ミアとキア
守山 漆
ミアとキア
ザバー ザバー
耳障りな音で眠りから覚めた。
「あれ… 自分いつの間に寝てたんだ。」
閉じていた瞼を開けると、目の前には海が広がっていた。
「ここ…どこだ!?」
自分は砂浜の上で体育座りをしていた。
「何が起きているんだ…」
記憶を掘り起こし、状況把握を図ろうとするが、
真っ白な脳内からは何も得られなかった。
それどころか、
「自分の名前って…」
自分の名前すら不明になってしまった。
「……」
見知らぬ場所で、自らの名前すら覚えてない自分。
何をして、どこに行けばいいのかもわからない。
「…どうしよう。」
自分は動けずにいた。
すると、
「おーーい!」
という声が聞こえた。
声のした方を見ると、青年がこっちに向かって走って来ていた。
高身長で細身な男だ。
そして、近づいてきて開口一番に
「お前も何も覚えてないのか…?」
っと、聞いてきた。
「…あぁ。 『お前も』ってことは君も自分と同じ状況なのか。」
自分は立ち上がり、その青年と目線を合わせた。
「俺たちはこの場所の事も分からないし、自分のことも思い出せないって事…だな?」
と青年は念押しするように言ってきた。
自分はこれにゆっくりと頷く。
「…もう一つ、聞いていいか?」
と青年は言ってきた。
「…なんだ?」
「…お前の名前を教えてくれないか?」
さっき自分とコイツはお互いに何も知らないことを確認した上で、この質問をふってきた。
この行動の不自然さは自分のうちにあった青年に対する疑いの念を強めた。
「…逆に、お前は? 人にモノを聞く時は、まずは自分から言うのが礼儀じゃないのか?」
とイチャモン地味た返しで牽制した。
すると、コイツはこう言った。
「俺はキアだ。」
同じ境遇の仲間、という考えが少しズレてきた。
「何?さっき何も覚えてないって言ってたよな?覚えてるじゃないか。」
と嫌味っぽく言った。
「違うんだ!本当に自分の事は何も覚えてないんだけど、名前を聞かれるとこの言葉が頭に浮かぶんだよ!」
焦って説明してくる姿。
怪しさが増す。
「…信用出来ないな。」
クルッと背中を向け、そいつから離れようとした。
その時、
「じゃあ、試しに名前を思い出そうとしてみてよ。」
と言われた。
この言葉が耳に入った瞬間、頭の中に言葉が浮かんだ。
足を止め、振りかえり、自分はキアにこう言った。
「…ミアだ」
これを聞いたキアは驚いたように
「…ミア!?」
と飛んで距離を詰めていた。
「ミアなのか!?キアじゃなくて!」
と自分の両肩を掴み、揺すりながら言った。
この事が相当嬉しかったのか、キアは興奮状態だった。
「落ち着け落ち着け、とりあえず、色々と事情を聞かせてくれ、そしたら何かわかるかも。」
掴んできた手を払い、近くに座るように促した。
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カンカン照りの中、避暑出来そうな場所もなく、二人は浜辺の真ん中に座り、目の前に広がる海を眺めていた。
「俺が目覚めた時もこんな感じだったなぁ」
「ふけってないで早く事情を教えてよ」
「あぁゴメン。というか、俺もそんなにここに凄く詳しいわけじゃないんだけど。」
「できる範囲で教えてくれ」
「とりあえず、ミアはこの辺りを探索したかい?」
「いや、全然」
「実は、この場所には僕と君以外も何人もいたんだ」
「いた?、その言い方だと、もうここにはいないみたいだけど…。」
「…うん。全員、海に沈んだよ。」
「えっ?!どういう事!?」
思わず感情の乗った声が出てしまう。
「言葉の通りだよ。というか、僕がその人たちを見つけた時には海に行ってる最中だったみたいで、腰のところまで浸かってたよ。」
「なんでそんな事を…」
「分からないけど、海に行った連中はみんな、『行かなきゃダメだ』とか『俺たちは運命共同体だ』とか言ってたよ。」
「……」
途端、目の前の海がとても怖くなった。
「で、そんなみんなに名前を聞いたら、全員『キア』って名乗ったんだよ。」
「キア…」
ここまでの会話、普段だったら
「ていうか、なんでそいつらの名前を聞いたんだよ。」
「いや…何となくどこかで見た事があるような気がしたから…」
とてもあやふやでフワッとした返事。
多分本当のことは言っているのだろうけど、
