどの人影がある。


 どいつもこいつも、えらく上機嫌な様子だ。荷だけでなく、高く売れそうな少年を手に入れたからかもしれない。


 さて、件の彼はどこに捕らえられているのか。


 俺は覗き込んだ望遠鏡をゆっくりと移動し、小さなテント前に、男がふたり立っているのを見つけた。

 見張りだろう。ということは、強奪した荷はあそこにあるに違いない。

 荷扱いされているならば、少年もそこにいる。


 俺は音を立てないように、そのテントの裏に回った。


 小さくテントに切れ目を入れて、中に入り込む。子供の背丈だからこそ出来る芸当だ。


 木箱の影に隠れてテント内の様子を窺えば、強奪したのだろう荷と、鉄格子があった。

 その中に少年がいた。加えて、口を塞がれ両手足を縛られた中年の男も。たぶん荷馬車の御者だろう。


 慎重に近付けば、すぐに少年が気づいてこちらを振り返った。


「あなたは……」


「レオンだ。大丈夫か?」


 俺を見て驚いた様子の少年に声を掛ける。

 彼は小さく頷いた。


「僕はアウロラと言います」


 互いに場違いな自己紹介を交わす。

 俺は、少年――アウロラを見て、胸を撫で下ろした。

 慰み者にされた、ということもなさそうだ。


「ん、んんー……っ! んっ!」


 御者の男が助けを求めて身体を揺らす。

 俺は唇に人差し指を当てて彼を黙らせると、鉄格子に向き直った。


 頑丈そうな錠が付いている。


「……参ったな。鍵開けは専門外なんだよ」


 鍵なんて握り潰してきたから、開けるという発想がなかった。


「ちょっと待ってろ。鍵、探してくるから」


 ふたりの見張りのうち、どちらかが持っているだろうか。それとも、全く別の男か。


 かなり難易度が高いミッションだ。


「待って下さい。鍵はいりません」


 と、抑揚の乏しい声が俺の思考を遮った。


「いらない? なんでだよ」


 首を傾げると、アウロラは自身の腰の辺りを軽く叩いて言った。


「むしろ杖の方が助かります」


「ああ、なるほど」


 捕まった時に、取り上げられたのだろう杖を取り戻せば、自分で何とか出来る、ということのようだ。


「んじゃ、杖探して――」


 言葉の途中で、ポンッと空気が破裂する小さな音がした。


「おこまりですな」


「まかせてちょうだい」


 そう言って、アウロラの隣で自信たっぷりに胸を叩いたのは、下級妖精たちだ。


「彼らが杖の場所を知っています」


 アウロラが言うと、妖精が再び消える。次いで檻の外に現れた。


「しらないことはないのです」


「つえはこっち。ほうせきは、あっち。たべものはそっち」


 妖精たちは散歩をするようなノリで、破いたテントの隙間に向かって飛んでいく。


「オーケー。付いてくよ」


 俺は急いで彼らの後を追った。

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