第102話 百個はあると思え

「こ、これがミスリル鉱石……?」

「綺麗」


 周囲の壁とは輝きが違うため、遠くからでもすぐに分かった。


「うん、間違いないね。ミスリス鉱石だよ」


 ファナに抱えられたまま手を伸ばし、ミスリル鉱石を掴む。

 少し力を入れて引っ張ると、ポロリとすぐに取れた。


「え、そんなに簡単に取れるの?」

「うん。周りとは異質なものだからね。赤子の力でもこの通りだよ」

「……赤子の代表みたいに言わないでよ」


 大きさはせいぜい赤子の俺の拳と同じくらいだろう。

 つまり結構小さい。


「この分だと、目標量が手に入るまで随分とかかりそうね。魔物も強いし、これはなかなか骨が折れる依頼だわ……」

「ん。あの報酬額なだけある」


 そう言って、すぐにその場から離れようとする彼女たちを、俺は制止した。


「待って。どこにいくつもりなの? せっかくミスリル鉱石を見つけたのに」

「師匠?」

「何を言ってるのよ? もう他にないでしょ」


 首を傾げる二人。


「知らないの? ミスリル鉱石が一つあったら、百個はあると思えって言葉」

「なによ、それ?」

「Gの話?」

「違うよ。ほら、見ててね」


 俺は拳に魔力を集めると、勢いよく先ほどミスリル鉱石が取れたダンジョンの壁を殴った。


 ドオオオンッ!

 ガラガラガラ……。


「またダンジョンの壁を破壊したし!」


 崩れたダンジョンの破片に交じって、キラキラと輝くものが幾つか足元を転がる。

 そのうちの一つを拾い上げ、二人に見せた。


「ミスリル鉱石?」

「うん、そうだよ」

「壁の中にもあるってこと?」

「むしろメインは壁の中なんだ。外に出てきてるのはごく一部だからね。ほら、お姉ちゃんたちも手伝ってよ」


 二人にも採掘に力を貸してくれるよう促す。


「……硬い」

「ちょっ、こんなのよく破壊できるわね!?」

「コツはできる限り力を一点に集中させることだね。こんなふうに」


 ズゴオオオンッ!

 ガラガラガラ……。


「さすが師匠」

「くっ……見てなさいっ! はあああああっ!」


 ドオオオンッ!

 パラパラパラ……。


「ん。ちょっと削れた」

「でも、まったく壊せないってこともないわっ!」


 それから三人がかりで壁の破壊を続けた。

 その結果、すべて集めれば俺の身体よりも大きな量のミスリル鉱石が手に入ったのだった。


「はぁはぁ……こ、これだけあれば十分ね!」

「ん」


 満足そうにする二人だったが、俺は入手したミスリル鉱石を見ながら言った。


「うーん、せっかく手に入ったけど、これじゃ大した純度ではなさそうだね。40~50%ってところかな。まぁ、この階層の魔力濃度から予想は付いたけど」

「純度?」

「どういうことよ?」

「この鉱石にどれだけの割合でミスリルが含まれているか、って話。純度が高ければ高いほど、品質がいいってことだね」


 もちろん通常、鉱石というのは採集したそのままを利用するわけではなく、製錬して金属にし、その後もさらに精錬によって純度を上げていく。

 だがミスリルの場合、その精錬という工程が非常に難しく、そのため入手した時点での純度というものが非常に重要なのだ。


「もっと高品質のミスリルが欲しければ、もっと深いところまで潜らないとね。この手のダンジョンは深ければ深いほど魔力濃度が高くなるし、魔力濃度が高ければ高いほど、ミスリルの純度も高くなるから」

「さすが師匠。博識」

「でも一体どれくらいまで潜ればいいのよ?」

「そうだね……潜ってみないと分からないけど、多分、この倍の六十階層を超えれば、80%超えのミスリルが手に入るんじゃないかな」

「「六十階層!?」」


 アンジェが詰め寄ってきた。


「Aランク冒険者でも、推奨階層がギリギリ四十階層までなのよ!? そんなところまで行けるわけないでしょ!」

「んー、確かに今のお姉ちゃんたちの実力じゃ難しいかな」

「……随分とカチンとくる言い方ね? あんたなら行けるっていうの?」

「うん。もちろんだよ」


 どうせなら、可能な限り純度の高いミスリルを使って武器を作成した方がいいよな。

 俺は言った。


「じゃあ今から採ってこよっか」


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