病弱な少女はいつも誰かの重荷になっている
仲仁へび(旧:離久)
第1話
私には兄がいる。
いつでも優しく接してくれる、たった一人の家族。
両親はいつからかいなくなっていた。
だから、私には兄しかいなかった。
けれど、私はそんな大切な兄の重荷でしかない。
私は自分の意思では足を動かせない。
自由に出歩けないから、どこに行く時も兄の力が必要だった。
しかも、それだけでなく重い病におかされていたから定期的に薬を服用しなければならなかった。
兄は、そんな私の面倒を見るために、毎日無理をしなければならない。
私には言わないけれど、薬のお金を得るために非合法のお仕事にも手をつけるようになった。
私は、兄の前から姿を消すべきだと思った。
けれど、この世界で唯一の肉親である兄から離れるのが怖くてたまらない。
だから、ずるずるとあってはならない関係を続けてしまった。
そんな私と兄の生活は、ある日突然あっけなく終わる。
兄の仕事場に連れていかれた私は、「これで病気が治るんだ」と言われた。
仕事相手から薬をもらえる事になったので、それで私をとある施設へ連れてきたというのだ。
けれど、そこにいたのは名も知れぬ多くの子供達。
それはなぜか。
兄は気が付いていないようだけれど、そこはただの実験場だった。
人に売りさばくための中毒性の高い薬物。危険な薬を使った実験を、行うための場所。
私は本当のことを兄に伝えようとした。
けれど、思いとどまってしまう。
ここまで頑張ってきてくれた兄に、そんな残酷な事を話していいのだろうか。
ここで私がいなくなれば、兄は解放されるのに。
きっと私がいなくなれば、兄は自分の人生を生きられる。
けれど、思い悩む私はとうとう最後まで決断できなかった。
突然治安を守る騎士たちが、その場になだれ込んできたからだ。
あっという間に戦闘がはじまって、あちこちで怒号があがった。
その戦いの影響で、施設は崩れてしまう。
けれど私はまた兄にかばわれてしまった。
結果として、私や罪もない他の子供達は助かったけれど、兄は死んでしまった。
兄とつながりのある物はもっていなかっため、私はただの被害者として保護されたけれど。
その日から私は、生きている意味を失ってしまった。
兄がいなければ、何ができても、何が起きても意味がないのだ。
もし、叶うならあの時の選択をやりなおしたい。
兄に真実を告げて、兄の命を助けたかった。
たとえその選択の果てに自分が死ぬことになろうとも。
しかしそれは絶体に叶わない。
現実は、優しくない。
私は兄のいない世界で、病に蝕まれる体をかかえながら、絶望の中で息絶えた。
けれど私は知らなかったのだ。
強すぎる想いは、魂の自由を縛り付けるという事に。
私は、生まれ変わった。
別の人間として、新たな生を歩み事になった。
けれど私は、また誰かの重荷になっていた。
私と姉達は非力な姉妹で、村八分にされて差別されていた。
けれど姉は私よりも少し賢くて強かったから、弱い私をかばうために、非合法な仕事に手を染める事になった。
私は、今度こそ、誰かの重荷になる事はしたくない。
そう決意した私は、非情な現実へと抗うために努力を重ねた。
この想いが実るかどうかは分からない。
けれど私は、後悔だけはすまいと強く心に誓った。
たとえこの選択の先に、私が生きていなかったとしても。
大切な人が幸せに生きられる奇跡を、つかみ取りたい。
病弱な少女はいつも誰かの重荷になっている 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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