第三話
「父さん!どうだった!?」
空が真っ黒に染まるより先に父さんは帰ってきた。妹は父の帰りを待つと言って聞かなかったけれど僕が寝かしつけた。
「ああ、エヴァンズ。大丈夫だ、ちょっとしたことだからな」
「うん。そ、それならいいけど」
父さんは僕が無能なことを知ってる、昔森に入った時から僕のことを若干過保護に扱うのだ。嬉しいと同時に悔しかった。
「あー!腹が減った!糧食のクラッカーしか摘まむ時間がなかったからな。母さんも寝ただろ、なんか出してくれるか?」
「もちろん!任せて!」
僕は台所のコンロに火を、つけられなかった。忘れていた、母さんの魔法石で投影した火打ち石でいつも火をつけていたんだった。
「ああ、クソッ」
「……エヴァンズ、火は俺がつけるよ」
「あ、ありがと」
「気にするな」
父さんは煙草を吸わない、けれど森で火が必要な時のために火差しの魔道具を持っていた。これはかなり珍しいのだとよく自慢している。代々門番として村を守りながら村長もする家の家系に伝わる秘宝のようなものだろうか。
「出来たよ、父さん」
「おう、ありがとう。片付けば俺がするからお前ももう寝たらどうだ?」
「んー、そうだね。おやすみ、父さん」
「おやすみなさい」
僕は自分の部屋に戻り、窓から庭へと抜け出した。
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「シッ!」
今日メリル婆やに聞いた話を思い出していた。石を投げる、それなら僕の透明な屑石でも出来るじゃないか。もしかしたら石が壊れてしまうかもしれない。そんな心配もなかった。
「僕はそもそも、この家のお荷物だからな。」
たまたま村長だったから、父さんも母さんも僕を押し付けられたのだ。もし僕が死んだとしても最初は悲しんでくれるかもしれないけれど、いつかはそれが彼らを助けるだろう。
「って、あれ?」
投げた石が気づいたら手元に戻ってきた。もしかして魔法石は手放すことが出来ない?そりゃそんなことを気にする人間など今までいなかっただろう、なんせこの石を捨てる事はどんな得も無いからだ。
「これは!はっ!面白いぞ!」
夢中になって木にひたすら石を投げる。それが出来ることが僕には革新的だった。
「僕は、無能じゃない。僕は!無能じゃ!無い!」
狂ったように石を投げる僕を、後ろから父さんが見ていた。けれどそんなことはどうでもよかった。僕は無能じゃなかった、それが嬉しかった。
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