方針3
箱崎自動車 応接室
「おお、これはすごい。まるでジェットコースター見たいな感じだね」
3Dゴーグルをかけてコースを追体験している結衣
SGTのコースは1ヶ月前にどこのコースでやるか情報が開示され、動画サイト等に低空飛行のドローンによる飛行動画が公開される
その動画を3Dゴーグルのデータに入れている
「それでコースを頭に叩き込むつつ、どういう感じで走るかイメージで運転する様に見るんだ、漠然と動画で見るより効果的な筈だ」
そう言わなくてても、結衣はハンドルを握ってる様な仕草とペダルワークをイメージして足が動いていた
「こういうシュミレーターとかあった方がもっと効果的なんですかね?アーケードレースゲームみたいな」
「うーん、それも考えもんなんだよな。実際だとハンドルとペダルの感覚が違うからそれに慣れるのもな…それならある程度のイメージ程度の方がすぐに感覚の修正が効く」
「失礼するわよ?あら、結構盛り上がっていたかしら?」
そう言いながら上村先生が応接室に入って来る
「あれ?先生、杏奈先輩とエンジンオーバーホールしてたんじゃ?」
「私はメカニックとしてはは自信があるけどね、チューナーじゃないからね。あそこまで集中してる杏奈にどうこう言えないわ」
「なんです?その周りが見えなくなるみたいな…」
そう言いと、リリス先輩が思い出したように言う
「そういえば徹也に言ってなかった。杏奈、オーバーホール作業とかで集中すると本当に周りが見えないのそれも時間を忘れるぐらいには」
「エンジンを組む才能なら顧問の私より、上よ」
「なるほど、だからチューナーって訳ですか」
メカニックとチューナー、似ているようで異なるというべきか
「あとね、事故の衝撃でね使えなくなってる部品とかチラホラあったから。これがリストね」
上村先生はリストを渡してくる、名称に所にチェックがついてる
「エンジンは無事とはいえ、エアコンとラジエーター関連はやっぱダメでしたか…チェック付いてつのは予備があるとかそういうのですか?」
「話が早くて助かるわ」
「確かラジエーターは社外の大容量のものでしたよね?今から発注すれば間に合うかと」
「それを気になっていたの、エアロの図面見せてもらったけど…ボンネットはダクトなしのウレタン素材を使うみたいだけど、前置きのインタークーラーにするのかしら?」
通常のアルトワークスはインタークーラーは中置きであり、前置きになるとエンジンスペース的な問題が出てくるか
「フロントはそれ前提のものを発注してきたんですが」
「うん、まあ取り付けならどうにかなりそうだけどエンジン出力向上を狙えるなら今のままでいいのかって?」
「…MAXブースト1.2kgでしたっけ?落としてレスポンス向上を狙うって所ですか?」
「Exactly!その通り、わかってんじゃない!」
ライト級の馬力制限が300PSとなっており、純正の3倍以上の出力を出すことを認められている。ただしそれは排気量を変えないことを前提であり、ターボチャージを高回転、ブーストアップ程度のライトチューンでは足りず、エンジン内部に手を加えて出力向上を狙うのも必要になる
所謂、フルチューン
正直、K6Aエンジンで1.2kgのブースト圧であの出力を叩き出すは凄い。それにアクセルオンオフでのレスポンスも悪くない
「俺はあのエンジン仕様で悪くないと思ってるんですが…・」
「悪くないだけで、これ以上を望めれば望みたい感じ?」
上村先生の言いたいことがイマイチ把握しきれなかったが、リリス先輩はわかってしまったようだ
「ああ、そういうことですか先生。杏奈、今組んでいたK6Aに納得していなかったからこの際に納得いくまでやらせてあげたいって所ですか?」
「そういうこと、ただ不安はあるんだけどね…」
「…凝りすぎて迷走する可能性があると?」
「そこなのよね…」
改造車制作において100点満点納得行くかというそうでもない、特にメカニック側はあれこれなにか凝りすぎた結果、完成しなかったり、ドライバー側に不満のある車に仕上がってしまう所である
