第99話 レジェンド商法

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)



「……でね、次はここのアイコンをクリックして……あ、そこは違うよ、まだイベントに参加できるレベルじゃないから」

「色々と複雑なのですね。まだ操作すらおぼつきませんが……」

「灰田さん、それに三島さん、スマホのゲームで遊んでるの?」


 ある日の放課後、久々にドリンクバーでゆっくりしたくなって近場のファミレスに寄った私は見覚えのある顔と制服の女子高生2人を見かけて声をかけた。


 2人はどちらも1年生でケインズ女子高校硬式テニス部員の灰田はいだ菜々ななさんと三島みしま右子ゆうこさんで、会話を聞いた限りではスマホのゲーム(中でもおそらくソーシャルゲーム)で遊んでいるようだった。


「野掘さんじゃないですか。どうぞ、ここ空いてるのでぜひ座ってください」

「お久しぶりです。実はとある事情から菜々さんにスマートフォンのソーシャルゲームについて教わっていまして」

「へえー、三島さんってあんまりソシャゲとか遊ばなさそうだもんね。私は少ししかやったことないけど、灰田さんは詳しいの?」

「私も本格的なソシャゲはこれが初めてなんですけど、スマホのゲーム自体は普段から遊んでるので引き受けました。お礼にご飯代おごって貰ってます」


 軽食とドリンクバーしか頼んでいないらしい三島さんに対して灰田さんの目の前には料理を食べ終えたお皿が積み重なっており、これは中々お金がかかりそうだと思った。


 私もフライドポテトとドリンクバーを頼んで着席し、2人に詳しい事情を聞いてみることにした。



わたくしの実家が最近経営が苦しくて、シノギいや新規事業開拓のためにソーシャルゲームを開発することになったのです。IT方面に詳しい社員さんの確保は済んでいるのですが、私はそもそもソーシャルゲーム自体を知らなかったので勉強中なのです」

「な、なるほど。作りたいのはどんなゲームなの?」

「今の時代を生きる日本国民に日本という国への誇りを持って頂けるよう、日本神話を題材にした壮大な物語が描かれるアドベンチャーゲームにする予定です。神話の時代にタイムスリップした現代の若者が主人公なのですが、課金要素をどのように入れるかが一番の悩み所でして」

「ソシャゲの課金要素って露骨すぎても薄すぎても収益につながらないので、今は右子ちゃんと評判がいい有名なソシャゲで勉強してるんです。といってもこのゲームは異世界ファンタジーなので課金要素自体の参考にはなりにくいですけど」


 三島さんの実家は「民族政治結社大日本尊皇会」という一般社団法人らしいので作っているゲームもそれらしい物語だったが、確かに日本神話と課金要素とを結びつけるのにはコツが要りそうだった。


「手っ取り早く課金要素を入れるなら、特撮とかアニメのレジェンド商法を真似してみたら? 日本神話に登場する英雄たちが時代を超えて全員集合して、ガチャで引き当てれば仲間になるようにすれば分かりやすいんじゃない?」

「元々は物語の進行に応じて神々や英雄が仲間になる予定でしたけど、確かに課金で手に入るようにした方が収益につながりますね。ただ、誰でも知っている神々や英雄は種類が少ないような……あっ、いい考えがあります! この方法なら100人以上のキャラクターをすぐに用意できますよ。お礼に真奈さんの食事代も私が持ちますね」

「そんな、私は一言アドバイスしただけだし。でもいいアイディアが思いついたみたいでよかったね」


 結局はドリンクバーのお金だけ払って貰うことになり、その数か月後、三島さんは完成したソーシャルゲームのダウンロードリンクを私にも教えてくれた。


 それから間もなく……



『今月初頭より運営が開始されたソーシャルゲーム『天皇これくしょん』ですが、ゲームシステムや運営形態を巡って様々な問題点が指摘されています。ガチャで入手可能な天皇に北朝天皇が含まれている点に対して一部の皇室研究者から異議が唱えられており、URウルトラレアの天皇は対応する鏡・剣・勾玉まがたまを揃えないと入手できない点はコンプガチャ規制法に抵触するとの指摘も寄せられています。運営元の企業は反社会的勢力に関係しているとの報道もありますが、当ゲームに対し宮内庁は一切の関与を否定しており……』


「右子ちゃんの実家のソシャゲ、今月末でサービス終了になるみたいです。私も1000円だけ課金してたのでちょっと残念です」

「は、ははは……」


 うどん屋さんのテレビで流れているニュース番組を見ながら話している灰田さんに、私はあのゲーム戦前だったら不敬罪だなあと思った。



 (続く)

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