第3話 フェミニズム

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)



「姉ちゃん、練習見に来てくれてありがとう。はい、これスポーツドリンク」

「ありがとう正輝まさき。中学アメフトって言っても結構本格的なんだね」


 土曜日の放課後、私は附属中学校のアメリカンフットボール部に所属している弟が参加する練習試合を見学しに行っていた。


「正輝君のお姉さんですか!? わあっ、やっぱり美人!」

「流石はクラス一のイケメンのお姉さん、うらやましいなあ~」


 正輝から渡されたスポーツドリンクをこくこくと飲んでいると、マネージャーの女子たちが私を取り囲んで歓声を上げていた。


「えへへ、そう言ってくれると嬉しいけど……」

「ちょっと待ったああぁぁぁぁぁぁ!!」


 照れ隠しの笑いを浮かべていると、高校の校舎の方から誰かが全速力でダッシュしてきた。



「なるみ先輩じゃないですか。こんな所にどうして」


 長身とベリーロングヘアが特徴的なその女性は平塚ひらつか鳴海なるみ先輩といって、例によって硬式テニス部所属の2年生だった。


「あんたら、アメフト部の選手は男だけで、マネージャーは全員女子いうやないか! 今の時代に男は仕事、女は家庭なんて価値観が古い! 今すぐ防具を着て試合に出るんや!!」

「ええー、そんなこと言われても……」


 突然命令されて戸惑う中学生女子に、なるみ先輩は続ける。


「今は部活だけの話やと思うかも知れへんけどな、そうやって男だけが試合に出てたら、いざ戦争が始まった時に女は何もでけへんのやで。せめて女子チームを1つは作るとか、男もマネージャーに加わるとかせんかったら、社会はどんどん男だけのものになるで」

「確かに、私たちも試合に出てみたくは思ってたんです。また学校に、女子アメフト部を創設できないか提案してみますね」

「よっしゃ、それでこそ男女平等社会の実現や! 日本の未来は明るいで!!」


 なるみ先輩はそう言うと高校の校舎に向けてダッシュしていき、そういえば私は視界にも入っていなかったと気づいた。



 翌週の放課後、私はなるみ先輩を追跡し、後ろから制服を引っ張って……


「止めんといてやまなちゃん、うちは全部の部活にフェミニズムを理解させるんや!」

「だからって、だからって相撲部は無理ですよーっ!!」


 涙目になりながら、全力で先輩を止めにかかっていた。



 (続く)

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