ガールフレンド・アーマーズ/惑星脱出
渡貫とゐち
第1話 序章【落下編】
――なのだが、彼は大空から真っ逆さまに落下し、大木の枝をクッションにして森の中、大きな泉へ激しく入水した。
衝撃によって水飛沫が舞う中、彼の瞳が近くにいた一人の少女を捉える――。
目をまんまるにしている彼女は、体を隠す余裕もなく、なにも身に纏っていなかった。
そう、裸である。
明るいベージュ色である長いリッチウェーブの髪が、両肩に乗っている。
発展途上とも言える控えめな胸、痩せ過ぎではない細く引き締まった体。
腰のくびれが、スタイルの良さを凡人にも理解できるよう、定規の役割をしていた。
そんな彼女は、なぜか恥ずかしがりもせず、弥へ手を伸ばした。
「……あなた、大丈夫――」
「は? いや、ちょ――お、お前っ、なんで裸なんだッ」
弥にしてはかなり乱暴な口調であった。
「……?」
しかし、彼女はそう言われても、首を傾げているだけだ。
見られることがおかしなことではない、とでも言いたげな表情には、警戒の色がない。
彼女にとって男に裸を見られることは、どうってことないのだろうか。
でなければ説明がつかない態度である。
「そんなに慌ててなによ、恥ずかしがることもないでしょうに。私とあなたは同じなんだから」
そこに違和感があった。だが弥は正直、それどころではなかった。
顔の前に手を広げて視線を逸らす。直視なんてできるはずもなかった。
「同じなわけ、あるかっ! 俺は男なんだぞッ!」
その時だった。
伸ばされていた彼女の手が素早く引っ込み、咄嗟に後ろへ引いた。
だが、足が絡まったのか、バランスを崩した彼女が背中から水の中へ飛び込んだ。
小規模な水飛沫の後、顔から肩まで出した彼女が上目遣いで弥を窺う。
「お、オトコ……?」
さっきよりも警戒されている。顔も少し赤い、気がする。男と知って、羞恥心が生まれたのだ。泉の中に体を隠しているのがその証拠であった。
弥を一目見れば分かるはずだが、というのは弥の価値観であり、常識だ。
彼女は違う。だからこそ今のようなすれ違いが起こったのだ。
……この
弥の考えは当たらずとも遠からず、と言ったところだ。
「あ、あんた、本当にオトコなのっ!?」
「そうだけど……いや、だから――まず服を着てくれ頼むからっ!」
長年、探し求めていたものの手がかりが見つかった、とばかりに興奮した彼女が弥の手を力強く握り、その体を近づけてくる。となると自然、水面上に彼女の体が出てくるのだ、取り戻した羞恥心をあっという間に忘れてしまっている。
そして思い出せば、次に出るのは弥にとっては理不尽である、女の子の悲鳴である。
鳥が数羽、羽ばたいていくような高い悲鳴が、もう一人の存在を弥に知らせた。
「プリムム、どうしたの? もしかして敵?」
そう思うなら駆けつけるのが遅い気もしたが、もう一人の少女が姿を見せた。
彼女が採ってきたのだろう、大量の果実を両手に抱えている。
落とさないように気を遣っているので歩くので精一杯、のような状態だ。
「あれ? 誰? ――こんな子いたっけ?」
首どころか、彼女は体全体が傾いている。タイプの違う、もう一人の女の子。
そしてやはり勘違いされている。彼女もまた、弥を女の子だと思っているのだ。
「違くて、……オトコよ、ルルウォン」
すると、背中に衝撃があった。水飛沫の後、弥の背中にもう一人の少女が張り付いたのだ。
男と聞いても無警戒、まるでおもちゃを見つけた子供のようだった。
「えっへっへーっ、オトコのコ、初めて見たあー」
背中には異常に懐いてくる少女がおり、
目の前には手を握ったまま離さず、鋭い眼光で監視している少女――。
羽村弥――、
彼は現在、仲間とはぐれ、一人、『未知の惑星』に迷い込んでいる最中である。
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