第138話 師匠は帰る気ない

 そんなわけで、依頼をこなしてお金を稼ぐため、ダンジョンへとやってきた。


「ふん!」

「ギャアアアアアアアアッ!?」


 リルの蹴りを喰らった魔物が、断末魔の叫びと共に吹き飛んでいく。

 それを見て、ファナとアンジェが呆然とする。


「……強い」

「今の、危険度Aの魔物なんだけど……それを瞬殺とか……」

「人化してると言ってもフェンリルだからね。本来だったらたぶん、危険度Sのさらに上だろうし」


 ベガルティアのダンジョンの四十階層だ。

 ファナとアンジェも武器の更新によって戦力を上げたこともあって、少し深めの階層まで潜ってきていた。


「どうだろうか? 我も役に立てるだろうか?」

「うん、十分だね」


 フェンリルだけあって、俊敏さではファナを上回り、パワーでもアンジェを上回っている。

一欠点があるとすれば、力の加減や細やかな動きが苦手な点だろう。


「はぁっ!」


 リルの拳を受けて弾き飛ばされた蛙の魔物が、壁に激突してべちゃりと潰れる。

 完全にオーバーキルである。


「オアアアアアアアアアッ!」

「む?」


 直後に背後から襲いかかってきた蛇の魔物が、リルの上半身にガブリと嚙みついた。

 しかし次の瞬間、蛇の頭が爆散する。


「ちょっと、あんた、大丈夫なの!?」

「問題ないぞ。ちょっと齧られただけだ。……む? 思ったより血が出ている? あと、頭がくらくらしてきたような……?」

「ん、毒受けてる」

「どこが問題ないのよ!?」


 あと、防御に無頓着だ。

 フェンリル状態のときの感覚が抜けないのか、平気で攻撃を受けたりしてしまう。


 人化してもそれなりの頑丈さなので、そう簡単には致命傷にはならないだろうが、いちいち治療しなければならなかった。

 服も修復しないといけないし。


 俺はリルに言い聞かせる。


「リル、なるべく攻撃は避けるようにしてね?」

「むう、すまぬ、主よ。迷惑をかけてばかりだ……」


 そんなポンコツなところもある狼だが、彼女の働きもあって依頼はあっさり完遂。

 冒険者ギルドに戻って報告しようとしたところで、受付嬢から予期しなかったことを切り出された。


「レウス様。お客様……らしき方がいらっしゃっています」

「え? 僕に? 誰?」

「ブレイゼル家の者だとおっしゃっています」

「げ」


 ブレイゼル家といえば俺の生まれた家である。

 嫌な予感しかしない。


「んー、僕、そんな家のことなんて知らないけど?」


 とりあえず知らないフリをしてみた。


「そうですか……。人違いかもしれません。ただ、生後半年くらいの赤子で、レウスという方となると、他には……」


 いるわけないよねー。


「はぁ、仕方ないなぁ。じゃあ、会ってみるよ」


 それから応接室へと案内された。

 待っていたのは、見知らぬおっさんだ。


「私はブレイゼル家に使えるバータという者。その赤子が……」

「あうあー?」

「……? 会話ができると聞いていたのだが……?」


 ファナに抱えられながら赤子モードに入った俺に、首を傾げるおっさん。


「いやしかし、このお顔……メリエナにそっくりだ。間違いない。まさか本当に生きておられたとは……」


 おっさんは感動したように目を潤ませる。


「すぐに連れ帰って差し上げなければ。きっとご当主様もメリエナも泣いてお喜びになられることだろう」


 勝手に決めないでほしい。

 こっちは帰る気なんてさらさらないのだ。


「ちょっと、なに言ってんのよ? レウスはあたしたちの仲間なんだけど?」

「ん。師匠は帰る気ない」


 俺の気持ちを汲み取って、アンジェとファナが突っ撥ねた。

 しかしおっさんは鼻を鳴らして、


「ふん、小娘が何を言う。レウス様は将来必ずブレイゼル家の次期当主となられるお方。お前たちのようなどこの馬の骨とも分からぬ輩などが、一緒にいてよい身分でない。さあ、早くレウス様をこちらに渡すのだ」

「あうあうあうあうあうあ~~~~っ!」


 俺は思い切り嫌がってやった。


「ん、嫌だって」

「本人が拒否してるけど?」

「そんなこと、知ったものか! 連れて帰ると言ったら、連れて帰るのだ!」


 激昂したように叫ぶおっさん。

 当人の意志を無視しやがって、怒りたいのはこっちである。


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漫画担当の涼先生が、最高に面白い作品に仕上げてくださっているので、ぜひぜひ読んでみてください!!

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