第5話 頼れる後輩

「ふんふんなるほどです。そういうことならば! そういうことでなくともモナンはもちろん先輩のお手伝いをすることを拒否する子ではないですよー!」

「回りくどいな」


 とまあ、なんだかんだとあり、地下研究所には今、俺と後輩であるモナンがいる。

 そして目の前には、高性能のパソコンが一人一台——、内臓されているのはもちろん食人鬼オンラインのソフトである。校長がそこまでやっていてくれたらしい。


 時間がかかる、と言っていたけど、用意するのは早く、あれからまだ夕方にしかなっていない。半日ほどで準備万端である。

 これで説明書通りに起動すれば、ゲームの世界に入れる、というわけだ。


「それでさ、もう一度だけ聞くけど、いいのか、モナン?」


「なにがですか? あれ? もしかして一緒についていくことに、今更ですけどモナンの心配をしてくれていますか? お優しいですね……惚れてしまうかもしれません!」


「違ぇよ。

 つうか、フラグなんて立ってないだろ……もし立っていたならすげえ折りたいんだけど」


「ひ、ひどいです……っ。これでもモナンは本気なのに!」


「本気なら両手で顔を隠すな! 

 指の隙間から見えてる唇が歪んでるんだよお前は! 笑ってんじゃねえか!」


「ぎくっ!?」

「口で言わないで。ぎくっ、は体で示してほしかった!!」


 あと、せめてちょっとくらいは体を動かしてくれ……。

 微動だにせず、ぎくっと言われても。


「はあ、まあいい。そんなことよりも」


「そんなことで片づけてしまえるんですね。モナンとの会話はそれくらいの価値でしかないと。

 ——ははあ、なるほどそうですか。

 やっぱり先輩はそういう人なんですね。見た夢の通りです……裏切りませんね、先輩は」


「まあ、それよりも」

「あれ!? 全然のってくれませんねスルーですか!?」


 モナンが跳んだ。

 ツッコミで跳んでいる――。


 構ってやりたいのは山々だが、こっちは余裕があまりない。

 そういう漫才をしている暇はないのだ。


「……相当、切羽詰まっている感じですか?」


「そういうことだ。それでさ、モナン。

 これからたぶん、アキバを見つけるまで、俺はゲームの中から出る気はないんだよ」


 一応、これは俺の意思だ。

 俺だけの意思であり、校長の意思ではない。


 あの人がダメだと言えばダメだし――でも幸いにも、校長は学校を休む許可を出してくれた。

 どうやら公欠扱いにはしてくれるらしいけど……(後々に補習はあるけどな)しかし公欠にするということは、正式にこの依頼を受けたことになる……、危険も伴うものだ。


 ないとは思うが……思いたいが、命懸けでもあるのだ。

 人の脳を平気で切って開こうとしている相手に(あくまでも想像だが)、そんな相手に俺は、挑もうとしているわけだ。


 モナンを巻き込む権利を俺にはない。

 嫌ならモナンは、逃げたっていいのだ。


 モナンの意思が最優先である。



 俺は、どっちでもいいと思っていた。

 俺のわがままだ――モナンが隣にいてほしいから、色々と、サポートしてほしいから。

 だからモナンを今、隣に置いているだけで……ただの俺のわがままなのだ。


 けれどモナンは、


「じゃあモナンも一緒にいきますよ。ついてきます、どこまでも。

 それに公欠扱いですし。この話題になっているゲームがずっとできて、しかも学校を休めるだなんてっ、良い条件じゃないですか!」


「危険があるんだぞ?」

「先輩は、モナンを放置しますか? 見捨てますか?」


 モナンは上目遣いで俺を見て。

 そして俺の服を、指先でつまんでくる。


 まるで、妹のようにも見えてきて――、守りたくなった。


 守れ、と、そう思った。


「……危険はあるけど、モナンを危険な目に遭わせたりはしねえよ」

「まあ、このゲームに関してはモナンの方が詳しいので立場は逆転すると思いますが」


「今の俺の格好をつけたセリフを返して!!」


 あげて落とすな恥ずかしい!!

 あがった俺も、落とされた俺も悪いんだけどさ!


「――先輩、それじゃあいきましょう」

「……ああ、そうだな――」


 モナンは一足早く、椅子に座ってパソコンを起動している。

 ゲームを、食人鬼オンラインを。


「モナンが作ったゲームの技術に似ているところがありますね――でも、そうですね、開発者さんには失礼ですけど、なんだかしょぼい、と感じます」


 これでしょぼい?

 俺はぜんぜん、そうは思わなかったけど。


 それはレベルが違うからこそ、理解できなかっただけだ。

 天才たちは、常人には理解できない領域に足を踏み入れている。


「博士を見つけるのは当たり前ですけど……そうですね、モナンとしては開発者さんにも会いたいですねえ――」


 と、モナンが言って、


「それじゃあお先です。先輩も早くきてくださいね――、ああ、あと、プレイヤーネームは【モナン】にしますので、先輩も【トンマ】でお願いします」


「了解」


「――?」


 それは、その言葉は。

 モナンの不安から、出た言葉だったのだろう。

 俺はそれに、さっきと同じ返事をする。


「了解」


 絶対に、失ってやるものか。

 アキバと同じ失敗はしない。

 後悔は、一つで充分なのだ。

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