”なぜ記憶が無いのにその人たちに既視感を感じたのか”
とかの理由は分からないのだと思う。
「で、そうこうしてたら初めてキアではなくミアを名乗る君を見つけたって感じ。」
とりあえず分かったことは、
この場所にいる人のほとんどが『キア』なのだが、自分は例外であること。
「ミアのおかげでこの場所の謎に一歩近づけた気がするよ。」
「…でも、なんで私だけがミアなんだろう。正直、私の存在が逆にこの場所の謎を深めてる気がするよ。」
全く口馴染みしないこの名前は、確実に私の本来の名前でないのは感覚的にわかる。
多分、この”ミア”や”キア”という名前は、この場所や海に沈むという謎の行動に関係があるのだと思う。
そして、ミアはここまでの話を聞いて、一つ不安な点を見つけていた。
「キア、ひとつ聞きたい事があるん…だけど。」
「なに?」
「もしかして今、『海に沈みにいきたい』、なんて考えてないよね…?」
今まで会って来たすべてのキアはみな海に沈みたいという欲望に従って沈んでいった。
逆に考えれば、キアになると海に沈みたいという欲望が必ず湧くようになっているのかもしれない。
てことは、この目の前にいるキアにもその危険性があった。
もちろん、ミアの期待している答えは NO だ。
しかし、そんな期待はすぐに失せた。
「…実は意識が戻ってから…ずっとあるんだ。”海に飲まれたい”って。」
「ッ!」
反射的にミアはキアの肩を掴み、
「絶対行かないで!」と必死に言った。
「おいおい、なに焦ってんだよ。」
キアが困った表情を浮かべる。
「あっ ごめん…。」
ゆっくりと手を離した。
実はミアの中では、隣に居るキアという男が赤の他人でないように感じていた。
ミアの性格はシャイで見知らぬ人と喋る事がめっぽう苦手だった。
そんなミアが今、キアを名乗る謎の青年と自然に会話出来ている。
多分だが ”大切な人なのだろう” とキアと会話をして感じた。
それと同時に思った。
『そんな人を失いたくない』
絶対に一緒に生きて帰る、とミアは決意した。
「絶対、海には行かないでくれよ…」
弱々しくなった声でお願いをすると、
キアは「わかった」と優しく言ってくれた。
その時、ドドドドドドドッ!というエンジンの唸る音が海の方から聞こえた。
「ッ!船か!」
ミアは飛び上がった
「えっ!船っ!?」
ミアは急いで波打ち際に行って、地平線の隅々まで見渡した。
だが、見つけることは出来なかった。
途中から音が間近で感じられたが、そのうち音も止んでしまった。
「あぁ…」
軽く落胆したが、脱出可能だということがわかって逆に安堵した。
「…ごめん。船見つけれなかったよ。」
後ろを振り返ると、キアは同じ体勢のままだった。
「船の音がしたの?俺全然分からなかった。」
正直言って、この状況で船の音を聞き逃すなんて、ずいぶんと吞気な人なんだなと思った。
「船…」
キアが船という言葉に引っかかっていると、次に唸るエンジン音が上空を飛んでいた。
「今度は飛行機!?」
際限なく続く空を見渡すが姿を確認することが出来ず、エンジン音はドップラー効果をきかせながら消えていった。
「クソっ」
もどかしさにストレスが溜まっていく。
「……」
何も言わずキアが自分をずっと見てくる。
「…どうした?」
「なんか思い出せそうなんだけどなぁ」
「おっ キアの記憶か?」
「というより、俺とミアの記憶。多分だけど、俺とミアは前どこかで出会ってる気がするんだ。」
ハッキリした。
自分と目の前にいるキアは記憶がなくなる前に出会っている。
「…この場所は一体なんなんだろうね。」
ぼやくようにキアは言った。
「…早く脱出したいな。」
「…あぁ。」
二人は目を合わせた。
この時、二人は言葉では表せれないような感情で繋がれていた。
すると
「思い 出すの だ。」
どこかから穏やかな女性の声がする。
「ミ、ミア…ミアも聞こえたよね…?」
「…うん。」
だが、周りを見渡しても誰もいない。
「キアよ 思い出せ 全てを。」
エコーのかかった声は明らかにこちらへ向けられていた。
「誰だ!」
キアが叫ぶ。
「私は 海 お前たちの 母。」
「…母?」
あまりにも不可解な現象で混乱する二人。
「ヒトはみな 我の元に帰ってくるのです 母の元に。」
「何を言っているのだ! 俺たちを元の場所に戻せ!」
そう言うと、キアはミアの手をソっと取った。
ミアも握り返した。
