こまったときはヘルプを活用しよう!

心琅

第1話 天才錬金術士 シノアリス(1)

とある宿屋の一室にて。その部屋は夜の闇に包まれ、1本の蠟燭の灯が部屋を照らしている。クプリクプリ、と怪しげな音を立てて沸騰する鍋の中。その目の前を陣取る一つの影があった。

頭からすっぽりと被った黒いローブからピョコンと除く白銀のアホ毛がゆらゆらと揺れる。

どれほど鍋を眺めていたのか、突如鍋から銀色の煙がボフンと音を立ててあげれば、鍋の前にいた人物は勢いよく鍋の中に手を突っ込んだ。


「できたー!!」


液体が並々詰まっていたはずの鍋は、空となり底にはアメジスト色に輝く石のみが残されていた。

ローブを纏った人物は、大粒の石20個と小粒の石10個、合わせて30個の石を取り出せばローブのフードを外した。

サラリと黒い外瘻から現れたのは白銀の髪をもった少女。


「やったー!さすが天才美少女錬金術士シノアリスちゃん!!今回もばっちり大成功ー!」


いえぇーいとアメジスト色の石を片手にハイテンションで拳を天井へと突き上げれば、ドドン!と隣の部屋から大きな打撃音が響く。

今はだれもが夢の眠りへとつく深夜3時。

お隣さんからの苦情に、慌ててその口を塞ぐ。


静かになった隣の壁にホッと安堵の息を吐きつつ、彼女シノアリスはカバンから黒猫マークがついた麻袋を取り出し大粒のアメジスト色の石を詰め、残りの小粒の石は小さな麻袋へと詰めこんでいく。


