第145話 オレ様の力が必要みてぇだなぁ

 猛吹雪が収まり、勝利を確信しながら相手の様子を確認しようとしたメリエナだったが、一転してその顔が歪むこととなった。

 ギルド長に背後を取られてしまったのだ。


「なっ……なぜ……っ!? まさか、あれを躱したとでもいいますのっ!?」

「俺の読み通りだったからな。どうせ、ああしてくるだろうと思って、あらかじめ逃げる準備をしていたのだ」

「くっ! アイスシールド……っ!」


 ギルド長が槍の突きを繰り出すが、メリエナがすんでのところで氷の盾を生み出し、それを防ぐ。


「ほう、さすが〝絶氷〟と言われるだけのことはある。この速度でも魔法を発動できるとはな。……だが」


 一撃で盾に大きな亀裂が走り、間髪入れずに放たれた二撃目で、あっさりと盾が破壊されてしまった。


「あ、アイスシールドっ!」

「無駄だ」

「アイスシールドっ……アイスシールドっ……アイスシールド……っ! アイスシールドぉぉぉ……っ!」


 次々と放たれる突きを、メリエナが氷の盾を何度も生み出して必死に防ごうとする。

 最初こそ拮抗していたが、徐々に盾の生成が間に合わなくなってきて、


「はあああっ!」

「~~~~っ!?」


 最後は氷の盾を貫いた穂先が、メリエナの頬を掠め通った。

 へなへな、とその場に腰を追って座り込むメリエナ。


「勝負ありだな。……しかし、こんなものか。正直もう少しくらいやれると思っていたが」

「ぐっ……こ、こんなはずはっ……」


 忌々しげに睨み上げる彼女を余所に、ギルド長は最後の一人であるガリアに呼びかけた。


「後は親玉のお前さんだけだな。名門ブレイゼル家の力とやらを、今度こそ見せてもらおうか」

「貴様っ……」


 挑発され、ガリアの顔が怒りで真っ赤になる。


「メリエナ、お前は下がっていろ!」

「……は、はい」


 妻を思い切り怒鳴りつけ、訓練場の中央へと出てくるガリア。


「この私は他の者たちのようにはいかんぞ……っ! 五人まとめて粉砕してくれるわ!」


 そう力強く宣言して、背中に背負っていた巨大な剣を抜く。

 どうやら魔法のみならず、剣も扱えるらしい。


「……〝爆魔剣〟のガリア。やはり今までの連中と違って、接近戦も気を付けなければならない相手のようだな」


 警戒するようにギルド長が槍を構えた、そのときだった。

 何を思ったか、突然、ガリアが腰に提げていた方の剣を抜いて、ギルド長目がけて思い切り投擲した。


「なにっ?」



      ◇ ◇ ◇



「この私は他の者たちのようにはいかんぞ……っ! 五人まとめて粉砕してくれるわ!」


 そう声を荒らげながらも、ガリアの頭は冷静だった。


 目の前の男は相当な実力者だ。

 本当に現役を引退しているのかと思うほどの強さで、メリエナが後れを取るのも無理はない。


 恐らくまともにやり合ったとして、勝てる確率は五分以下だろう。


 加えてまだ他に四人も残っているのだ。

 しかも先ほどの小娘の強さを考えるに、決して簡単な相手とは思えない。


(一体、どうなっているんだ……っ!? 冒険者ギルドが、これほどの戦力を持っているとは……っ!)


 だが負けるわけにはいかない。

 なんとしても勝利し、レウスを連れ帰らなければならないのだ。


(こうなったら、奥の手を使うしかない……。これだけは使いたくなかったのだが……)


 そう内心で覚悟を決めながら、腰に提げた剣の柄に手を添える。

 その瞬間、頭の中に声が響いた。


『クククク、どうやらオレ様の力が必要みてぇだなぁ、ニンゲン?』

(……ああ、不本意ながらな)

『ケケケケ、オレ様が言うのもなんだが、どうなっても知らねぇぜぇ?』

(構わん。覚悟の上だ。奴らを倒せるならな)

『ヒヒヒヒ、その心意気、嫌いじゃないぜぇ。それじゃあ、オレ様を抜くといい』


 ガリアは躊躇うことなく、一気にその剣を鞘から引き抜いた。

 刀身から禍々しい魔力が膨れ上がる中、目の前の相手を狙って、剣を思い切り投げつけたのだった。

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