第140話 相手は男だし
ギルド長が神妙な顔で言う。
「一体お前さんは何者だ? 赤子ながらSランク冒険者をも凌駕するだろう強さ。しかも魔力回路の治療法をコレットに伝授したのも、鍛冶師のゼタにこれまでになかった鍛冶技法を教え込んだのもお前さんだろう?」
あれ、なんかバレてる?
「伝説の大賢者の生まれ変わりと言われても納得できてしまう。むしろ、そうでない方が不思議なくらいだ」
治療法と鍛冶はともかく、俺が前世で大賢者と呼ばれてたってことは、まだ誰にも話してないんだけどなぁ。
「書簡に書いてあったの?」
「そうだ」
「うーん」
つまりブレイゼル家がそれを認識してるってことか。
だとすると、何で俺を生まれた直後に捨てたんだ?
詳しくは分からないが、こうして今さら俺を連れ戻そうとしていることを考えると、捨てた後に何らかの方法で知ったとみるのが妥当だろう。
「お前さんがあまり自分のことを話したがらないのは理解している。だが、ブレイゼル家に対応する上で、できれば知っておいた方がいいと思ってな。無論、心配しなくとも俺は誰にも話すつもりはない。お前さんには色々と恩がある。何なら魔法契約を結んでも構わん」
「……」
リントヴルムが言う。
『マスター。しばらく休眠中でしたので、この男のことをあまり詳しくは存じませんが、見たところ悪意があるようには思いません』
『そうだな、うん。相手は男だし、別に言っちゃってもいいか。男なら誰しも、赤ん坊に生まれ変わって、女性の胸を全身で味わいたいっていう願望を持ってるはずだからな。きっと理解してくれるはず』
『……心配するのはそこですか?』
俺は頷いた。
「そうだよ。僕の前世は大賢者アリストテレウス。長年研究を続けていた転生の魔法に成功して、今はこうして赤ん坊の姿になってるんだ。だから生まれ変わりっていうより、本人そのものと言った方がいいかな?」
「っ……なんと……っ!」
驚愕するギルド長。
そして急に座っていた椅子から降りると、地面に膝を突いて、頭を下げてきた。
「まさか、伝説の大賢者様であらせられたとは……」
「いや、今まで通りで良いよ。せっかく大賢者なんていう大層な立場から解放されて、こうして自由気ままな赤ん坊人生を送ってるんだからさ」
「な、なるほど……」
「前世じゃ、自由に街を散歩することもできなかったし、常にあちこちの王侯貴族や教会や団体から勧誘されたり、魔族に狙われたり、世界を救わされたりして、本当に大変だったからね。だから今度はできるだけ目立たずに生きていきたくて」
「(……その割にはすでに十分過ぎるほど目立っていると思うが?)」
ギルド長がなぜか首を傾げている。
何か変なことでも言ったかな?
「生まれたときからすでに意識があったんだけど、まだ喋れなかったこともあって、すぐに魔境の森の近くに捨てられちゃったんだ」
「一体なぜそのようなことを……?」
「魔法適性値が低いと勘違いされちゃったんだ。メモリの読み方を間違えて」
「だからと言って、赤子を遺棄するとは……ブレイゼル家らしいといえば、そうかもしれんが……」
ちなみに魔法適性値、どうやら後天的に変化しないと思われているみたいだが、実際にはそんなことはない。
魔力回路の治療を受けたりすれば、適性値が大きく跳ね上がるからだ。
この世界では、魔力回路の治療そのものがまったく行われてないらしく、そのせいで生まれてからその数値が上がることはないと思われているようだった。
「しかし、魔境の森で良く生き延びることができたな?」
「肉体的にも魔力的にも本当の赤ん坊レベルだったし、さすがに危なかったけど、前世で使ってた杖がすぐに駆けつけてくれたのと、運よく乳を飲ませてくれる魔物に出会えたから、何とかなったんだ。そこで二か月くらい過ごして、喋ったり戦ったりできるようになって、それで森を出ることにしたんだ」
「なるほど、それからボランテでの活躍に繋がるわけか……(てっきり前世の力を引き継いだまま転生したのかと思ったら、どうやらそうではないらしい。たった二か月で、ゼロから冒険者になれるレベルにまで至るとか……化け物か?)」
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