結衣と子供達

アルト制作 2日目 大会まで残り17日


どうしてこうなった


榛奈自動車部 商店街チームガレージ


練習日、ガレージにドライバーチームは集合ということで早朝一番乗りに来た…筈だった

ガレージに既に先客がいた。バッチリ鉢合わせという感じ、先方も「あ」って声を出して固まってしまう

チェッカー端末を持ちながら


「さ、桜井先輩?」


困惑しながらも、名前を出せた。ラッシーチームの桜井鈴先輩だ

桜井先輩は端末を置くと、私の方に迫って両手で壁ドン


「桜井先輩!?」

「お願い結衣!今見たことを誰にも言わないで!見逃して!」


凄く必死にお願いする桜井先輩の気迫に負けて「は、はい」と情けない返事をしてしまった

そう言った後、桜井先輩は駆け足でガレージを出て行ってしまった

まさか女の子に壁ドンされるとは思わなかったし、それに桜井先輩凄く美人だからドキドキしてしまい我に返るまで少し時間が掛かった


「でも、見逃してって…どうしたんだろ?」


桜井先輩が置いたチェッカー端末を見る

セイフティーチェッカー 通称 チェッカー端末

1990年代から現在にかけて大半の車には電子制御化及び、電子ナノマシンオイルが至る所に張り巡らせている

異常があるか否かの診断する大きめの縦長のタブレット型の端末がセイフティーチェッカーである


数十分後、徹也と勇気君がワゴンRに乗せられて練習場に来る

運転席から降りてきたのは奈緒に似た美人さん


「あらあらやっぱり結衣ちゃんは朝早いのね~偉いわ~」

「静恵さん!」


箱崎静恵 年齢に見合わない容姿をしており初対面の時に奈緒のお姉さんなのかと間違える程

おっとりとした性格な人


「えっと…徹也、頭のタンコブどうしたの?」


降りてきた徹也の頭の上に漫画みたいなタンコブが出来ており、死んだ魚のような表情をしている


「奈緒にラチェットレンチでガン!ってやられた」

「奈緒ちゃんが!?」

「いや、アレは徹也先輩が悪いと思いますよ。気持ちはわかりますが」


数十分前、徹也が箱崎自動車に車を選び来た時の話だ

箱崎父はあちらでの作業と営業があるので手が離せないので奥さんである静恵さんに協力してもらうことにしたらしい

その際、奈緒と静恵さんを比較した徹也が


「箱崎パパ、静恵さんは2ZR系の4気筒エンジンのプリウスのような大人しくRX-7のような美人な方なのに、奈緒はシボレー系のLT系V8エンジンのようなパワフルかつ間接技を極める女の子に育つですかね?」

「う~ん…俺に似ているかもだが、俺なんかより凶暴だからな奈緒」


っと二人して言って笑ってた所を見られ、二人共奈緒に制裁を食らったとのこと

というかエンジンと車で女の子を例えるって


「RX-7だなんて、徹也君いいセンスしてるわ~」


そういえば静恵さんも同類だったっけ


練習場ピットテント


グリットラインにワゴンRをアイドルを掛けてスタンバイさせ、私はRPスーツに着替えた


「ふむ…どうして榛奈自動車部の女性陣は容姿のレベルの高い奴ばっかりなんだ?」

「ほら?心は乙女の上村先生が顧問だから、美容にアドバイスとかするし」

「後、基本素行の悪い生徒は自動車部には入れないからそういう点もあるんじゃないかしら~。中身もいい娘は外見も自然に綺麗になるものよ~」


正確に言えば、自動車部に入れないと言うより競技参加する為のライセンスが取れないということである

よっぽどなことがない限りは簡単にライセンスは取れるが、問題行動や犯罪行為を犯せば停止もしく剥奪がある

その為に大概stGTの参加チームの学生は学校やスポンサーによるが、素行に問題ない人物が大半である

一部例外はあるが


ドローンを端末で操作し、パイロンを各所のコーナーに設置する徹也

一昨日教えた練習法を続行するようだ


「さて、結衣。やることは一昨日と同じ1セット5周、だが今回は全開走行という訳にはいかないから、とりあえずパイロンを倒さいないように意識しつつ、車がどう動いているのかを考えながら走るんだ」

