食人鬼オンライン:科学の姫と奪還プロトコル

渡貫とゐち

実験1 アキバ・デリート(#実験6)

第1話 科学者は世界<ゲーム>にハマる。

『――こんな感じかな? 色々とツッコミたいところが多過ぎて言い足りないくらいだけど、このあたりがあなたが理解できる話でしょう? 分かってくれたかな――あなたのシステムには問題があり過ぎるの。他国あっちでは流行っているようだけど、それじゃあ日本こっちではあまり売れない。やる人はいるとは思うけどね……。それでもごく少数でしょ。少なくとも私は絶対にやらないから。

 まあ、それでもいいんだって、あなたが言うならそれはそれでいいんだけどね――ただ科学者、いや、開発者としてはどうなんだろうね……こうも同じ畑の人間から色々と言われたら、プライドが傷つくんじゃないの?』


『言ってくれるじゃねえか……ッ、チャットを希望してくるから乗ってみれば、ただのクレームだとはな。なんだよ、嫉妬か? てめえじゃあこんなゲームが作れねえからこそ、憧れが先行してこんな手を出しちまったってことか?』


『?? そう思いたければそれでもいいけど……人の意見をそうやって拒絶して、成長に使わないのはもったいないと思うけどね。それに、ゲームの基本的なところはあなたが考えたわけじゃないんでしょう?』


『……なに?』


『人の真似……いや真似ではないか。あなたの技術はパクリでしょ。ただのパクリならいいけど、あなたの場合はパクったものを自分が生み出した、と見せかけていることよ。人の手柄を横取りするなんて、本当に最低ね』


『おい、文章だからって、好き勝手に言ってんじゃねえぞ……ッ! これが、俺が生み出した技術じゃねえだと……? はは、これはおもしれえな。憧れ、嫉妬がそこまでの行動をさせるなんてな――お前の脳は研究価値がありそうだ!』


『つまり、証拠を見せろってこと?』


『まあそうだな――まさかここまで難癖つけて、証拠がないって言うつもりかよ』


『ふうん……じゃあ、はい。『♯/867peaceLot55/bolt/♯♯』で分かる?』


『は?』


『あなたが自分で作った、と言い切っているシステムの根底のところにある文字列だけど』


『……てめえ』


『――勘違いしないでね。私が作ったわけじゃない。私が思いつくよりも先に、その場所まで到達している子がいただけ。そしてその子は、いま私の近くにいるの。——偶然が重なっているだけ、なのよね』


『てめえは今、どこにいる……どこのどいつだ?』


『それこそ、科学者なら自分で調べなさいよ。データはあるんだから――あなたには努力が足りないの。向上心がない。

 上を目指して努力をする、ほんとにさ、誰かさんを見せてあげたいものよね――』


『後悔しても知らねえぞ』


『するのはあなた。まあ、どうぞご勝手に――なにをするにしても、責任は取りなさいね。それは科学者でなくとも、一から十まで負うべきなのよ』


『…………』


『それじゃあね、私は落ちるから。話がしたければいつでもどうぞ――』


 8/30:23:56:22/『――』が、ログアウトしました。


 ―― ――


 相手のログアウトを確認してから、私もログアウトをする。


「うう……っっ」と背中を伸ばし、息を吐く。背骨がぼきぼき、と鳴ってびっくりした。

 あまり外に出ないし、家、というか部屋でごろごろしているだけだから、鈍っている体が反応しただけだと思うけど――でも、思ってしまうのだ。


 栄養ドリンクは飲んでいる。

 ゼリー状のものもね。


 でも、さすがにそれだけでは体の調子は整えられないのか、異常が出ているのかも、と。


 まあ、科学者であり、色々と構造を知っている私としては、そんな心配は杞憂だってことは知っているけど……。不安ゆえに病院へいく発想に繋がるのだから、長生きするためには命のボーダーラインよりも手前で、生死の危機を感じるようになっているのかもしれないわね……。


「今日は三十日、か」


 三十日——、繰り返すけれど、三十日。


 つまりあと一日、夏休みがあるということだ。


 残り一日、なにをしようか――今までやっていたゲームを変わらずやる、って手もあるけど。

 しかし今日、久しぶりにログアウトしたのだ、始めたのって、いつだっけ?

 確か、八月の、下旬だったような――、一週間前くらい? たぶん、そんなもの。


 あの日が懐かしく感じる。


 トンマたちと一緒に、委員長の実家へいった、あの旅行。

 そう言えばあれから帰ってきてから、すぐだった気がする――このゲームにはまったのは。


 きっかけは、ただの情報誌だった。

 ぱらぱらとめくっていると、目が止まったのだ。一瞬だったけれど、それで私は興味を持ったわけだし、それくらい、あのゲームには『遊ぶ手前』に、魅力があったのだろう。


 そして、実際にプレイをしてみて。


 いや、つまらないってわけじゃなくて。やっている内にやめられなくなったから、全然、楽しめたんだけど、でも私としては――科学者としては、色々と言いたい文句があったわけで。

 口を出す資格は、ゲームを作ったことがない私にはないんだけどさ……でも、ついつい言っちゃったのよ……好きだからこそ、ね。


 直接、製作者と話をしてみて。


 あの様子だと、かなり頑固なタイプよね……。


 自分が正義。

 自分が最強——そんな思考回路をしていそうな人格が見えた。


 まあ、科学者というか、開発者なんてどれもがそんなものだとは思うけど。色々と言われたくらいで敵意を剥き出しにして――それって器が小さいようにも感じてしまう。

 相手は男、の気がする……だとすると尚更、器の小ささが目立つな……。


「なにかしてきそうな予感もする、けど――」


 けど?

 どうする気なのだろう……?


 私ほどの実力があれば、相手の居場所を割り出すことはそう難しいことじゃないけど(だからって簡単でもないんだけどね――だからぽんぽんとできるわけじゃないと、トンマに強く言いたい!!)相手にもそれができる、とは思えない。

 ああは言ったけれど、どうすればいいか分かりません……なんて、相手の心境はそんなものだと思う。一応、心配だし、トンマにボディーガードを……。


 いやでも、そこまではいいかな。


 一緒にはいたいけど、でも、心配かけたくないし、危険に巻き込みたくないし……。


 これは私の問題だから、自分で解決するしかない。


「あ、三十一日になっちゃったね」


 気づけば時計の針がてっぺんを越えていた。

 ああ、もう明日になっちゃったのか――今日、である。


 当然、宿題は終わっている。

 学校には、このままいける――このままなにもしなくとも……うん、大丈夫だね。


「もう一回くらい、ログインでもして――」


 そして、私は再び、ゲームを始める。


 後から思えば、このボタンが、私の人生を狂わせるボタンだったのかもしれない。

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