わたし、さらば。されど、わたし。
@mizore_special
第1話 あの日まで
そこそこの家庭に育ち、そこそこの大学に入り、そこそこの会社に勤め、まあまあの稼ぎがある、人生半ばのある日。
離婚して5年になる元妻からのメール。
「次男の大学受験が迫ってますので、先日伝えた金額を振込みお願いします。」
20歳と18歳の息子たちは、私がいなくてもきちんと成長している。毎月、不自由のないよう養育費も振込んでいるが、元妻の始めたピアノ教室は幼児から高齢者まで通う、空きのない人気教室になっていて、私がいなくても、不自由はしない。
ただ、父親の務めとしては、大学費用までは負担させて欲しい。
それが私の唯一の、父親と名乗る資格を得る事ができる手段だから。
元々、燃えるような恋愛などではなく、成り行きで結婚したふたりに、お互いの血が混ざる子供が2人。その子供がふたりには、かけがえのない存在で、共通の話題の対象で。
それ以外の話は、感知せず、興味もなく、ちょっとの事で喧嘩もあるが、大きく罵り合うこともなく、そして16年の結婚生活が終わった。
終わったのは、元妻が燃えるような恋愛をしたから。
終わったのは、私が燃えるような恋愛をしたから。
始めてふたりで、同じことを同じタイミングに切出し、結婚生活は簡単に終わった。
やはり、結婚は他人と他人がするもので、離婚は他人と他人になるだけ。
他人と他人の共通の子供2人は、苗字が変わることを気にしただけだった。
離婚後、元妻は再婚はしていないが、関係は続いている、息子たちが手を放れたらと頃合いをみているのだろう。
私の方は彼女の転勤に伴い、距離が出来て、彼女の心の隙間に他の人間が入り込み、いつの間にか別々の道を歩みだした。
気づいたら、結局はひとりになって、転勤辞令の話を聞いた時に引き止めなかった事を後悔したが、今更だった。
みんな私がいなくても幸せになれるのだ。
そのうち、息子2人への役目もなくなり、私は何の価値もない存在になって、いずれ地球上のどこかの石ころのようになってしまうだろう。
誰も私の居場所もわからず、そのうち存在さえ忘れてしまう。ただ地球上には存在しているだけの。
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