「どう動いているって…」

「まあ、やればわかる。これまでセンス任せの速さの走りから、徹底的に精密な走りを鍛える」


ニヤついて徹也は私を見る、楽しそうなのか


「優輝はワゴンRの後部座席のど真ん中にじっと座っていてくれ」

「座るだけですか?」

「そう、なんなら何か感じた事をメモするなりしていい。後で二人には報告書を書かせるからそん時役に立つ」


徹也の練習の思惑が全然読み取れず、優輝君も頭の上に謎マークが浮かんでいるように首を傾げる

「まあ、走ればわかる」という徹也にインカムを渡されワゴンRに乗り込む

なにげにこういう普通の車を動かすの初めてかも


1セット目

前日やって慣れていたのもあるが、オートマで操作の複雑さが減り、低速度なので難無くパイロンを避けて走りきる


「結衣先輩上手いですね」

「流石に2度目なら楽勝だよ、というか物足りないぐらい」


ホームストレートに差し掛かってそんなことを言っているとインカムから指示がくる


〈なら結衣、一旦グリッドラインで止まって。優輝、今度は左側の後部座席に座ってくれ〉

「左ですか?…あ、そういうことか」


優輝君は何か気づいてたように、左側後部に移り再スタート


2セット目 1周目

変化すぐ起きた、元々いやらしい位置に置いてあるパイロンだったが同じ感覚でいくと左コーナーに設置してあるパイロンを倒してしまう


「あ、あれ?」


その後も左コーナー関係なく、パイロンを倒しまくってしまい調子が狂う


〈結衣、一旦グリッドラインに。パイロンを直す〉


グリッドラインで止まり待機する


「な、なんで?さっきは上手くいったのに」

「結衣先輩、今僕が左側にいるから舵角を修正しないと」

〈優輝の言うとおりだ、結衣。車の操作は感覚だけじゃなく、意識して、対話するように覚えるんだ〉

「た、対話?」

〈物を言わぬ車に対話っておかしいと思うだろうけど、でも車はエキゾースト以外に声は発しているだ。サスペンションの伸び縮み、車体のブレに沈み込み、そういうのを考え、イメージをして走らせるんだ。いいか、車の走らせ方は他でもない車から教えてくれるがこちらから聞かなければいけないんだ。聞き逃すな、手入れされている車は必ず乗り手に応える〉


速く走る技術なら先輩や加奈ちゃんに教えられたけど、こんな精神論混じりの走りの技術を説く人は今までいなかった

でも、何故か説得力がある


2セット目 2周目

勇気君の言う通りハンドルの舵角を修正し、徹也の言うとおりに意識しながら走る。特にイメージしやすい足回りを

パイロンに当てるものの1周目程ではなく、3周、4周。

5周目にはズレが修正ほぼ完璧になりパイロンを倒さず走り切る


3セット目以降

練習はその繰り返し、後部座席の座る位置を変えながら行う


練習場ピットテント

座ってモニターで結衣の動きを見ながら、いつパイロンが倒れてもいいようにドローン操作の待機しつつ、インカムで指示する徹也と見守る静恵さん


「奈緒ちゃんと優君、パパの言うように徹也君賢いのね。この練習って荷重移動を洗練させる。限られた練習方法で効率がいい方法を思いつくなんて」


静恵さんはモニターとインカムの指示を聞いて、こちらの思惑を当てる


「結衣は速さに繋げる荷重移動は感覚で身に付いてるんですよ、それもトップレベルに。そこに車がどう動いているのかの理解力を深め、効率よく車を動かす力を鍛える」


ドラテクは荷重移動で始まり、荷重移動で終わる


「対話とは変な言い方だけど、間違いじゃないわけね~」


ちょっとカッコつけたかったとか言えないよな


「そんでもって…さっきからモニターを見ている君たちは一体どちら様かな?」


モニターと指示で集中していたせいで気づくのが遅れたが、小学生の低学年の女の子と中学年ぐらいの男の子の子供が3人程テント内に入ってきていた


「ねぇねぇお兄ちゃん、あれに結衣お姉ちゃん乗ってるの?」


いつの間に膝の上に乗っかっている女の子、モニターのワゴンRに指を指す


「壊れたって聞いたけど、もうちょっとかっこいい車用意できなかったの?」

「ほら、GT-Rとかスープラとか!」

「へぇ~ウチで用意した車に不満あるのかしら~?ノブ君とゴロー君?」


穏やかな表情ながら、おっかない雰囲気を出す静恵さんに子供達がドン引き。こえーよ


「よーし、とりあえず自己紹介しようか君たち。俺は君たちは初めましてだし、読んでる方も訳わからんし、筆者が面倒になるからまとめようか」


小学三年生の男の子はノブ君信君ゴロー君吾郎君、小学二年生の女の子のマミちゃん真美

近隣の榛奈小学校に通う、結衣に慕っている子供達だそうだ

商店街チームの土日の時間のある日はよく自動車部に遊びに来るらしい


「ふーん、なるほど君たちは結衣が好きだから通っているのか…ところでマミちゃん、なんで膝の上に乗っかるのかな?お兄ちゃん結構足痺れてきたんだけど?」


マミちゃんは降りてくれない


「商店街のみんなが心配して言ってたんだよ。アル吉が壊れてstGTに出れなくなるんじゃないかって心配で」

「アル吉?…もしかしてアルトワークスのことか?」


そういうとノブ君はうんうんと頷く。あの車アダ名あったのか


「ちなみに名前は私がつけたんだよ!」

「おお、そうかそうか。マミちゃんはエライな~お兄ちゃんの膝から降りてくれればもっとエライエライなんだけどなぁ~」

「えへへへ…」


頭を撫でて、褒めてご機嫌なマミちゃん。だけどマミちゃんは降りてくれない


「すげぇ徹也兄ちゃんに懐いてるな、マミ。人見知りで結衣姉ちゃん以外じゃ全然懐かないのに」

「ゴロー君、マミちゃん説得してくれない?結構シンドいんけど」

「やだ、徹也お兄ちゃん、結衣お姉ちゃんと同じだもん」


マミちゃんは頑として降りてくれない


「徹也君、結衣ちゃん呼ばないとマミちゃんテコでも動かないと思うわよ~この子達にとって結衣ちゃんはヒーローだから」

「さっきから結衣を呼びかけてるんですけど全然返事返ってこないんですよ…相当集中してんな」

〈徹也先輩、凄く声かけづらいぐらい結衣先輩集中してるんですけど…〉


優輝も困惑している様子だった…周りが聞こえなくなるぐらいの集中力、まさか結衣も可能性はあるのか?


「勇気、肩でも揺すってみろ。たぶん解ける筈だ…というかまじでなんとかしてくれ。俺の足が限界で電気が出そうなんだけど」

「えへへへへ」


頭を撫でられてご機嫌のマミちゃんに、足をプルプルして痙攣しそうな徹也

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