花子さんVSメリーさん、暁の最終決戦!!
山駆ける猫
上
『あんたとの長すぎた腐れ縁も今夜で終わりね……メリー』
『ええ、一切の慈悲なく成仏させてあげるわ……花子』
「花子、メリー、どうしてっ」
一人の少女の悲しく辛そうな声。
空から落ちる月光を見事に反射する左耳の上をヘアピンで止めた長い黒髪。
十月も後半、ボーダーTシャツと地味めのフレアスカートの上に桃のカーディガンを羽織って冷えを防ぎ、あどけなさが残る可愛らしい顔に備えられた、くりくりと大きな目の奥に宿す
十六歳女子高生、【
ここは深夜一時を過ぎた夜の高校グラウンド中央。乾いた土を踏みしめ対峙するのは二人の幼くも強大な怪異。
片方は赤いスカートに黒髪のおかっぱ頭な東洋顔の少女。
片方は薄ピンクのドレスに金髪ウェーブな西洋顔の少女。
灰色の瞳の東洋少女、青色の瞳の西洋少女。
怪異――トイレの花子さん。
怪異――メリーさんの電話。
日本で恐れられる両者、ファインティングポーズを決める姿には互いに対する確かな敵意が感じられた。
「二人とも喧嘩なんて駄目だよ! 仲よくしよ!」
耐え切れず琴早は仲裁の声を上げるが、現状は何も変わらない。
『悪いけど琴早もう我慢の限界なんだ、この西洋かぶれのパツ金は今日ここで土を舐めさせる』
『あら怖い怖い、けれど残念、泥をジョッキ一杯飲み干すのは雑巾臭い貴女よ』
(二人共、言葉が汚い!?)
『潰す!』
『上等!』
荒ぶる鳥類のポーズを決めるメリー、右手を天に左手を地に添える花子。
凄まじき力の波動が螺旋渦巻く中、立つのに疲れた琴早はグラウンドの端にちょこんと座った。
◇◇◇◇◇◇
森重琴早が霊感に目覚めたのは一年前。
夕方の下校中、突風にあおられて剥がれた選挙ポスターが顔に当たり、視界を塞がれたその背中にまたもや突風でベランダから飛ばされたプラスチックハンガーが命中。
押されてもたつく足元に通りすがりのノラネコが「ニャア」。ぶつかりバランスを崩した琴早は路上に頭を叩きつけた。
「ごっっ!!??」
病院に運ばれた彼女、幸いにも骨にも脳にも異常は無く、大きなたんこぶだけで事なきを得た……筈だった。
「何この人たち、ここにもそこにもっ……どうして誰も見えないの?」
退院の翌日から琴早の視界に新たに加わった存在、黒く身体を染め上げた人ならざるもの。
――それは、幽霊。
家でも外でも彷徨うそれらは自分だけが見える、恐らく怪我の影響で見えるようになったのだろうが奇異な目を向けられることを恐れ、誰にも相談出来なかった。
初めの内は幽霊にびくびく震えながら生活していたが、見えるだけで幽霊が何かして来る訳でも無い。偶に崩れたデッカイのが近づいて目を合わせようとして来たが無視してやり過ごした。
そんなこんなで気づけば幽霊にも慣れて学校生活を楽しんでいた彼女。
その頃になって彼女は、とある二人の怪異と運命の出会いを果たした。
ゴンゴンゴン! ゴンゴンゴン! ゴンゴンゴン!!!!
『あー、うっさいうっさい』
学校の女子トイレを住居としている有名過ぎる怪談、トイレの花子さんは腕を組みながらふてぶてしい態度で現世に姿を見せる。
『この花子様を呼び出すなんていい度胸してんじゃない、覚悟はできて――』
「誰かー助けてください! 水が止まらなくてドアの鍵も壊れたんですー!!!!」
女子トイレの個室内で涙目で扉を叩く琴早、そして背後で勢いよく水を吹き出すトイレタンクの給水管。
『は? ちょ、アンタ! 何私の寝床壊してくれちゃってんの!』
「うえ? きゃあああ誰ーー!!??』
それが花子との初めての出会い、協力して水漏れを直したびしょ濡れの思い出。
さらに四日後。
prrrr、prrrr、ガチャ。
『あたしメリーさん、今隣町にいるの、ふふふ――』
電話を伝い徐々に迫る都市伝説、メリーさんの電話。
今宵も彼女は善良な市民を恐怖のどん底に落とす。
「ううう、ぐす、だから下着の色は教えられません!」
『……へ?』
「だから『何色の下着をつけているのかな? はぁはぁ』って、何度も電話して来ないで、警察呼びますよ!」
『待ちなさい落ち着きなさい、人違いよあたしは変態じゃないわ、ああ泣かないで!』
それがメリーとの初めての出会い、協力して変態を懲らしめた勘違いの思い出。
こうして琴早はあちら側の存在と交流を深めて行った。放課後になるとトイレに遊びに行き、夜中になると自宅のベランダで会話を弾ませた。
『あっはっは、コイツまじでジョロキア喰ったよ、いや死ぬって』
「うわー顔真っ赤、あ、倒れた」
『アンタは何見てんの……って、料理動画? アンタ料理できんの?』
「うん、お母さん仕事で家を空ける日が多いから、私が代わりに作ってるの」
『ほーん』
都市伝説の間でもスマホが普及されているらしく、花子とはチューバー動画で時間に花を咲かせ。
『ええ、そう一度カップとティ―プレスにお湯を入れて温めるのよ』
「こう、かな、これで紅茶は美味しくなるの?」
『勿論、紅茶は温度が命。色と香りを最大限引き出す為には手順が必要なのよ』
「なるほどー、あっコンビニで買って来たクッキーあるから、お茶菓子にしようね」
『ええ、よろしくてよ』
メリーの趣味だという紅茶の入れ方を教わりながら女子力? を身に着けた。
荒っぽくも面倒見のいい姉御肌な花子、掴み所が無く育ちの良さを思わせるメリー。
日常からずれた怪異との触れ合いは想像以上に楽しく刺激的だった。
けれど、一つ問題があった。
『あ?』
『は?』
花子とメリー、二人が昔からの顔見知りであり。
『何でアンタがここにいるのさ、邪魔なんだけど?』
『それはこっちのセリフよ、本当不愉快な人ね』
それはもう超がつく程、犬猿の仲であったことだ。
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