第74話 ルッキズム
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「美女ランキング1位が堀江先輩だったのは当然として、平塚先輩は5位、金原先輩は6位。集計によると金原先輩は文化部員からの得票が多くて、高1なのに8位にランクインしたまひるちゃんは女子人気が圧倒的だったみたい。美男ランキング1位が裏羽田先輩だったのも想定内として、男子の組織票でツルツル頭の円城寺君が4位にランクインしたのは笑っちゃった」
「こ、これはすごい……」
マルクス高校新聞部は夏休み明けの最新号の目玉として美男美女ランキングを企画しており、1年生にして新聞部のエースである
このランキングはマルクス高校の全生徒から美男美女を投票によりそれぞれ10位まで決めるものだが、単なる人気投票ではなく統計的な分析が主目的であり、男子でも女子でも美男・美女に1票ずつ投票する必要がある上に所属する部活や恋人の有無まで投票用紙に記入する必要があった。
「これ本人に言っていいか分かんないけど、マナちゃんも結構いい線いってたんだよ。票数順なら14位だったから来年はランクイン狙えるかも!」
「そうなの? 素直に嬉しいなあー……」
「こちらが新聞部の部室ですね!? PTA会長として抗議を伝えに来たざます!!」
「うわあ、また出た!!」
思わず本音を叫んでしまったが、新聞部室の入り口から入ってきたのはマルクス高校のPTA会長にしてなるみ先輩のお母さんである
「うちの娘から話を聞きましたが、今の時代に美女ランキングとはどういうことですか! 人を容姿の優劣で差別するルッキズムを肯定するような記事は許されないざます!!」
「ええ、私たちも容姿に優れない人を差別するのにはもちろん反対なので、300人以上いる女子生徒のうち上位10名だけを公表することにしてるんですけど……」
「それでも容姿を基準として人に優劣を付けていることに変わりはないざます! この企画が中止もしくは改善されない限り、次号の校内での発表は認めませんからね!!」
「そんなあ……」
瞳さんは散々怒ると部室を去っていき、新聞部としてのポリティカルコレクトネスへの配慮を説明したにも関わらず真っ向から否定された朝日さんは珍しく涙目になっていた。
「朝日さん、PTA会長さんの意見はほとんど難癖だと思うけど、ランク付けしなければいい訳だから美男美女の上位10名をまとめて紹介するだけでいいんじゃない?」
「マナちゃんの考えは分かるけど、そういう形式にしたら今度は上位10名とそれ以外を差別してるって言われそうだし、記事として面白くなくなっちゃう。何かいい方法は……そうだ! 世の中ナンバーワンよりオンリーワンっていうから、全員1位にしちゃえばいいんだ! 早速集計をやり直して……」
朝日さんはそう言うとスマホで新聞部の仲間たちを呼び寄せ始め、私は一体どう問題を解決するのだろうと思いながら新聞部室を後にした。
そして夏休み明け……
>マルクス高校美女ランキング 総合結果発表!
>美肌美声部門1位 堀江有紀
>長身長髪部門1位 平塚鳴海
>眼鏡っ娘部門1位 金原真希
>メディアスクラム部門1位 朝日千春
>ボーイッシュ部門1位 国靖まひる
>期待のルーキー部門1位 宝来遵
「まなちゃんまなちゃん、私美女ランキングで劣等生部門1位になったよ! お祝いに後でハンバーガーおごるよ!!」
「ははは、ありがとうございます……」
A4コピー用紙の賞状を手に報告してきたはたこ先輩に、冷静ツッコミ部門1位の私は苦笑しつつお礼を述べたのだった。
(続く)
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