「あんまり表向きに言わないけど、芝君に対抗意識してますよね杏奈」
「芝君は天才って言わざるおえないようなチューナーだもの」
「芝先輩って…たしか、あの無口で図体が大きい?」
初日に会ったが、そのぐらいしか印象がない
「そっか、あのS660はまだ載せ換え前だったから…見れば…いや聴けばわかると思う。芝君が組んだエンジンはレベルが違う」
「そこまで言うほどなんですか?」
「うん…杏奈には悪いけど、そう評価せざるおえない」
「そうだ、徹也。ラッシーチームの練習見てくればいいのよ。昨日今日で載せ換え終わってるはずだから今なら走行して聴けると思うわ。一見は百聞にしかずって言うでしょ?」
上村先生は閃いたように提案してくる
「いいんですか?敵地を偵察するのは有りなんですか?」
「お互い手の内を知ってるから偵察の意味がないのよね。たまに見学してるし」
それは、どうなんだ
蒼鷹高校 敷地内
リリス先輩にドライバーチームを任せ、上村先生の車で蒼鷹高校へ
グラウンドではサッカー部や野球部が活動し、学校内も生徒が部活動をしてるのが見えた。
車でそのまま自動車部の練習場に向かうが、近づいて来ると響くエキゾーストを感じた
車の車内故に正確にはそこまで聞こえている訳ではない、ただ存在感を感じる
そして練習場に着いて車から降りると、リリス先輩が言った意味がもうわかった。なるほどそういうことか
練習場に響くエキゾースト…タイヤのスキール音すら打ち消すような体の芯に伝わる音、高揚感を唆る
すごいな、S07Aの直3エンジンでこんな音出せるもんなのか
「これ、ドライバーには堪まらないな。アクセル踏みたくなるようなテンション上がりますね」
「そう、高揚感をあるサウンドでドライバーのテンションを上げるエンジンを組んでしまうのが芝君なの」
自動車部練習サーキット場
コースを上見渡せる場所に行く。練習場には1台黒いS660が走っていた、全開フルスロットルでタイトなコース、コーナーを抜けていく
加奈ではない、アイツはもっと攻撃的な走りを感じさせる。なんというか落ち着いた走りをしている黒いS660
動き方に違和感を感じる、なんというかどこかで見たことあるような
「徹也!」
名前を叫んだ先を振り向いたら加奈ともうひとり女子がいた、確か一年生の子だったような
たしか斎藤千歳だったか
二人共レーシングプラグスーツを着ていた
「お邪魔してるわよ。いい調子じゃない?そっちの車は」
「ええ、上村先生のアドバイスとそっちのドライバーのおかげでほぼセットアップは決まってますね」
「千歳ちゃんも混ぜて練習してるわけね、千歳ちゃんどう?馴れたかしら?」
上村先生は千歳に話を振る、当人は困惑気味だが
「は、はい。ただ先輩達が凄すぎて足を引っ張ってるような気が」
「あら?加奈いじめちゃダメよ?オドオドしてるじゃない」
「違いますよ、千歳は引きこもり思案過ぎるの。もっと堂々すればいいじゃない、カート経験者なんだから」
結構、内気な性格なんだろうな千歳ちゃんは
「…あの黒のS660乗ってるのは、伊東先輩か。リーダーなだけに上手いな」
そう言うと加奈が「徹也」って呼ぶと、こちらに何かを投げ渡しできた
「白い方のS660のキーか?」
「見るぐらいなら、実際乗ってみればいいじゃない。それにこっちの部長はやる気よ?ホラ」
さらに無線のイヤホンを投げ渡す、イヤホンを耳に付けると
伊東先輩の声がしてきた
〈徹也、これから1on1をやるつもりだったが。どうだ?やらないか?〉
「いいんですか?手の内をわざわざ晒すようなことを」
〈構わないさ、俺としてはお前と勝負してみたかったんだ。見学した駄賃がわりとは言わないが〉
声だけだか伊東先輩は明らかに喜んでるテンションだった
「上村先生、いいんですかね」
「むしろよかったじゃない、直接あのS660に触れるんなら」
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