山岡徹也に、隠し事は通用しない
練習場ピットテント
「わあ、結衣おねえちゃんだ!」
ワゴンRをグリッドラインに止め、結衣がテントに向かうとマミちゃんはようやくオレの膝から降りて結衣に向かって駆け出し抱きつく
他二人も結衣の所に行く
「みんなどーしたの?今の自動車部にアル吉いないって知ってでしょ?いつもみたいに隣に乗せても面白くないよ?」
「アル吉がいないから、心配だから来たんだよ!結衣お姉ちゃん、まさかこの車で大会出るの!?」
「アル吉より全然迫力ないよこの車」
ノブ君とゴロー君がめっちゃワゴンRを酷評してくるので、首を横に振り
「大丈夫、奈緒ちゃんと先輩達が新しいアル吉作ってるから安心して。今はまだ走れないからこの車は代わり」
そう言うとみんな目を輝かせて、より寄ってくる
「ホントに!?奈緒姉が作ってるの!?」
「速いの!?」
「カッコイイのになるの!?」
っと凄い質問責めしてくる、どう答えるかな…
どういう風に仕上がるかよくわかっていないものだから
「うーん、大会までのお楽しみかな・・あはは」
「ほれ、これが外装取り付けの完成予想図。昔、東北で行われた大会とか得意としてたメーカーのデータを参照に作ったモノだ」
3Dモデルの画像を写したタブレットを見せてくる徹也
アルト…アルト?と呼んでいいのかわからないイカツイ形状をした車がタブレットに写っていた
三人の反応は
「なにこれ!カッコイイ!」「前のアル吉より速そう!」「いつ完成するの!?」
めちゃくちゃ好評だった
そっと降りてきた優輝を迎える
「どうした優輝?そんなコソコソ降りて」
「いや徹也先輩、あの子達どうも僕には同類として見てるせいか、呼び捨てで呼んで来るんで」
困り顔で語る優輝。悩みか
「あー…なるほどねぇ、お前はどうも弟属性が抜けないから」
「そういう問題ですか!?」
「そんなことはさておいてだ、さっきの結衣の状態どうだった?」
優輝の悩みはどうでもいい、それよりも何よりも知りたいこと。インカムで呼びかけても反応しなかった結衣の状態のことだ
「言った通り凄い集中でしたよ、何も聞こえていない。感覚が研ぎ澄まされてるというか…ミラーどころかパイロンにもコーナーにも目が移ってないというか」
「お前、後ろにいながらそんなことも気づいたのか?というか見えてたのか?」
「バックミラーとか顔の動きでなんとなく…」
驚いた。いや、見立て以上の見る力を持っている優輝は
優輝は自分と同類の観察眼を持っているのは薄々気づいてはいた。本人は自覚とそれを活かす能力が不足しているが
優輝がドライバーに適にしていると思っているのはそれだ、もしかしたら自分と同類のタイプのドライバーになれるかも知れない
そして、優輝が視た結衣の走りの状況は少し考えられないものだ
「見ていない…そんなことあるのか?普通なら障害物の方かコーナーに意識は行くもんだぞ?」
「結衣先輩の隣に乗ってる時の先入観もあるんですけど、周囲にも神経が張り巡らせている…いや、繋がっている?ちょっと説明しづらいですけど、結衣先輩なら目を瞑っても走れちゃいそうな…そんなことはないですよね、すみません」
優輝は笑いながら言うが、つまりは
「…空間認識能力が相当優れている?」
「空間認識能力って…確か物体の大きさとか正確に把握する奴でしたっけ?」
「まあ、速いドライバー大概優れているもんだが…」
本当なら優れているとかそんなレベルじゃない
確かめてみるべきか?もしかしたら結衣の弱点を補えるかもしれない
「あ!優輝だぁ!」
「ゴフゥ!?ま、マミちゃん!いきなり背中に乗りかかるなっていつも言ってるだろ!」
マミちゃんの意外なジャンプ力で優輝の背中に乗りかかる。内気な娘だと思ったらすげぇ身体能力
「ずるいよ!優輝だけ結衣お姉ちゃんの車に乗って!私も乗りたい」
「そうだそうだ!僕もノブも乗りたいよ!」
騒ぎゴネる子供達に
「コラ!ワガママ言っちゃダメだよ!マミちゃんも優輝君を困らせないの」
結衣が言うと三人は「はーい」っと元気よく返事し、マミちゃんも優輝の背中から降りる
すげぇな、結衣の言うことは素直に聞くんだなこの子達
「結衣、優輝。しばらく休憩だ。子供達と戯れるなり遊ぶなりまかせる。そのうちにパイロン位置とか変えておく」
「いいの?」
「せっかく来てくれたんだ、程々にな。その間にパイロンの配置と追加目標を考えておくよ」
テントピットに戻り、机のパソコンでドローンでパイロンを動かしながら子供達と遊んでる結衣と勇気を眺める
「あの三人の子達に懐かれてんな結衣…」
「そういえば徹也君まだ知らないのかな?結衣ちゃんはあの子どころか商店街、いや蒼鷹町に住んでいる小・中学生、同年代や後輩に、結衣ちゃんに慕われているのよ」
