第95話 この瞬間を待っていたのですよ
冒険者がよく使うテントが雑多に並んでいた。
見張りについていた二人の男たちが、こちらに気づいて声を上げる。
「なっ……」
「なぜここにっ!? て、敵襲っ! 敵襲だっ!」
慌てた様子で次々と人がテントから飛び出してくる。
その中には先日、ダンジョンから帰還する際に襲撃してきた奴らの姿もあった。
「冒険者だと!?」
「一体どうやってこの場所が分かった!?」
「拠点を代えたばかりだぞ!?」
戸惑いながらもすぐに武器を構えるリベリオンの構成員たち。
そこへ一番奥の大きなテントから、一人の男が姿を現した。
「はっ、まさか本当に拠点を突き止められるとはなァ。しかもギルド長様直々のお出ましなんて、随分と景気がいいじゃねぇか」
スキンヘッドの、顔や身体に縞々のタトゥーを入れた男だ。
ギルド長が顔を顰め、その男を睨みつける。
「やはり貴様が首謀者だったか、ゼブラ」
「くくっ、そうだぜ、アークの爺さんよォ。てめぇのせいでギルドを追放されてから、オレ様はこのリベリオンを作った。同じように追放された同志たちを集めてなァ」
ゼブラと呼ばれた男。
どうやらこいつが反冒険者ギルド組織のリーダーのようだ。
「貴様など追放されて当然だろう。殺しに暴力、強姦、窃盗……挙句の果てには、危険な魔薬の生産や売買まで始めやがって。貴様のせいで、一体どれだけ冒険者ギルドの名が穢されたと思っている?」
「はっ、相変わらずクソ真面目なジジイだねぇ。……反吐が出るぜ」
ゼブラは吐き捨てるように言う。
「てめぇさえこの街に来なけりゃ、今頃はオレ様がギルド長の座に就いてたってのによォ。そうしたらこの街もギルドも、今より遥かに発展してただろうぜ?」
「発展だと? 貴様なんぞが統治していたら、どれだけ悲惨になっていたことか……」
「くくっ、まぁ弱者どもには厳しい街になってたかもなァ。だがそれはそいつらが弱いのが悪ぃんだよ。弱者は強者に搾取され、虐げられる。それがこの世の当然の理だ」
「……なるほど。だとすれば、ゼブラ。俺よりも弱い貴様が追放され、こんな場所に逃げ込んでコソコソしてやがるのも、今からまた俺に負けて捕まって、汚い牢屋にぶち込まれるのも、当然のことってわけだな」
挑発しながら槍を構えるギルド長。
だがゼブラはそれに乗るどころか、ニヤニヤと嗤い出す。
「くはははっ、おめでたいなァ? まさか、これでオレ様を追い込んだとでも思ってんのか、ジジイ? 逆だ、逆。てめぇはまんまと誘き出されたんだよ」
「……なに? ハッタリはやめろ。貴様以外は、大半がBランク以下の元冒険者たちだ。こちらは俺以外に、現役のAランク冒険者が五人もいる。どう考えても分はこちらにあるだろう」
テントから飛び出してきた向こうの戦力は、二十五人ほど。
こちらは十五人と数では劣っているが精鋭ぞろいで、明らかに有利だとギルド長は確信しているようだ。
「くく、舐められたもんだなァ。おい、てめぇら見せてやれ。伊達にダンジョン内を拠点にしていたわけじゃねぇってことをなァ」
ゼブラの命令を受けて、構成員たちが一斉に襲い掛かってきた。
こちらもそれを迎え撃つ。
「貴様の相手はこの俺だ……っ!」
「はっ、元からそのつもりだぜ、ジジイ!」
ギルド長がゼブラに躍りかかる。
一瞬にして距離を詰め、刺突を連続で繰り出した。
「っ……くははっ……どうやら全然衰えてねぇみてぇだなァ……ッ!」
攻撃を躱しながら笑い声をあげるゼブラだが、完全には避け切れておらず、身体のあちこちから血飛沫が舞う。
「ふん、まだまだ若い連中には負けん。はぁっ!」
「がぁっ!?」
予想外の蹴りを喰らって、ゼブラが地面を転がる。
どうやらギルド長の方が一枚も二枚も上手のようだ。
周囲を見渡してみても、冒険者側がリベリオン側に対して優勢に戦いを進めていた。
「やはりただのハッタリだったようだな」
「へっ、そいつはどうかねぇ?」
くくく、と嗤うゼブラ。
「ギルド長。後はお任せください」
「モルデア?」
「頭の回る奴のことです。何を仕掛けてくるか分かりません。わたくしの雷魔法で麻痺状態にしておけば、そう思い通りにはいかないでしょう」
「ふむ、そうだな」
ハッタリと断じはしたものの、やはり先ほどの「誘き出された」という発言の真意が気になるのか、ギルド長はモルデアの作戦に乗ることにしたようだ。
「喰らいなさい。サンダーパラライズ!」
モルデアが放った雷が、ゼブラに直撃する――ことはなかった。
「がぁぁぁっ!?」
代わりに浴びたのはギルド長の方だ。
「な……ど、どういう……ことだ、モルデア……?」
「ひ、ひひっ……ひゃはははははははははっ!」
地面に倒れながら愕然と問うギルド長に対して、モルデアは大きな哄笑を響かせる。
「ひゃははははっ、この瞬間を待っていたのですよぉっ!」
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