第181話 南の海かな

「なに? この街を出るだと?」


 冒険者ギルドのギルド長室に俺はやってきていた。


 その目的は外でもない。

 しばらく拠点としていたこの都市を、近いうちに離れるつもりであることを伝えにきたのである。


 もちろんわざわざ報告する必要もないのだが、先日の一件で世話になったからな。

 驚くギルド長のアークの問いに、俺は頷く。


「うん。この街にいると、また実家のことで迷惑かけそうだしね」

「それは気にしなくてもいいと言っただろう?」

「もちろん、それだけじゃないんだ。実はついこの間、前世の僕がいた研究所的なところに行ってきたんだけど……そうしたら当時の危険な研究資料やアイテムなんかが、綺麗さっぱりなくなっちゃっててさ」

「大賢者の……? まさか、そんな場所があったとは……」


 やはりこの時代、大賢者の塔の存在はあまり知られていないようだ。


「どういう経緯でブレイゼル家に渡ったのかは分からないけど、この間の悪魔の憑代になってた魔剣も、前世の僕が作ったものだったんだ」

「なんだと? 大賢者というのは、あんな魔剣まで作れるのか……?」


 確か禁忌指定物の一つにしていたはずだ。


『マスターが作ったものだったのですか……』

『あ、リンリンにも言ってなかったっけ?』

『聞いていません』


 だからこっそり回収して、今も亜空間の中に保管しているのである。


「ただ、あの魔剣はまだまだ危険度としては低い方で、もっと危険なのが幾つもあったんだけど……それも全部どこかに行っちゃったみたい」

「あれよりも危険なものがあるだと……」


 ギルド長は言葉を失う。


「だから各地を旅しながら、できるだけ回収していけたらなって。ちょうど飛空艇も手に入ったしね」

「……飛空艇? というのはよく分からないが、そういうことなら是非もない! むしろ一刻も早く見つけ出し、回収してもらいたいところだ……っ!」


 上ずった声で理解を示してくれるギルド長。

 なんか急に顔色が悪くなった様子だけど、大丈夫かな?


『マスターに危機感が乏しいだけかと』

「そもそもお前さんは冒険者なのだ。拠点を変えるのは自由。何人たりとも、それを妨げることなどできはしない。無論、来る者も拒まぬ。機会があればいつでも戻ってきてくれ」

「ありがとう、ギルド長のおじちゃん。うん、また戻ってくるよ」


 そうして部屋を出ようとしたところで、背後からぼやく声が聞こえてきた。


「……しかし、おじちゃんか……本当は俺の方が遥かに年下のはずだがな」







 そうしてベガルティアの街に別れを告げ、俺たちは飛空艇で旅立つことに。


「師匠、次はどこに行く?」

「ここのダンジョンより稼げるような場所って、正直あまりないと思うけど」

「我は主が行くとこならば、どこにでも付いていくつもりだ」


 もちろんファナたちも一緒だ。

 彼女たちの問いに、俺は「うーん」と思案する。


「この国を出ようとは思ってるけど、実はまだ特にこれと決めてるところはなくてさ。北に行くか南に行くか、それとも西か東か……でも、やっぱりまずは海からかな?」

「「「海?」」」

「そ。できるだけ暖かい方がいいね。となると、南の海かな~」


 三人はなぜ海なのだろうという顔をしているが、そんなのは決まっている。


 だって、そろそろ水着回が欲しいじゃんっ!!


 青い海! 白い砂浜! 揺れる爆乳! 濡れる爆乳! はみ出しそうな爆乳! 間違いなく最高だ!

 大賢者の塔がある湖じゃ、泳ぐことなんてできなかったからな。


『……禁忌指定物を回収しに行くのではなかったのですか?』


 リントヴルムが呆れているが、もちろんその目的も忘れてはいない。

 だが何の当てもない今、どこを目指そうと行き当たる確率は同じだろう。


『それはそうですが……』

「というわけで、南の海に向かって、いざ、出発! 全速前進! ヨーソローっ!」


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