第15話 奴隷商会と奴隷(1)

前略、故郷にいるお母さんへ。

お元気でしょうか、貴女の娘シノアリスは今日も元気にお肉様をモリモリ食べています。

実はこの前、獣人の方と冒険しました。

毛が汗臭かったです。


シノアリスは、そっと故郷にいる母親を思いながら文を心の内で綴った。


「さぁさぁ、お嬢様。どの奴隷になさいますか?戦闘奴隷?実験奴隷?性奴隷?どれでも選び放題ですぞ、ぶほほほほ」

「・・・・」


いまという現実から目を逸らすシノアリスを現実に引き戻すように目の前で揉み揉みと両手を揉みながら鼻息を荒げて此方を見てくる男。

その男から顔を背け、なぜこうなったと心の中で号泣しながら過去を振り返った。



****


それはシノアリスが商業ギルドで受けた依頼で、気分転換に普段納品しない商品の依頼を受けたのが始まりだった。

その魔道具の材料は、ナストリアでは採取できない素材がいくつもありシノアリスは辻馬車に乗り、付近の町“ロロブス”へ旅立つこととなった。

準備のために市場に訪れた際、狼の鉤爪のリーダー、マリブと偶然再会しシノアリスがロロブスに向かうことに「心配だ」「よければカシスを一緒に」など過保護を発揮されたが、逃走させてもらいました。


