第144話 性格の悪い女ですね

 ファナに三連敗を喫したことで、何か不正を行っているに違いないと、向こうがいちゃもんを付けてきた。

 そしていったん決闘は中断となって、ブレイゼル家による検分が行われる。


 しかしこちらは何もしていないのだから、どんなに調べたところで、何かが見つかるわけもなく。


「が、ガリア様、調べてみましたが、何も怪しいところは発見できませんでしたっ……」

「何だと? そんなはずはない! 何かあるはずだ! でなければ、うちの精鋭たちがあんな小娘相手に手も足も出なかったとでもいうのか!?」

「それはっ……」


 ガリアに怒鳴りつけられ、家臣が顔色を青くする。

 当人は何も悪くないというのに、可哀想な話だな。


「ひ、一つ、気になったことがあるとすれば……あの娘の使っている剣です……っ! 恐らくミスリル製の剣だと思われますが、今まで見たことのない製法で作られているようなのと、幾つもの強力な魔法付与が施されているようでした……っ!」

「なにっ? それを早く言え! あの娘の異様な強さ、その剣の力に違いない!」

「で、ですが、武器については、事前にどのようなものを使っても構わない、と取り決めてしまいましたので……」

「くっ……確かに……。奴らめ、そんなところに罠を仕掛けていたのか……っ! なんと卑怯な……っ!」


 忌々しげに顔を歪めるガリア。

 それに反論したのはギルド長だ。


「何を言っている? そちらだって、どんな武器でも使えるんだ。条件は同じだろう? それに、むしろその取り決めの際に、もっとも乗り気だったのは貴殿ではなかったか?」

「だ、黙れ! ……そうやって、余裕ぶっていられるのも今の内だぞ! まだこちらには私と妻が残っているのだからな!」


 そうして決闘が再会される。


「あたくしに任せるのですわ。あんな小娘、捻り潰してやりますの」

「ん、負けない」


 メリエナが前に出てきて、ファナがそれに応じようとした。

 それをギルド長が呼び止める。


「待て、ファナ」

「?」

「選手交代だ」

「……まだ戦える」

「見たら分かる。むしろこのままだと、お前さんが全員倒して終わってしまいそうだ。もう三人もやったんだから満足だろう? 俺にも少しは戦わせてくれ」

「勝てる?」

「おいおい、俺を誰だと思っているんだ?」


 どうやらファナに代わってギルド長が戦うらしい。


「このままだと俺たちの出番はないかもな」

「ねー」


 ゲインとエミリーが苦笑する中、ギルド長とメリエナが訓練場の中心で向かい合う。


「元Sランク冒険者の〝神槍〟のアーク……噂を耳にしたことくらいはありますわ」

「そうか。お前さんもそれなりに有名だな。〝絶氷〟のメリエナ。それなりに楽しめそうだ」

「……あなたの方は現役を離れて、もう長いのではありませんこと? 耄碌の始まりかけたお爺さんが、どれだけ戦えるでしょうねぇ?」

「逆にこんなジジイに負けでもしたら、ますますブレイゼル家の名に傷がつくことになるだろうな?」


 見下すように嗤うメリエナに、ギルド長が平然と言い返す。


「っ……」


 メリエナの眉間に皺が寄り、口端が歪む。

 せっかくの美人が台無しである。


『それにしても性格の悪い女ですね』

『ああ。むしろ捨てられてよかった気がする』


 そして戦いが開始するなり、最初にメリエナが動いた。

 初手から大魔法をぶっ放したのである。


「凍り付いてしまいなさい! パーマフロスト……っ!」


 一瞬にして凄まじい猛吹雪が発生し、ギルド長に襲いかかった。


『今のズルいですね。あらかじめ魔法を練って、開始と同時に放てるように準備していたようです。まぁ、それを悟られないよう、魔力を隠蔽していた技術はなかなかのものですが』


 純粋な魔法使いっぽいから、そうしないと確実には勝てないと思ったんだろう。


 相手には不正だとか言っておきながら、反則すれすれというか、ほとんど反則技を平然と使ってくるなんて、もはや性格の悪いどころではない気がする。


「あははははっ! 元Sランク冒険者のギルド長が負けたとなると、ギルドの名に傷がつきますわねぇっ!」


 勝利を確信して、哄笑を響かせるメリエナ。


「さあて、どんな表情で凍り付いているのか楽しみですわ」


 しかし次の瞬間、背後からの声に顔が一瞬で引き攣った。


「耄碌したジジイなら、今ので片付くと思ったか?」

「なっ!?」

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