第15話

「あはははは! いいものを見せてもらったよ」


 ふと、声の聞こえた方を見る。さっきの赤毛の男だ。手を叩きながら大爆笑をしている。やはりとんでもなく失礼な人だ。


「お前、何そんな乙女みたいな顔をしているんだ」


 と赤毛の男が僕の顔を覗き込んできた。


「うるさいなぁ」


 僕は男を押しのけて立ち上がった。あまり顔を見られると、吸血鬼だということがバレてしまう。

 

「ハロルド、お前も呑気だな。のこのことこんな人前に出てきて」


 ピットが赤毛の男に声をかけた。そうか、この人はハロルドというのか。


「久しぶりだなぁ、ピット」


 この二人は知り合いだったのか。


「でも、お前は俺を捕まえようとしないだろ?」


「まあな」


 どういうこと? ハロルドは何か悪いことでもしたの?


「俺達も、なんだかんだ言ってこの国が気に入っているからな。お前を捕まえる必要がないんだよ。あれから二十年も経ったんだ。今更元の国に戻ってもねぇ」


 ピットがハロルドの肩を叩きながら言う。ちょっと待てよ。もしかして……


「嘘がつけないのはつまんないけど、みんながビリビリくらっているのを見るのは楽しいからな。今まで俺が嘘をついているのを軽蔑していた奴らだって、みんな嘘をついてるんだよ。その嘘が、大きいか小さいだけ。いやぁ、アイツらがビリビリで半べそかいてるのは、本当に愉快だったぜ」


「ハロルド、お前、ほんと性格悪いな」


 二人して大声でガハハと笑う。


「まあでも、そのおかげでハロルドが嘘をつかなくなったのはいいことだな。お前にとっては相当な罰だろう?」


「まあね。でも、みんな俺を王様に突き出さないってことは、なんだかんだ俺のことが好きだったんだよな。俺は悪い嘘もつくけど、いい嘘だってつく。ていうか、そもそもみんな王様のこと嫌いだっただろ? 俺は火に油を注いだだけ。反乱はどちらにしろ起こっていたんだ。それなのに、王様は全部俺のせいにしやがって……まあ、そのおかげで、UFOを飛ばしてからは、気が済んだのか王様も大人しくなったし、結果オーライだ。これ以上は王様も追ってこないし、王様は自分にも非があるって分かってんだろ」


「ふん、都合よく解釈しやがって。まあ、俺達もお前には感謝しているけどな。お前が、大好きな嘘をつけなくなるのを引き換えに、国が平和になったんだから」


「そうなんだよ! 全ては俺の犠牲と引き換えなんだ!」


 話を聞いていると、色々と繋がった。この国で嘘が重罪となったのは、このハロルドという男が原因なのだ。


「ねえ、聞いてもいいかい?」


 僕は声をかけた。


「おう、なんだ?」


 ハロルドは腕を組む。


「その、君はもしかして……」


 僕が質問する前に、ハロルドは察したかのように答えた。


「俺はハロルド。またの名を、『嘘つきハリー』さ」

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