「あー、よかった。これで明日の納品も無事達成だね。いひひ、明日はご馳走だ」


今度は大声を出さないよう小声でつぶやけば、ミョンミョンとアホ毛も嬉し気に揺れる。

キュッと麻袋の封を締め、シノアリスは纏っていたローブや衣服を脱ぎ捨て、タンクトップと下着一枚と軽装になれば素早く固めのベッドへと飛び込んだ。

硬い枕はベッドの端へと寄せてホルダーバックから大き目の枕を取り出し顔をうずめる。

硬い枕とは違い、まるで羽のようにふわふわと柔らかい枕にシノアリスは癒されるかのように頬を摺り寄せた。

不意にピロンと小さな音がシノアリスの耳に届く。

枕から音の先へと視線をあげれば、まるでゲームのウィンドウのようなボードが出現していた。


【殺虫石(高品質 効果:大) 作成完了。スキル“錬金術”のレベルがMAXになりました】

【条件を満たされたため、上級スキル“創作”を取得しました】

【条件が満たされたため、称号“凄腕の錬金術士”を獲得しました】


「おぉう、怒涛の如く出てくる」


だが生憎、シノアリスは既に眠気が限界突破している。

また明日見るからとまるでボードに話しかけるように訴えれば、文面が変わる。


【スキル一覧、獲得スキルの整理をしますか?】


「いえーす」


そこでシノアリスの意識は途切れた。

スヤスヤと心地良さげに眠るシノアリス。その間も彼女の上に出現したままのボードがズラズラと言葉を並べていく。


【・・・承認を確認】

【スキル一覧、獲得スキルの整理を実行】

【・・・・・・・】

【・・・・・・・】

【処理完了、回数条件を満たしたため、エクストラスキルのレベルが2へとあがりました】

【これよりエクストラスキル:ヘルプをバージョンアップします】

【・・・・・・・】

【・・・・・・・】

【処理完了・・・・・・】






***


本日も晴天なり、と言わんばかりの窓から見える青空にシノアリスは大きく体を伸ばす。

生活魔法で綺麗にした白のブラウス、青色のホットパンツ、腰には収納魔法を付与した愛用のホルダーバックを身につける。

膝丈の長さのニーハイソックス、茶色のコンバットブーツを履き、最後に真っ黒なローブを纏えば、天才錬金術士シノアリスちゃんの装いが完成。

やはり達成感の後の睡眠は格別だなと軽い足取りで宿屋を後にする。賑わう市場の人波に入り生活感の音を聞きながら、目的地へと足を運ぶ。

ついた場所は、大勢の商人が出入りしている“商業ギルド”だ。


「おはようございます!依頼品を納品に参りました!」

「あら、おはよう。アリスちゃん。今日も元気いっぱいね」

「ロゼッタさんは今日もお美しいですね」

「まぁ、お上手ね」


ふふ、と軽く笑みをこぼす受付嬢、ロゼッタ。だがシノアリスの言葉はお世辞などではない。

ロゼッタはブラウン色の髪をバレッタでまとめ、所々落ちている髪が大人の女性感を出し。尚且つ眼鏡がエロさとぷっくりと膨らんだ赤い唇からは極上のフェロモンを感じる。

そして何より大きな胸は、シノアリスが持っている極上枕と引けをとらない柔らかさを持っている。

正直、ロゼッタ目当てで出入りしている商人は多数存在する。

が、商人は基本男性が多く女性が少ない。シノアリスは数少ない女性商人のため、女性の受付嬢が対応してくれることが多いことがある。


初めて商業ギルドにやってきて、右も左も分からず困っていたシノアリスを助けてくれたのがロゼッタだ。

だから例えロゼッタの受付が混んでいてもシノアリスは彼女の受付の列へと並ぶ。


「……はい、クエスト達成ね。じゃあこれは達成報酬金貨50枚になります。ちゃんと確認してね」

「はーい。あ!ロゼッタさん、なにか依頼って残ってたりします?」

「ふふ、焦らなくてもあるわよ。ほら」

「え?!こんなに沢山あるんですか?」

「アリスちゃんの納品してくれる品物はどれも高品質だから。その他ギルドでも大人気なの。だから依頼が殺到しててね」

「いひひ、嬉しい限りだな。あ、報酬ピッタリです!あと、この2つ依頼受けます!」

「はい、承りました」


報酬を腰につけた商人にとって必需品でもある収納スキルが付与されたホルダーバッグに詰め込みながら、次のクエストを受ける。


「はい、受付完了よ。こっちは納期は5日後。もう一つは2月後だから遅れないようにね」

「はーい、ロゼッタさん!」

「ふふ、無理しないようにね」


柔らかく微笑むロゼッタに、あるはずも無い後光が見える。シノアリスは吸い寄せられるように受付のテーブルを少し乗り越えロゼッタへと抱きついた。

ロゼッタは少しだけ驚くが、まるで母親、いや聖母のような優しい笑みを浮かべてシノアリスを抱きしめ返す。

勿論、背中ポンポン。頭撫で撫でのオプション付き。


ふ、羨ましいか男たちよ、この柔らかなおっぱいを堪能できるのは私だけの特権よ!!


内心、エロ親父思考全開で羨ましげにシノアリスをみる男達にドヤ顔を見せた。

さてさて、大好きなロゼッタからの抱擁で更に元気になったシノアリスは、商業ギルドを出ていき現在拠点でもある宿屋へと戻る。

ローブやホルダーバックを無造作にベッドに放り投げ、空いたスペースに腰を下ろす。今しがた受注したクエストと地図を一緒に取り出した。


・導きの灯 高品質 100個 依頼主 アラザ鉱山発掘調査主任 ラーゼ

・毛生え薬 高品質求む 依頼主 黙秘


「えーっと、導きの灯の素材はこことここで採取して・・・」


そして毛生え薬の依頼書を見、シノアリスは「スキル発動、ヘルプ」と零せば、昨晩、シノアリスの上部に出てきたボードが現れる。


「えーっと、確か毛生え薬って色んなのがあるよね。ならまずは“検索”、それから“毛生え薬”“効果抜群”」


ボードの前でスラスラと言葉を並べれば、一気にボードの前には莫大な数の小窓が出てくる。


“育毛剤の作り方(天然素材のみ)”

