第96話 最初からですよ
モルデアが放った雷撃は、ゼブラではなく、ギルド長に直撃した。
「な……ど、どういう……ことだ、モルデア……?」
「ひゃははははっ、この瞬間を待っていたのですよぉっ!」
知的なハーフエルフという仮面を剥ぎ捨てたかのように豹変し、彼は嘲笑う。
「一体誰が冒険者ギルド内にいる共犯者なのか? その答えは……なんと! 副ギルド長であるこのわたくしでした! ひゃはははははっ!」
「何だと……っ!? ば、馬鹿な……なぜ、お前が……いつから……」
「いつから? 最初からですよ! 元々わたくしはゼブラ氏と非常に懇意にしていましてねぇ。なにせ彼が売買していた魔薬、そもそもこのわたくしが作り出したものですから」
「っ……」
ちなみに魔薬というのは、飲むことによって様々な効果をもたらす魔法の薬の総称だ。
ポーションもその一つだし、非常に役立つものも多い。
だがその中には危険性の高いやつも存在している。
あえて中毒性を持たせ、一度飲み出すとやめることができなくさせるヤバい代物もあって、それが前世でも大量の廃人を生み出していたっけ。
「あの魔薬はとても素晴らしい出来でした。とりわけ、非常に安価に作れて、誰もが気軽に手を出すことが可能な点が最高でしたねぇ。あのままどんどん使用者を増やし続け、いずれは貴族も平民も、国中が魔薬漬けに……。そうすれば、いずれこの国ごと乗っ取ることも夢ではなかったでしょう」
「貴様っ……」
「けれど残念ながら、そこへあなたが現れました。あれはまさにわたくしの英断でしたねぇ。元Sランク冒険者とまともに対峙しては敵わないと考えて、あなたの味方に付くことにしたのですよ。幸いわたくしはゼブラと違い、表立って動いていたわけではありませんでしたから。そしてあなたを始末する機を窺っていたのですよ。騙されているとも知らず、本当に馬鹿なジジイですねぇ」
「モルデアっ……貴様ぁっ……」
ぺらぺらと白状するモルデアに、ギルド長は怒りを露わにするが、麻痺状態になっているため動くことすらままならない。
「くははっ、わざわざ自分から出向いてくれてありがとよォ。しかも上級冒険者ばかりを連れて来てくれるなんて。お陰でここでまとめて皆殺しにできるぜ」
「ふざけるな、貴様らっ……がぁっ!?」
ゼブラに蹴り飛ばされ、ギルド長が地面を転がる。
「ギルド長! くそっ……まさか副ギルド長がグルだったとは……っ! 邪魔だっ!」
「ていうか、こいつら変じゃないーっ!?」
ゲインがギルド長の救助に向かおうとするが、リベリオンの構成員たちに阻まれてしまう。
攻撃魔法を放ちながら違和感を叫ぶのはエミリーだ。
「さっきから攻撃が全然効いてないっぽいんだけどーっ!」
戸惑っているのは彼女だけではない。
優勢に戦いを進めていたはずの冒険者側だったが、ここに来て形勢が逆転し始めているのである。
というのもエミリーが言う通り、どれだけダメージを与えても、すぐに起き上がってくるのだ。
「へへっ、こいつはいいぜっ! 痛みをまったく感じねぇなんてよ!」
「おらおらっ! Aランク冒険者の力はその程度かっ!」
「ヒャッハーッ!!」
リベリオンの構成員たちは、興奮したように目を血走らせていた。
「ひゃははははっ! なかなか素晴らしい効果でしょう! わたくしが作った新たな魔薬はっ!」
どうやらあれもモルデアが作り出した魔薬によるものらしい。
精神を異常に高揚させることで、一時的に痛覚をオフさせているのだろう。
「まるでゾンビねっ!」
「ん。キリがない」
アンジェとファナも苦戦している。
そうこうしている間に、ゼブラが動けないギルド長にトドメを刺そうとしていた。
「さぁて、そろそろ死んでもらうぜ、ジジイ」
「くっ……」
「じゃあな。……ん?」
剣を振り下ろそうとしたゼブラが、ふとその手を止める。
「……何だ、こいつは?」
眉根を寄せる彼の足元。
そこにいたのは可愛らしい赤子――俺だ。
「どうも~」
「なっ!? 何だ、この赤子は……っ!?」
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