第87話 奇跡じゃん
唯一の出入り口が結界によって塞がれてしまった。
受験者たちが破壊しようと試みるも、ビクともしない。
「ダメだ! こいつは簡単には破壊できないぞ!」
「どうすりゃいいんだよ!? 他に逃げ道なんてねぇんだよ!」
見たところそれなりにしっかりした結界だしな。
元からあのタイミングで張るつもりで準備していたものだろう。
まぁ、俺なら破ることはそう難しくないのだが……。
俺が結界を解析している間に、アンジェたちが他の受験者たちと言い合っていた。
「やるって、さっきのブレス見ただろ!? ただのレッドドラゴンでもヤベェってのに、あれはそれ以上だ! 逃げるしかねぇ!」
「その逃げ道がないんだから、戦うしかないでしょ。それとも戦わずに死ぬつもりかしら?」
「っ……」
「ん。ブレスは気を付ければいい」
他の受験者たちを余所に、アンジェとファナの二人は同時に走り出す。
正面からレッドドラゴンに立ち向かっていった。
「グルアアアアアアアッ!!」
牙を剥いて二人を迎え撃つレッドドラゴン。
凄まじい速度で首を伸ばし、先んじて距離を詰めてきたファナを噛み殺そうとする。
巨体とは思えない動きの速さに、受験者たちは彼女が丸呑みされる未来しか想像できなかったのだろう。
「だ、だから言わんこっちゃない……っ! ただの犬死だっ!」
「いや、見ろっ! あそこだ!」
「なっ……か、躱した!?」
「てか、いつの間にあんなところに!?」
ファナはドラゴンの牙を跳躍で躱していた。
そのまま天翔を使って空を走りながら、その背中を次々と斬りつけていく。
「空中を走っている!?」
「一体どうやっているんだ!?」
「グルアアッ!」
ファナを追いかけるように、慌てて首を後ろに向けるレッドドラゴン。
だが正面からもう一人迫っていた。
「よそ見してたら痛い目見るわよっ!」
アンジェの渾身の蹴りが、レッドドラゴンの首の根元へと叩きつけられる。
「~~~~ッ!?」
戦う二人の様子に、受験者たちは唖然としていた。
「何て連中だ……。レッドドラゴン相手に……」
「お、俺たちも加勢を……っ!」
「いや、やめておけ。足を引っ張るだけだ」
「そうだな……」
ファナたちがレッドドラゴンと戦いを繰り広げる中、エミリーはブレスを浴びたゲインの治療を試みていた。
「火傷が酷すぎるんだけど……っ! このままじゃ……」
しかし負傷の程度が強く、彼女の治癒魔法では効果が薄そうだ。
ゲインはすでに気を失って、いつ死んでもおかしくない状態である。
……できるだけ力を隠しておきたかったのだが、人命が掛かっているこの状況で、そんなことは言ってられないだろう。
「おねーちゃん、僕に任せて」
「っ? ま、任せてって……」
俺は亜空間の中からバハムートを取り出した。
『はああああマスターあああああああっ! わたしを使ってくれるのおおおおおおっ!? って、誰、その女……? まさか……わたし以外の女を……うん、そいつ殺そう』
エミリーを見た瞬間、一気に殺気を漲らせるバハムート。
それを感じ取ったのか、エミリーが「ひっ」と悲鳴を漏らす。
「な、なに、この杖……か、身体が勝手に震えて……」
俺はバハムートを蹴った。
『殺そう、じゃないだろ。こっちは緊急事態なんだ。大人しく言うことを聞け』
『マスターが怒った!? ……自爆しよう』
溜息を吐いて言い直す。
『……お前の力が必要なんだよ。お願いだから協力してくれ』
『マスターが……わたしを、必要としてくれている……?』
『ああ、そうだ』
『あああああああっ! マスターのためなら何でもするうううううううっ!』
『う、うん』
どうにかバハムートの補助を受けつつ、俺は瀕死のゲインに向かってその魔法を発動した。
「エクストラヒール」
「なっ!?」
最高位の治癒魔法によって、ゲインの火傷が見る見るうちに消えていく。
「嘘……エクストラヒール……? 幻の治癒魔法……?」
気づけば最初から何事もなかったかのように、ゲインの傷が完璧に癒えていた。
「あ、痕すら残っていない……奇跡じゃん……」
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