第142話 悪くない案だと思うのだが
なぜか冒険者ギルドが、生まれた直後に俺を攫っていったのだと叫び始める、ガリアとメリエナ。
いやいや、魔法適性値が低いからって、魔境の森の近くに捨てたのは自分たちだろう。
ギルド長が反論する。
「何を言っている? 我々がそんなことするはずない」
「しらばくれるな! 愛する我が子との間を引き裂いた貴様らの所業、絶対に許しはせんぞ!」
「あれからひと時も、レウスのことを忘れた日なんてありませんでしたわ!」
しかし声を荒らげて激昂するガリアとメリエナ。
それに呼応するように、彼の家臣たちも怒りの形相で冒険者たちを睨みつけてくる。
『マスター、あの夫婦、そろってなかなかのタヌキですね。涙を見せていますが、本心ではなさそうです』
『どうやらとんだ両親の元に生まれてしまったみたいだな』
あんな連中のところに帰るなど、死んでもご免だ。
俺はそこで初めて口を開いた。
「さっきから聞いていたら、好き勝手に言ってさ。そもそも僕自身に帰る気なんて、さらさらないんだけど?」
「「~~~~~~っ!? れ、れ、れ、レウスが喋ったあああああっ!?」」
ガリアとメリエナがそろって仰天する。
「ほ、本当に喋ることができるのか……っ!? しかもこれほど流暢に……」
「そんなことはどうでもいいよ。それよりちゃんと聞こえた? 僕は帰らないって」
「なっ……何を言っている! 私たちはお前の両親なのだぞ!?」
「そうですわ! 間違いなくこのあたくしが、お腹を傷めてあなたを産んであげた母親ですのよ、レウス! さあ、今すぐ一緒におうちに帰りましょう!」
どうやら二人は、俺が生まれた直後から、すでに意識を有していたとは思っていないらしい。
あの魔法適性値の測定の後、ガリアが俺を捨てると告げ、それをメリエナがあっさり承諾したのを、はっきり聞いていた。
こんな出来損ない、あたくしの子供ではありませんわ、とか言ってたっけ。
「いや、帰らないってば。ていうか、冒険者ギルドが攫ったとか言ってるけど、二人が僕を捨てたんでしょ。薄っすらと、なんとなーくだけど、記憶があるよ。魔境の森の近くに捨てられたのをさ」
「「~~~~っ!?」」
化けの皮を剝がされたかのように、思い切り頬が引き攣る二人。
秘密裏に処理されたため、大半が知らされていなかったのだろう、これには彼らの家臣たちも戸惑い始める。
「そ、そんなはずはない! 私たちがお前を捨てるなんて……あるはずがないだろう!」
「そうですわ! それは記憶違いですの! きっと攫われたときの恐怖で、記憶が変わってしまったのですわ!」
慌てて苦しい反論をしてくる。
「いいや、もしくは冒険者ギルドによって、洗脳されてしまったのかもしれない! くっ……なんという真似をっ!」
「やはりこいつらは悪魔ですわ! あたくしたちの可愛い息子に、こんなことを言わせるなんて……っ!」
何が何でも冒険者ギルドを悪者に仕立て上げ、自分たちの非は認めたくないらしい。
「これ以上の会話は無意味だ! こうなったら強硬手段に出るしかない! それもこれも、奴らが悪いのだ!」
そして冒険者ギルドのせいにしながら、実力行使に出ようとしてくる。
両陣営が、今まさにエントランスロビーで激突し合う、といったときだった。
ギルド長が、ブレイゼル家にある提案を出した。
「まあ待て。いきなり他人の領地に乗り込んで、戦いをおっぱじめたとなっては、ブレイゼル家の外聞にもかかわるだろう。さすがにそれは避けたいはずだ。せめて正式な決闘という形にするのはどうだ? 無論そちらが勝利すれば、大人しくレウスを渡そう」
「……何だと?」
「両陣営から五人ずつを選出し、一対一で戦う。勝ち抜き形式で、最終的に相手を全滅させた方が勝利という、ごくシンプルな形だ」
なんか勝手に俺が景品みたいになってるんだが?
「場所は訓練場を利用する。正直、こんな場所で暴れられては困るというのと、そちらにとっても悪くない案だと思うのだが?」
そう言いながら周囲へちらりと目線をやるギルド長。
いつの間にか、大勢の冒険者たちが集まって来ていて、三十人ちょっとのブレイゼル家を取り囲むような形になっていた。
「……いいだろう。その提案に乗ってやろうではないか」
このままぶつかっては分が悪いと理解したのか、ガリアは頷くのだった。
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