ロロブスは、ナストリアに一番近い村である。

特に特産とかを扱っているわけではないが、この街には多くの商人が出入りし冒険者もこの町を訪れる。

勿論それには理由があった。

この村の奥には川があり、それを下っていくと港町シェルリングへたどり着く。つまり海を渡る船着き場に最短で行ける村なのだ。

治安も悪くなく、防壁なども強化されているので安全ともいえる。

また特産がなくても多くの冒険者や商人がこの街を仲介して出入りするので、ナストリアには少し劣るが市場や店が多く存在し賑わっている。


「唯一心残りなのは、おっちゃんの串焼きが食べれないことなんだよねぇ」


あの極上の串焼きは今まで旅をしてきた中で、それ以上に出会えていない。

正直、あの極上串焼きに胃袋を掴まれすぎて中々ナストリアから出る気になれないほど、シノアリスの胃袋は掴まれていた。

ガラガラ、と馬車から除く変わらない風景を見ながらシノアリスは、平和だなぁと肩の力を抜く。アホ毛も柔らかな風に身を任せるように揺れている。

だがそんなゆったりとした時間も、突然に悲鳴で吹き飛ばされた。


「うわぁああ!!ワーウルフだ!」

「なんでこの街道にワーウルフが出るんだ!」


ワーウルフ。

姿形は狼そっくりだが、体長250センチと大きく全身が土色と赤色の毛で覆われ、2つに裂けた尻尾を持っているCランクの魔物だ。

通常街道では、国などが定期的に見回りをしているのでCランク以上が出た場合、速やかに排除する手配となっている。


なので街道にCランクの魔物が出るとき考えられる可能性は2つ。

密輸での魔物売買から逃げ出した、または職務放棄での末路。

ついこの前ナストリアで職務怠慢により現れたクロコスネを討伐したので、案外職務放棄からの末路ではないだろうかとシノアリスは他人事のように考えていた。


「き、君たち冒険者なら戦ってはどうなんだ!」

「ぼ、ボクたちはまだ“緑”の駆け出しなんですよぉ!Cランクの討伐なんて無理ですからぁあ!」


同乗していた冒険者と思わしき数人の男女達は身を寄せ合い震え、絶望顔の商人は頭を抱え、御者の男性も震えている。

ワーウルフは目の前のご馳走に涎を滴らせた、が。


「はーい、おすわりー」


突然響いた少女の声とそれに続く「ギャイン!」とワーウルフの悲鳴に、馬車に乗っていた人は顔をのぞかせた。

そこには白銀の髪色に黒いローブを纏った少女、シノアリスが木の杖と思わしき武器でワーウルフを小突いていた。

対するワーウルフは強い重力に押しつぶされ地面にめり込んでいる、現状が全く把握できず、彼らはシノアリスの行動を見守っていた。


「ダメでしょー、馬車襲ったらー」


シノアリスが持っている木の杖は、ただの木の杖ではない。

これも商品化できず御蔵行きとなった一品“重力の杖”という名がある。その名の通り、杖に触れた対象に圧力をかけることが出来る。小突けば小突くほど圧力が掛かります。

解除する場合は、反対の先端で小突くと解除される仕様だ。勿論ロゼッタに売り込んだが「絶対ダメです」と却下された。



シノアリスが小突けば小突くほどワーウルフは地面にのめり込んでいき、耐えきれず背骨が折れたのか吐血をし絶命した。

絶命したのを確認したシノアリスはワーウルフを小突くのを止め、圧力を解除する。ワーウルフは食用にはならない、素材として使用できるのは牙のみくらいだ。

後処理どうしようかなと悩んでいたが、途端後ろから歓声があがりシノアリスはアホ毛と一緒に飛び上がった。


「す、すごいぞ!こんな子供がCランクの魔獣を軽々討伐するなんて!」

「アンタも怖かったろうに、ごめんよ!本当ならアタイ達が真っ先に立ち向かわないといけないのに!」


冒険者と思わしき女性にギュウギュウに抱きしめられるシノアリス。

女性の装備がビキニアーマーと全身を鍛えているであろう筋肉が惜しげもなく晒され、ロゼッタと違った圧迫感にシノアリスは意識が飛びそうになった。


「おいアマンダ!その子窒息してるから!?」

「ご、ごめんよ!大丈夫かい?」

「ぶえっほ!ごほっ!いえいえ・・・・大丈夫、ですよぉ」


おっぱいは鍛えると固くなるんですね、とシノアリスはロゼッタの胸が恋しくなった。

エロ親父というなかれ、おっぱいは男女関係なく好きな人は好きなのだ。

するとアマンダを押し退け、シノアリスの両手を商人と思わしき男性が握り大きく上下へと振りながら感謝を述べた。


「お嬢さんありがとう!本当にありがとう!君のおかげで私達は救われました!」

「いやぁ、それほどでも」


感謝をされれば嫌な気はしない。照れくさそうに笑うシノアリスだったが、ふと商人の男の肩から下げている鞄から見えた布に思わず視線が行く。

その視線に商人も気付いたのか、自慢げにその生地を見せてくれた。


「綺麗だろう?うちの自慢の商品でね」


商人が言うようにその生地は、赤色や紫色など複数の色が混ざっていて見た瞬間不死鳥のような色合いだとシノアリスは感じた。

目の前の商人“ハイロー”は布生地などを販売しており、いろんな服屋に生地を卸ている。

これから向かうロロブスで商品を卸しにいくと話し始めた。


「そうだ。是非お嬢さんにはお礼をしたいんです。もし良ければロロブスにある“ミススミミススの店”に来てください。」

「ミスミス・・・ミミズ?」

「小さな仕立て屋ですが売り物には自信がありますよ、この紹介証を見せれば大丈夫ですので」


そういってシノアリスに鳥のマークが入った紋章を握らせる。

出来れば今一度お店の名前を教えてもらいたかったが、御者の人が出発できると声を掛けてきたため慌てて乗り込むも再度中の乗客に囲まれ、結局ハイローに店の名前を聞けないままシノアリスはロロブスの町へ辿り着いた。


余談だがワーウルフは処理に困ったのでアマンダ達に譲った、感謝されたがシノアリスには後処理がなくなりアマンダ達は素材をゲット。

まさにwin-winな結末である。



「ではシノアリス嬢、またどこかでお会いしましょう」

「もし困ったことがあったら私ら“戦う常夏”を呼んでね!いつでも力を貸すからね」

「アリスちゃん、ワーウルフ本当ありがとね」


戦う常夏、にシノアリスは誰が命名したのか物凄く聞きたかったが、此方もハイローと同じく人込みに消えてしまったので正門付近ではシノアリス1人が残されてしまった。


「まずは、宿屋の確保と素材採取と・・・・ミミズクミミズだっけ?内容も気になるしなぁ」


完全にお店の名前を忘れてしまったが、あんな綺麗な生地を扱っている店ならそれなりに有名であろうとシノアリスは楽観視していた。

見慣れない町だったので浮かれていたのもある。これが後にシノアリスにとって人生初の体験になるのだが、その時の彼女は知る由もなかった。







*****


本日の鑑定結果報告


・重力の杖

電光石と同じように商品化できず、御蔵行きとなった一品。

その名の通り、杖に触れた対象に圧力をかけることが出来る。

解除する場合は、反対の先端で小突くと解除される仕様だ。勿論ロゼッタに売り込んだが「絶対ダメです」と却下された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る