第134話 外資系クレジットカード表現規制

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)



「ええいこんなもの! こんなもの!! お前なんか二度と使ってやらねえからな!!」

「うわっ何してるんですか氷室先生、それクレジットカードじゃないですか!?」


 ある日の放課後、帰宅しようと中庭を歩いていた私は司書教諭の氷室ひむろ河期こうき先生がクレジットカードをハサミでジョキジョキと切っている姿を目にした。


「いいんだ野掘さん、僕はこんなカードがなくたって現金で生きるから! でもあの同人誌はもう読めないんだ……」

「とりあえず落ち着いてください! 一体何があったんですか?」


 氷室先生は切り刻んだクレジットカードを屋外のゴミ箱に捨てると泣き崩れ、私はひとまず図書室に移動して事情を聞いてみることにした。



「……という訳で、昔から応援してた同人漫画家さんがピクスティブの規約が変わったせいで投稿をやめちゃったんだ。マックスカードっていう外資系クレジットカード会社が児童ポルノとか残虐描写に厳しくて、今後ピクスティブではそういった作品の販売が禁じられるんだよ。あ、僕が買ってた同人誌の原作は児童ポルノなんかじゃないよ! 女子小学生が主人公なだけだから!!」

「なるほど、そういうご事情だったんですね。海外の会社って日本の会社と比べて創作物の表現に厳しいですもんね」


 氷室先生は2002年に放映されていたマイナーなテレビアニメ『左傾活動隊しいるず』の大ファンで、そのマイナーなアニメの同人誌を描いてくれていた同人漫画家さんの作品をクレジットカードでダウンロード購入していたのに投稿サイト「ピクスティブ」の規約が厳しくなったせいでその漫画家さんが作品を全部引き上げてしまったらしかった。


 先生がスマホの画面で見せてくれた『左傾活動隊しいるず』はローティーン未満の女の子3名が主役で正直ロリコン感は否めなかったが、数少ない同人誌を新たに読めなくなってしまった氷室先生の悲しみは理解できた。


 いつの間にか話を聞いていたのか、借りていた作画資料本を返却しに来たらしい漫研部員の宝来ほうらいじゅんさんが話しかけてきた。


「氷室先生、漫画のことでしたら私が何か力になれるかもですよ。しいるずは以前全話見たので、試しに同人誌を描いてみましょうか? もちろん外資系クレジットカード会社の表現規制に対応した形にするであります」

「本当かい!? しいるずの同人誌が読めるならいくらでも出すから、ぜひお願いするよ! できれば空の活動隊のひばりちゃんをメインにして……」


 高校教師が自校の女子生徒にR-18の同人誌を描いて貰う行為はかなり危険だが、氷室先生は大喜びで宝来さんも乗り気らしいので私はとりあえず見守ることにした。



 そして宝来さんの手による『左傾活動隊しいるず』の同人誌は完成し……



 私は総合活動隊の一員、空の活動隊の坂井ひばりです。今日は私が大好きな陸の活動隊の船坂しいるちゃんを自室に呼び出しました。


「ひばりちゃん、こんな所に呼び出してどうしたのでありますか?」

「しいるちゃん、私ずっと前からあなたのことが好きだったの。それはもう、しいるちゃんをバラバラにして永遠に自分のものにしたいぐらい……」

「ギャー助けてでありますー! 自分は死にたくないでありますー!!」

「ちょい待ちや、しいるはんをバラバラにするのは公序良俗的な意味で良うないで。本官の発明品を持ってきたから使ってみてや」


 突然部屋に入ってきたのは海の活動隊の東郷ギネヴィアちゃんで、彼女はしいるちゃんにそっくりなアンドロイドを従えていました。


「これは全身が機械のメカしいるはんや! 人間とちゃうから好きなだけちゅっちゅしても手足を切っても愛戦車チハ公と○○させても何の問題もあらへん! ロケットパンチ機能もおまけしといたで!!」

「まあ、何て素晴らしいの! 今からメカしいるちゃんをちゅっちゅしてバラバラにして後でまたくっ付けてチハちゃんと……」

「いくらメカでも自分の分身がひどい目に遭うのは嫌でありますー!!」


 ギネヴィアちゃんがしいるちゃんを羽交い締めにしている間に、私はメカしいるちゃんを思いのままにしたのでした。



「全然萌えなかったけど面白かったよ! 宝来さん、今度は『ラブみな』のなみちゃん同一CPカップリングで描いてくれないかな!?」

「氷室先生は要するに高松健作品がお好きなんですね? 近親(自粛)より濃いテーマですがやってみるであります」


 同人誌の次回作の話題で盛り上がっている氷室先生と宝来さんに、私は途中から手段が目的化しているのではと思った。



 (続く)

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