“ハゲへの対策”

“発毛へと促す食材”


ズラズラと出てくる情報に、シノアリスは1つ1つを確認していく。

【ヘルプ】はこの世でシノアリスしか持っていない特有スキル。15歳のシノアリスが錬金術士として今の生活が送れているのは、このスキルのおかげでもある。




この世界は、日常的に魔法が存在する。

他にも獣人や妖精、竜族、魔族など様々種族だって存在する。そして人族も。他の種族は人にはない強靭な体や神秘の力を持っている。

だけど人族には他の種族にはない、特別な力を持っている。


それがエクストラスキル。

人族のみが必ず1つ取得できる特殊スキル。

スキルは元々種族関係なく1つの物を何万回を繰り返し行うことで取得できる。

だが、エクストラスキルだけは、人がこの世に生まれたときに自然と取得しているスキル。


スキルの内容によれば、その力は他の種族さえ勝る。


【ヘルプ】のエクストラスキルが発覚したのはシノアリスが5歳のとき。

今までに前例のない【ヘルプ】というスキルが存在に、それはもう神殿の一部が大騒ぎした。

勿論貴族や魔法使いだって。


だけど、すぐにシノアリスの【ヘルプ】は欠陥スキルだと嘲笑われた。

使い方が全く分からなかったからだ。使えないスキルはゴミスキルと同じ。

一時周囲からは期待の目で見られたが、すぐにゴミを見る目で追い払われた。


が、ひょんな事からシノアリスは“前世”というモノを思い出した。

この世界ではない。別の世界“地球”

その世界に住む人間の記憶がシノアリスの中に流れ込んできた。そして今まで謎だった【ヘルプ】の使い方も、彼女は記憶という情報を手に入れたことにより力を発揮することが出来た。


このスキルは、どんな質問にも答えてくれる。そして調合の仕方も手順も教えてくれる。

素材の採取方法や人攫いに攫われたときの脱出方法さえも、スキルの取得方法だって、お手の物。

世界の知識だけでなく地球の知識を。

そして地球にはない魔法や知識、魔物の素材など全てを駆使して答えてくれる。


地球で例えるならグーグ〇先生、教えて!な状態だ。

だから、シノアリスにとって分からない、作れない物などないに等しい。

まさにこのスキルは地球の言葉を借りるのであれば“チート”そのものだ。


「お!これが効果ありそう!!えーっと、素材は・・・」


小窓に映し出された素材をメモに書き写していく。この近辺で採取できる素材には丸をつけていくも、1つだけ採取したことない素材にたどり着く。


「うーん、このキシジル草だけは見たことないなぁ・・・えーっと“検索”“キシジル草”“採取場所”」


今度は大きなマップが現れる。そのマップに赤い点滅がいくつかつき、シノアリスは地図とマップを見比べた。

現在拠点としている、ナストリア王国から数十キロ離れた場所にある“スズの湖”という場所にどうやら目的の素材が生えているようだ。だが、そうなると馬車の調達とか諸々必要となる。


「まぁ、納期までまだ時間はあるから。まずはこっちから終わらせますか」


目的が決まれば、出していた地図やメモを片付けローブやバックを再び着直す。

グルル、と微かになる腹の音に、先に腹ごしらえをするかとシノアリスは今日の報酬に顔をにやけさせスキップをしながら部屋を出た。




****


本日の鑑定結果報告


・エクストラスキル

人族のみが必ず1つ取得できる特殊スキル。

スキルは元々種族関係なく1つの物を何万回を繰り返し行うことで取得できる。

だが、エクストラスキルだけは、人がこの世に生まれたときに自然と取得しているスキル。



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最後までお読みいただきありがとうございます。

数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。

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更新頻度はそこまで早くはありませんが、主人公ともども暖かく見守っていただけると嬉しいです。

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