「お前はもう 帰るべきなのです 我の元に。」
「何を言ってるんだ! 俺たちは元の場所に帰るんだ!」
海に向かって叫ぶ。
すると、海がだんだんと荒れ始めてきた。
「何故だ 何故なんだ。」
「イヤに決まってるだろ!さては、この溺死したいなんて願望を俺に植え付けたのはお前だな!?」
キアは怒号に近い声を放つ。
「違う それは欲望だ 人間の身体が 形成された時点で 生成される 究極の欲求。」
「死にたいなんて願うわけないんだろ!俺は…」
その時だった。
海がとてつもなく大きな波を作り、あっという間に二人を飲み込み海に引きずり込んだ。
「では我が お前に 教えてやろう。」
水中でもこの声は止まない。
むしろ声は四方八方から聞こえるようになった。
水中に漂う二人。
ミアは右手に掴んだキアの手を離さないように力強く握ったが、すさまじい水流にたまらず手が離れてしまった。
そして水流の向きが突然変わり、引き裂かれるように二人は離ればなれになった。
そしてさらに変わり、水流はミアを浜辺へと押し出した。
明らかに自然現象とは別の力が働いていた。
「おい! キアを返せ!」
海に叫ぶ。
しかし返事が返ってこない。
「おい!聞いてるのか!?」
ミアは海の中に戻ろうとした。
だが強烈な波がこれを阻んだ。
「…クソッ!」
この状況でキアのために何もしてやれない無力な自分に腹が立り砂を蹴り上げた。
…
……
それからミアはただひたすらに待った。
キアの生還を待った。
帰ってくる保証の無いお留守番。
それでもミアはひたすらに待った。
するとなんの前触れもなく、目の前の海が割れた。
海が割れるという圧巻の景色にミアは目を丸くした。
「なんだ…これ!?」
もちろん、どこにもモーゼなんかいない。
ミアはその海の狭間を覗いた。
そこにはキアが立っていた。
「キア!」
急いで走ってキアの元に行こうとしたが、
「ここは君が来る所じゃない!」
「え?」
足が自然と止まった。
「ど…どうした?」
「…思い出したんだ、忘れてた記憶。そしていろいろ分かったよ。」
「ホント!?」
「…それと、ゴメン。さっきの約束、守れそうにないや。」
「っ!?それって…」
曇った表情でキアはこう言った。
「俺も海に沈むよ」
ミアにとって恐れていたセリフだった。
そして、脳で考えるより口が動いた。
「待ってよ!僕を置いていかないでよ!キアが沈むなら僕も沈むよ!」
どうしてもキアを止めたかった。
そういう思いから出てきた言葉だった。
これを聞いた瞬間、キアは顔をしかめた。
「無駄だよ。ミアが海に帰ることは、母が許さないと思うから。」
突き放すような言い方だが、声のどこかにはキア本来に在る優しい声色が滲み出ていた。
「そんなことない!絶対なにか方法が、「ミアは戻るんだ!!」
自分の言葉を遮ってきた。
「…ミアには悪いと思ってるんだ。約束したのに、破って、行こうとしてるんだから。
…本当に申し訳ない。」
キアがジッとミアを見つめる。
ミアはその目から 意志 を感じとった。
それを見た瞬間、キアを止めるとこは不可能なのだと悟った。
「…じゃあ、一つ教えて」
「何?」
張りのない声で問った。
「なんで私だけがミアなの…?」
それを聞かれたキアは困った顔をした。
「……」
黙り込んでしまう。
「…多分、言えないんだね。」
キアはコクッと頷いた。
「…じゃあいいよ。」
つい尖った言い方をしてしまう。
それに対して、何も返してこないキア。
だんだんとバツが悪くなってきた。
「…もういいよ。」
今度はミアが浜辺に戻ろうとした時、
「待って!」
とキアが止めてきた。
振り返ると、
キアが手を後ろで組み、仁王立ちしていた。
そして、組んでいた右手を解き、それを額の前に構え、敬礼した。
そして
「ありがたし」
と言った。
「…ありがたし?」
この状況下での感謝など意味がわからない。
その時だった。
固まっていたはずの左右の海が水に戻った。
「キア逃げて!海が!」
ミアは必死に叫んだ。
この時、キアはミアには届かない声でこう言っていた。
「…良かった。」
そして割れ目の中、誇らしげに敬礼を続けるキアは左右の海に挟まれるようにして飲み込まれた。
「キアッ!!」
海に入り救出を試みるが、またもや波に邪魔され行けなった。
それを何回も繰り返したが最終的には、徒労に終わった。