「そうなんですか?」
自分の疑問に静恵さんは答える。意外な結衣の一面
「いつの頃だったかしら、蒼鷹町の年下の子とかの遊び相手とかになってたの結衣ちゃんは。大人顔負け…いや、超人的な運動能力があるもんだから子供達は結衣ちゃんをガキ大将…いや、ヒーローって言うべきかしら?イジメが起きれば、イジメっ子達を叱りやめさせる、ケンカが起きれば仲裁する。そんな娘なのよ」
「凄いな…それホントの話ですか?」
にわかに信じられない話で思わず口に出てしまう…というかどこかその行動に覚えがあった
「本当なのよね~それに商店街のお店とか手伝ったりとか、ボランティアを進んで行う。今は自動車部が忙しいからそんな姿を見ないけど」
「なんでそこまでするんですかね?」
「徹也君はこの蒼鷹町がかつてどんな町って言われたのか知ってるかしら?」
「…ホークマンが生まれた町で、彼が明かした数少ない素性の一つ。皮肉な話、自分が生まれた町で死んだヒーロー」
「徹也君も、ホークマンが好きなのね。ホークマンが生まれ、育った町…そう、呼ばれてたの。メディアとか取り上げれなくなってこの町に住まう人以外は忘れかけているけど」
「…思い出した。そういうことか、ホークマンの信条だ」
「悪を制する」のではなく、「悪いことは正す」それはホークマンが説いてきた自身の正義である
ヒーローは悪を倒して終わる勧善懲悪ではいけない、悪も救うのがホークマンの信条
イジメをやめさせる、仲裁する。結衣の行動はホークマンの影響なんだろう
「結衣ちゃんはホークマンが大好きだからね~、憧れかな」
「憧れでもそれを行動に移せるのは凄いですよ。なるほど、結衣の容姿と性格を考えればそりゃ子供に好かれる訳だし、優輝も惚れる訳だ」
「結衣ちゃんのようなお嫁さんなら歓迎なんだけど、ユウ君に口説き落とせるかしら〜」
母親からも応援されてる勇気、よかったドライバーチームに入れておいて
士気を高めるとか、そういう目的ではなかったが優輝の結衣への恋感情は落ち込んだチーム全体的の雰囲気を和らげることにはなった
まあ、自分を含めて周りがノリノリなのもあるが
練習は夕方まで続いた
せっかくだったので後部座席に子供達を乗せて走ったり、提案した練習法があっさりクリアされてしまったりとっと時間はあっという間だった
「それじゃ片付けするので、静恵さん、優輝。先に戻ってください。自分も後で寄りますので」
「あ、そうだ徹也君。帰りに何か商店街で差し入れ買って貰えないかしら?一日中リリスちゃんにお店任せきりだったし、奈緒も杏奈ちゃんもヘトヘトになっていると思うし…はい、これ」
ワゴンRに運転席から財布を出し、お金を渡す静恵さん
「構いませんけど、静恵さん達の方が早いんじゃ?」
「ほら、徹也君って商店街とか行ったことないんでしょ?ついでだから結衣ちゃんに案内してもらいなさい」
「それなら優輝も一緒に…」
そう言うとしたら、優輝が助手席から小声で
「徹也先輩、結衣先輩なにか抱えてる気がするんですよ。いや隠し事?ですかね」
「…薄々気づいていたが、半日、結衣を見ていたお前が言うなら間違いないか」
「僕だと徹也先輩の様に口達者じゃないので」
「わかった、上手く聞いてみる…優輝、期待した答えじゃなかったらスマン」
勇気は表情が赤くなり、「違う、そうじゃないと」言われ、ワゴンRに乗った二人を見送る
制服に着替えいる間に静恵さん達は戻っていた
「「「結衣お姉ちゃん!徹也お兄ちゃん!またねー!」」」
ノブ君、ゴロー君、マミちゃんを徹也君と一緒に見送る
「いい子達だな、将来有望だな」
「うんまあ…ちょっと勉強嫌いな部分があるからね、人の事言えないけど・・・ははは」
練習中は没頭していたが、今朝のことが頭に離れずにいた
「…結衣。お前、なにか隠してるだろ?」
「え!?」
唐突な徹也の問いに驚いてしまい
「い、いや、なんのことかなー」って下手に誤魔化してしまうが、徹也はこちらをじっと見てくる
「結衣…言いたくないことなら別に構わないが、言うべきか迷ってる表情だぞ?」
「…徹也には隠し事はできないね…いつから気づいてたの?」
観念するしかなかった。桜井先輩すみません、相手が悪すぎます。彼相手に隠し事と嘘は通用しないという気はした
「今朝会った時からで、さっき優輝にもなんか結衣の様子がおかしい的な事を言っていたから確信した。んで、何があったんだ?」
「実はね…」
今朝ガレージで起きたことを全て話した。桜井先輩には申し訳ないと思いつつも、心の何かは晴れた
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