第205話 俺の予想は逆だぞ
俺の予想通り、蓄積したダメージに肉体が耐えられなくなったのだろう、突如としてゴリティーアに異変が起こる。
リング上でよろめいて、その場に膝をついてしまったのだ。
この絶好のチャンスを見逃すアンジェではない。
「もらったわ……っ! はあああああああああああっ!」
膝をついて少し低い位置にきたゴリティーアの側頭部目がけ、容赦のない渾身の蹴りを放つアンジェ。
「さすがレウス様、予想された通りアンジェ様の勝利で決着がつきそうでございますね」
「いや、俺の予想は逆だぞ?」
「え?」
アンジェの蹴りがゴリティーアの側頭部に叩き込まれようとした、その瞬間である。
「ぬおおおおおおおらああああああああっ!!」
ゴリティーアが雄叫びを轟かせたかと思うと、逆にアンジェの脚に向かって自らの頭部をぶつけにいった。
頭突きだ。
ドオオオオオオオオオオオオンッ!!
響き渡る激突音と共に、アンジェの脚とゴリティーアの頭が同時に弾き飛ばされる。
普通に考えれば、頭の方が脚よりも脆弱だ。
軍配はアンジェに上がると思われるが、
「あああああああああっ!?」
悲鳴を上げてリングの上を転がるのは、逆方向に足が曲がってしまったアンジェだ。
一方のゴリティーアは、額から血が流れ落ち、軽い脳震盪のせいか少しふら付いてはいるが、すぐに立ち上がった。
「まだ若いのに、なかなか強かったぜ。まさか乙女を捨てて力を解放させたこのオレが、ここまで追い込まれるとは思っていなかった。いずれ間違いなくSランクにまで到達するだろう。こいつはお前さんの将来性に期待して、オレからのプレゼントだ」
そう告げて、ゴリティーアが右手に闘気を集中させていく。
「気功弾っ!!」
そしてその闘気をアンジェ目がけて撃ち出した。
「ふむ、かつて武神と言われた男が使っていた技だな」
その様子を飛空艇から眺めながら、俺は頷く。
生命エネルギーである闘気は、体内を循環させることで身体を強化させるものだ。
しかしそれを外に打ち出し、飛び道具として使用する技があった。
「消耗は激しいが、その分、凄まじい威力を発揮する。ただ、下手な人間が使うと、命を落としかねない危険な技でもある」
見たところゴリティーアは、しっかり出力をコントロールしながら使用しているようだ。
それは決して簡単な芸当ではない。
「さすがはSランク冒険者だな」
放たれた闘気に吹き飛ばされ、アンジェはリング外に。
『なっ……ゴリティーア氏、一体、何をしたのでしょうか!? 右手をアンジェ氏に向けて突き出したかと思ったら、アンジェ氏がリング外まで飛んでいってしまいました! もしや、拳圧だけで吹き飛ばしてしまったのでしょうか!?』
闘気というのは、ある程度の訓練を積んだ者でなければ見ることもできない。
実況には何が起こったのか分からなかったのだろう。
もちろんそれは観客たちも同様だ。
不思議な決着の仕方に変なざわめきが起こったが、それでも二人の強者が繰り広げたこれまでの戦いぶりを思い出したのか、すぐに彼らを讃える大きな拍手へと変わっていった。
『二人の激闘を讃えて、場内スタンディングオベーションです……っ! 本当に決勝トーナメントの一回戦とは思えない戦いでした! 負けたとはいえ、アンジェ氏、例年であれば決勝に進んでいてもおかしくない実力者でありました! ここで脱落となってしまったのが非常に残念です!』
万雷の拍手に交じって、興奮した様子の実況の声が響き渡る。
『ですが今大会、まだまだ素晴らしい出場者がたくさん残っています! さあ、それでは次の第三試合に……あ……リングが、また、破壊されて……』
それからまた錬金術師たちが慌ててリングに集まってきて、しばらくの間、懸命の修復作業が行われたのだった。
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