そして、二度とキアが戻ってくることはなかった。
「キア……。」
この場所で唯一無二、そしてかけがえのない仲間を失った。
『仲間を失うという事』
心のどこかで何故だかこの事を覚悟していた。
しかしその衝撃というのは、想像を遥かに超えるものだった。
「キ…ア、、、。」
ミアは膝から崩れ落ち、視界が目に溜まった涙でぐにゃぐにゃになっていた。。
「あぁ ミアよ そろそろ汝も 行くべきだ」
調子の変わらない声でコイツが話しかけてくる。
「うるさい! お前は喋るな!」
ミアにとってこの声は耳障りでしかなかった。
「今やもう ミアではない汝を ここに置いておく訳にはいかない」
「うるさいうるさい!訳わからないこと言うんじゃねえ!神の皮を被ったペテン師が!!」
怒り、苛立ち、不安、悲しみ、負という感情すべてをさらけ出した。
「はぁ… 汝は気付くべきなのだ 彼の メッセージに」
「…メッセージ?」
そうだ。
確かにさっきのキアの言葉は明らかにおかしかった。
「ありがたし…?」
何故だかわからないが、この言葉には良くないものを感じる。
「どういう意味なんだ…」
目からこぼれそうな涙を腕で拭いながら、頭を働かした。
何か思い出せるかもしれないと信じて。
その時、再び頭上でエンジン音が響いた。
これを耳にした時、分からないがミアの中でハッとする何かがあった。
瞬間、ミアの目のうちに広がっていた海景色が歪み、色褪せ、穴抜けて消失していく。
それと同時に新たな景色が形成されていった。
「ッ!? 何!?」
目の前どころか、足元の砂も、頭の上の快晴も、すべて違う景色に変わった。
テレポートしたような感覚に陥った。
さらに、先ほどまでは立って海を見ていたミアだったが、いつの間にかレザーシートに座らされ、シートベルトまでされていた。
周りの状況は、カプセル状の窮屈な空間で、右から頭上を通り左にかけてガラス張り、手元の台には大量のメーターや波形、赤く点灯しているランプ、暗い緑色の中に一か所だけ赤くなっているレーダーがあった。
そして、目の前のレザーシートには、
誰かが座っていた。
ミアはそいつに話しかけようとしたが、声が出せなかった。
というより、体を自由に動かすことが全然出来なかった。
出来たことは、見る事だけだった。
すると、
「おい✕〇。器物破損のアラートが出てるぞ。大丈夫か?」
と自分が喋り出した。
ミアの意思とは関係なしに、口が勝手に動く。
完全に体の制御権は掌握されてしまっていた。
「……」
「おい!聞こえてるのか!?」
自分の腕が前に座っている人の肩を叩いた。
「…ねぇ△□◇。」
前に座っているヤツがようやく喋った。
時々、ノイズのようなものに阻まれ、何を言っているかわからない部分がある。
「何?」
「…今から色々とするが、邪魔しないでね?」
そういうと目の前の人が振り返って見てきた。
声を聞いた瞬間から何となく予想できていたが、
目の前に座っていたのはキアだった。
「…?」
自分が疑いの表情を浮かべた。
すると、キアは無言で拳銃を取り出し、ミアの頭上に位置するガラスに向かって乱射し、ブチ破った。
「ッ!?おい✕〇!気でも狂ったのか?!」
「狂ってなどいないさ。」
「じゃあこの行動はなんなんだ?!」
そう言っているうちにも、キアはミアのシートベルトに手を伸ばし、外した。
「こうするためだよ!」
次の瞬間、勢いよく上下が逆さになり、ミアは破られたガラスを通って、頭から海へ落下した。
落ちている最中に下を見ると、青空と煙を漏らす戦闘機があった。
ここでミアの意識は途切れた。
「△□◇」
誰かが何か言ってきている。
だが今の頭じゃ何も聞き取れやしなかった。
「お〇さ✕#!¥丈◎か!?」
誰かが自分に声を浴びせ、肩を叩いている。
そして耳障りな波の音がしていることに気づいた。
「おい!生きてるよな?!返事をしてくれ!」
やっと脳の働きが戻り、途切れとぎれだった言葉が頭に入って来た。
「うぅ…」
瞼の裏からでもわかるくらい強い日差しについ唸る。
「おっ!気が付いたか!」
声の野太い男が歓喜していた。
この声は…
早く目覚めないと。
腕で目元に影を作った後、ゆっくりと目を開けた。
すると、まるでブルドーザーのようなガタイをしている男がしゃがんでこちらを覗き込んでいた。
「…近藤さん。」
「おぅ、近藤だ。お前は大丈夫そうか?
