第179話 ちゃんと隠しておいたのに
スライム状となったエウデモスが躍りかかってくる。
「アリストテレウスゥゥゥゥゥッ! ソノ脆弱ナ赤子ノママ、ココニ来タノガ不運ダッタナァァァァッ!」
「ところがどっこい、この身体でももう十分戦えるぞ。炎蛇」
「何ッ!?」
俺はすかさず攻撃魔法を発動する。
炎の大蛇が放たれ、エウデモスの身体を呑み込んだ。
しかし次の瞬間、何事もなかったかのように炎を霧散させながら、エウデモスが飛び出してきた。
「あれ、炎が」
「ハハハハハッ! 無駄ダァァァァッ! コノ身体ハ魔法ヲ無効化スルノダァァァァッ!! 死ネェェェェェェッ!」
エウデモスの突進を躱す。
そのまま壁に激突したエウデモスは、勢いよく跳ね返って再び襲いかかってきた。
「なるほど、魔法を無効化か。まぁでも、これは無理でしょ」
俺はエウデモスの攻撃を避けつつ、六種類の魔法陣を同時展開させた。
すべて異なる属性の魔法だが、それを一つに融合させていく。
「無駄ダト言ッテイルダロウ!? イカナル魔法ダロウト、ボクニハ効カナイィィィィッ!」
「反発し合う属性の魔法を無理やり融合させることで、ありとあらゆる物体を消し去る特別なエネルギーが生まれる。それこそが、俺の生み出した最強の攻撃魔法だ」
同種ならともかく、六つの異なる属性の魔法を一度に発動するのはなかなか高度な技術が必要だ。
加えて、本来なら反発し合うそれを融合させるのは簡単なことではない。
この赤子の身体では今まで使用困難だった魔法だが、日々の鍛錬のお陰でようやく発動できそうだ。
「――完全抹失滅消魔法」
次の瞬間、エウデモスの身体が痕ひとつ残さず消し飛んでいた。
「ふう。俺にこの魔法を使わせるとはな」
『……マスター、ご注意を。まだ敵の気配が消えていません』
「え?」
直後、ずっと床に突っ伏していた俺の姿を模した人形が、跳ねるような勢いで立ち上がった。
かと思うと、その姿がエウデモスのそれへと変貌していく。
「ハハハハハッ! サスガダナァ、アリストテレウス! ダケド、ヤハリボクニハ効カナイッ! ナゼナラ、コノ塔ニイル、スベテノ人形タチガ、コノボクノ身体ノ一部ナノダカラネ! ツマリ、塔中ニ散ラバッタ、スベテノ身体ヲ消サナケレバ、ボクヲ倒スコトハ、デキナイトイウコトダッ!」
「ったく、また随分と厄介な性質だな」
だがまぁ、ネタが割れたならやりようはある。
俺はリントヴルムを高く掲げた。
「――球体状強制吸引力魔法」
魔法を発動すると同時、俺の頭上に漆黒のボールが出現する。
「ッ!? 身体ガッ……引キ摺リ込マレルッ!?」
一番近くにいたエウデモスの身体の一部が、猛スピードでそこに激突した。
「何ダ、コレハッ!? ハ、離レナイッ!?」
それだけではない。
この塔内を徘徊していた人形たちが次々と飛来し、黒球へと吸い寄せられていく。
「随分とたくさんいたんだな」
気づけば黒球を中心に、直径十メートルにもなる巨大な塊となっていた。
かなり圧縮されているにもかかわらず、この大きさである。
「さて、これで全部かな? じゃあ、今度こそ」
「ヤ、ヤメロッ!? ヤメテクレェッ!? ボクハ、マダ消エタクナイィィィィッ!」
「いや、もう十分生きただろ。じゃあな」
「嫌ダャアアアアアアアア――――」
エウデモスの断末魔の叫びは途中でプツリと途切れて、静けさが戻ってくる。
人形は跡形もなく消え去っていた。
「……何も残っていないな」
前世の俺がいた最上階を隈なく調べた俺は、がっくりと肩を落とした。
「エッチなコレクションが全部なくなっているなんて!? ちゃんと隠しておいたのに、一体どこのどいつが持っていきやがったんだ!」
『憤慨するのはそっちですか? それよりも当時の研究資料や魔導書に魔導具、貴重なアイテムや素材などがすべて失われている方が、よほど重大では?』
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