第32話 蚊

 蚊が部屋の中にいる。

 もう冬が間近なのに、蚊が居る?

 今日は、小春日和だからだろうか??


 叩き潰そうかと思い、壁に留まっている蚊に近付くが、蚊は逃げようとはしない?

 夏と違い、動きが鈍いのかも知れない。


(どうせ、この時期だ……)

(明日辺りには床に転がっていて、成仏しているだろう)


『命を大切に!』では無いが、圧死させる必要は無いかと不思議に感じて、私はその蚊を放置する事にした。

 この時期まで生きて来たのだ。

 私が、その命を奪う必要性は無いかと……


 ……


 翌日。

 あの蚊はどうなったかと思い、蚊が居た場所を思い出して、蚊の元に行く。

 ご丁寧に、蚊はまだ其処に留まっていた!?


(このまま、即身仏に成ったか?)


 私はその蚊に触ると、蚊は飛び出して、何処に行くかと思ったら、直ぐ近くに有る棚の横板に留まる。

 まだ、生きていた様だ。

 そのまま、私も蚊の側に移動して、良い機会だから蚊の観察を始める……


(お腹の中に黒い物が見える…。これは卵か?)


 蚊の雌雄しゆうに関しては全くの無知なので、何となくで思う。

 態々調べたいとは感じなかった。

 部屋の中には水辺が無いので、子孫を残される事は無い筈だが、雌だと考えるとやはり潰すべきか……


(けど、気が引けるんだよな……)


 夏時期の蚊の様に、積極的な動きも有る訳でも無く、ジッと留まっている蚊。

 本心では潰したいのだが、何故か手が動かない!?


『一寸の虫にも五分の魂』


 そう考えると、このまま行方を見守った方が良いのかも知れない!?

 それとも、やはり潰した方が良いだろうか?

 どのみち、この蚊の運命は餓死か、圧死か、凍死しか無い……


 この選択肢の中で、蚊は、どれを一番望んでいるのだろうか?

 どの選択も絶望的だが、家の中で子孫を繁栄させる訳には行かない!


 私は、その蚊の運命を天に委ねる事にした……

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