ガールフレンド・アーマーズ/惑星脱出

渡貫とゐち

第1話 序章【落下編】

 羽村はねむらわたるは一五歳の少年であり、修学旅行の最中であった。

 ――なのだが、彼は大空から真っ逆さまに落下し、大木の枝をクッションにして森の中、大きな泉へ激しく入水した。


 衝撃によって水飛沫が舞う中、彼の瞳が近くにいた一人の少女を捉える――。


 目をまんまるにしている彼女は、体を隠す余裕もなく、なにも身に纏っていなかった。

 そう、裸である。


 明るいベージュ色である長いリッチウェーブの髪が、両肩に乗っている。

 発展途上とも言える控えめな胸、痩せ過ぎではない細く引き締まった体。

 腰のくびれが、スタイルの良さを凡人にも理解できるよう、定規の役割をしていた。


 そんな彼女は、なぜか恥ずかしがりもせず、弥へ手を伸ばした。


「……あなた、大丈夫――」

「は? いや、ちょ――お、お前っ、なんで裸なんだッ」


 弥にしてはかなり乱暴な口調であった。


「……?」


 しかし、彼女はそう言われても、首を傾げているだけだ。

 見られることがおかしなことではない、とでも言いたげな表情には、警戒の色がない。


 彼女にとって男に裸を見られることは、どうってことないのだろうか。

 でなければ説明がつかない態度である。


「そんなに慌ててなによ、恥ずかしがることもないでしょうに。私とあなたは同じなんだから」


 そこに違和感があった。だが弥は正直、それどころではなかった。

 顔の前に手を広げて視線を逸らす。直視なんてできるはずもなかった。


「同じなわけ、あるかっ! 俺は男なんだぞッ!」


 その時だった。

 伸ばされていた彼女の手が素早く引っ込み、咄嗟に後ろへ引いた。


 だが、足が絡まったのか、バランスを崩した彼女が背中から水の中へ飛び込んだ。

 小規模な水飛沫の後、顔から肩まで出した彼女が上目遣いで弥を窺う。


「お、オトコ……?」


 さっきよりも警戒されている。顔も少し赤い、気がする。男と知って、羞恥心が生まれたのだ。泉の中に体を隠しているのがその証拠であった。


 弥を一目見れば分かるはずだが、というのは弥の価値観であり、常識だ。

 彼女は違う。だからこそ今のようなすれ違いが起こったのだ。


 ……この惑星ほしにはもしかして、男がいないのか……?


 弥の考えは当たらずとも遠からず、と言ったところだ。


「あ、あんた、本当にオトコなのっ!?」

「そうだけど……いや、だから――まず服を着てくれ頼むからっ!」


 長年、探し求めていたものの手がかりが見つかった、とばかりに興奮した彼女が弥の手を力強く握り、その体を近づけてくる。となると自然、水面上に彼女の体が出てくるのだ、取り戻した羞恥心をあっという間に忘れてしまっている。


 そして思い出せば、次に出るのは弥にとっては理不尽である、女の子の悲鳴である。


 鳥が数羽、羽ばたいていくような高い悲鳴が、もう一人の存在を弥に知らせた。


「プリムム、どうしたの? もしかして敵?」


 そう思うなら駆けつけるのが遅い気もしたが、もう一人の少女が姿を見せた。

 彼女が採ってきたのだろう、大量の果実を両手に抱えている。

 落とさないように気を遣っているので歩くので精一杯、のような状態だ。


「あれ? 誰? ――こんな子いたっけ?」


 首どころか、彼女は体全体が傾いている。タイプの違う、もう一人の女の子。

 そしてやはり勘違いされている。彼女もまた、弥を女の子だと思っているのだ。


「違くて、……オトコよ、ルルウォン」


 すると、背中に衝撃があった。水飛沫の後、弥の背中にもう一人の少女が張り付いたのだ。

 男と聞いても無警戒、まるでおもちゃを見つけた子供のようだった。


「えっへっへーっ、オトコのコ、初めて見たあー」


 背中には異常に懐いてくる少女がおり、

 目の前には手を握ったまま離さず、鋭い眼光で監視している少女――。



 羽村弥――、


 彼は現在、仲間とはぐれ、一人、『未知の惑星』に迷い込んでいる最中である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る