第88話 僕が相手だよ
「ね、ねぇ、どういうことなの……? エクストラヒール……? 何で君がそんな魔法使えるの……?」
エミリーがわなわなと唇を震わせながら訊いてくる。
俺は言った。
「たまたまかな?」
「そんなんで納得できるかぁぁぁ~~っ!」
その叫び声がうるさかったのか、ゲインの口から「うぅ……」という声が漏れた。
「それよりも、まずはあっちをどうにかしないと」
レッドドラゴンの方を指さし、どうにか意識を逸らす。
「くっ……まったく効いてる感じしないんだけど……っ!」
「……同じく」
ファナとアンジェの二人が苦戦していた。
レッドドラゴンの繰り出す牙や爪をどうにか躱しつつ、幾度となく攻撃を見舞っているのだが、やはりその硬い鱗と巨体のせいで、有効なダメージを与えることができていないのだ。
「アトラスのときみたいに、攻撃全振りした一撃を喰らわす!?」
「……ダメ。多分、それでも倒せない」
「じゃあどうすればいいっていうのよ!?」
そのときレッドドラゴンが首を大きく撓めた。
その根元が膨らんでいる。
「またあのブレスを放つ気だ!?」
「や、やべぇぞ!?」
咄嗟に距離を取ろうとしたファナたちだったが、逃がさないとばかりに、レッドドラゴンは即座にブレスを吐き出す。
猛烈な炎が一瞬にして二人を巻き込む。
「し、死んじまった……」
「だから言ったのに……」
「大丈夫。お姉ちゃんたちはあれくらいじゃ死なないよ。ほら、見て」
「「「っ!?」」」
まず炎の中から姿を現したのは、無傷のファナだった。
その周囲には凄まじい風の渦が発生しており、それで炎を防いだのだろう。
「なんて少女だ!? Aランク冒険者の試験官ですら、防ぎ切れなかったブレスを……っ!」
「だがもう一人はどこにいった!?」
「す、姿がないぞ? まさか、身体が溶けちまったのか……?」
ドンッ、と地面が爆ぜた。
かと思うと、地中からアンジェが飛び出してくる。
「咄嗟に土魔法で地面を掘って逃れたってのか……?」
「あの一瞬で……」
「ともあれ、二人とも無事だったぞ! 恐らくあのブレスは連続では放てない! 今のうちにどうにか倒せれば……っ!」
ブレスを防いだことで希望を抱く他の受験者たちだったが、俺はそれを否定した。
「無理だと思うよ。二人とももう魔力が限界だし」
元よりまだまだ魔力量が多いとは言えない二人だ。
レッドドラゴンとの戦いで最初から全開で魔力を消費していたこともあり、今ので完全に使い切ってしまったようだった。
「そ、そんな……」
「……けど、レッドドラゴンも多少は弱っているはず……今なら、俺たちでも……」
「くそっ……やるしかねぇのかよっ!」
覚悟を決めるように武器を構える他の受験者たち。
だが残念ながら、少々レッドドラゴンが弱ったところで、彼らの実力では相手にならないだろう。
俺はバハムートに跨って宙を舞うと、一気にファナたちの元へ。
「師匠」
「あたしたちは見ての通り限界よ」
「大丈夫。後は僕に任せて」
「ん。任せる」
「頼んだわ」
後退する二人と入れ替わる形で、まだ口端からブレスの残りが漏れているレッドドラゴンへと近づいていく。
「どうも。ここからは僕が相手だよ」
「グルアアアアアアッ!」
巨大な口を開き、俺を一飲みしようとしてくるレッドドラゴン。
その口内へ、バハムートの先端を向けた。
「エクスプロージョン」
放たれた小さな魔力の塊が喉の奥へと消えていった、直後。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
レッドドラゴンの体内で凄まじい爆発が巻き起こる。
巨体が瞬間的に一・五倍ほどに膨れ上がり、眼球が爆風と共に眼窩から飛び出した。
全身から煙を上げながら、巨体が轟音と共に地面に倒れ込む。
鱗が硬いなら内側から倒せばいいよね。
というわけで、体内で爆発魔法を発動させてみたのである。
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