『
どうやら自分は海から打ち上げられたみたいで、まだ頭が完全には冴えないし、記憶も曖昧。
今の自分は、水を大量に吸って重い少し特殊なつなぎ、耳を隠せるタイプの帽子、そしてレンズの大きなゴーグルを首に掛け、砂浜で大の字で寝そべっている。
だが近藤さんの前でこの態度はまずいので、すぐに立ち上がり姿勢を正した。
「…とりあえず、無事で良かった。申し訳ないが、内心死んだと思ったよ。」
そう言いながら、近藤さんは優しい微笑んだ。
その時、遠くから爆発音。
それは体で空気の振動を感じられるほどの轟音。
思わず佐々木は音のした方向を見た。
「おぉ~ あのアーノルドもそろそろ沈むころだ。本当にみんなよくやってくれたよ。」
その時、忘れてはならない事を思い出した
「近藤さん!
つい頭の中に仲間たちとの思い出が蘇ってくる。
軍人にしては若すぎる男が酒を持ってはしゃいでいる。
「我々木葉隊!運命共同体の前ではアーノルドだろうがシュワルツェネッガーだろうが敵ではないのだ!!」
他の奴らもこれに悪ノリする。
「我々木葉の舞に、奴はついて行けないだろう。さらにお前らとなら死など恐れるに足らぬ!」
「死んだとしても、母なる大地ならぬ母なる海に
「ハハハハ!なんだそれ〜!」
「…ホント、何が面白いんだか。」
「ハハハ、佐々木さんらしい言葉だ。」
男だらけでむさ苦しいし、くだらないし、普通にうるさい。
でも今となっては、あの時が恋しくなってしまう。
嫌な予感がして近藤さんの目を凝視したが、近藤さんは自分に向けられていた目線を海に移してしまった。
「お前以外、誰も帰って来ないんだ…」
この報告に落胆した。
そしてフツフツと怒りが湧き上がる。
「クソ!なんで自分だけ!こんなの仲間を見捨てたようなものじゃないか!!」
「それは違う!!!」
近藤さんのド野太い怒声が体の芯まで響いた。
「お前はなんであの敵主力艦アーノルドが火達磨なっているのか分かるか?!」
「はい!それは木葉隊の努力の結晶です!」
いやこれは嘘だ。
我々、木葉隊はアーノルドの前に酷く劣勢であった。
仲間が奴の巨大な砲弾で黒い煙にまかれるシーンも何度も見てきた。
どう考えてもあそこから戦況を
しかし近藤隊長の前で"分からない"は禁物だ。
「確かに木葉隊の皆、懸命に戦った。だがその中で一際"英雄"に近い奴がいる。」
「英雄…?」
「そいつはこの絶望的な戦況をひっくり返すと同時にお前の命を救ったんだ!」
その言葉を聞いた時、ある男を思い出した。
計器やレーダー管理を担う自分に対して、
操縦、通信、攻撃を担当している、
自分の大切なバディであった。
「今や彼は、ただの戦死者になってしまった。しかし、彼の行動には今でも敬意を表しなければならない。」
そう近藤さんは震え声で言うと、海に向かって敬礼した。
自分も今は海のどこかにいる逢沢に向け、敬礼した。
「それにしても有り難しとは、皮肉なものだ。」
ミアとキア 守山 漆 @urusi_moriyama
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