36度の記憶
水道から流れ出る水が心地よい生温さをしていて、それで夏を想う。
幼い頃入り浸ったプールを思い出して、もう二度と戻れないのだと思った。
濡れた髪から漂う塩素の匂い。カラっと晴れた日差しで乾いていくそれが、熱を孕んだ風に靡く様を、特別なものだとも思わなかった日々だ。
今の全てを否定したりしないし、それは無意味だとも思う。しかし無駄だとわかっていても、感傷に浸り、朧げな記憶に手を差し伸べたいと思う時くらいある。ふと思い出した記憶を、その瞬間に愛でて見返すことをしないのならば、今にも指の間を通り抜け宇宙の果てに、この世のどこかに、消えていくような曖昧なものを、今後いつ愛してあげるのか。
もう少ししたらまた忘れていく、愛おしかった私の過去よ。また夏の日に。
排水溝に吸い込まれる水と一緒に、きっとその記憶さえ流れ遠ざかるのだろう。
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