第79話 最後に風魔法で吹っ飛ばす

「こいつらどうしたらいいのかしら? 数が多くて、連行するのも大変そうだし……」

「殺しておく?」

「それが良いかもしれないわね」

「「「ひいいいいいいいいいいっ!」」」


 ファナとアンジェのやり取りに、生き残った盗賊たちが悲鳴を上げた。


 全員、縄で縛ってそこらの地面に転がしてある。

 全部で二十人はいるので、こいつらを連れて街まで行くのはなかなか大変だ。


 かといって放っておくわけにはいかない。

 解放したら、また次の被害者が出てしまうだろう。


 こうした場合、命を奪ったところで罪を問われる心配はないはずだ。

 なので余罪を洗い出すためにも、代表者だけを捕縛して街へと運び、それ以外はその場で殺してしまうのが簡単だった。


「い、命だけは助けてくれ!」

「そんなこと言って、自分たちは命乞いした人を殺してきたんでしょ」

「それはねぇ! 俺たちは基本的に殺しはしてねぇんだ! 盗んだり攫ったりするだけの、まっとうな盗賊だからな!」

「それも十分悪いんだけど?」


 まぁ実際のところ、できるだけ殺しを避ける盗賊は多い。

 殺人までやってしまうと、当然ながら捕まったときの罪が重くなるし、騎士団が大々的に動いたり、強力な冒険者などが差し向けられたりすることになりかねないからな。


「お姉ちゃんたち、僕に任せてよ。近くの街まで運んでいくからさ」

「師匠?」

「運んでくったって、どうするのよ? あ、もしかして亜空間とやらに入れてくの?」

「ううん、そうじゃないよ」


 亜空間に生き物を入れることができないわけではない。

 現にリントヴルムやバハムートを収納してあるしな。


 ……彼女たちが生き物かどうかは微妙なところだが。


「亜空間の中は真っ暗で、右も左も分からない異質な空間なんだ。普通の人間を入れたら、多分、一分も持たずに発狂しちゃうよ」

「は、発狂って……」

「まぁとにかく、ここは僕に任せて、お姉ちゃんたちは先に行っててよ。すぐに追いつくからさ」

「ん。師匠が言うなら」

「仕方ないわね」


 腑に落ちない顔で馬車に乗り込む二人。


 御者は盗賊たちとグルだったおっさんだ。

 ひとまず途中の街まで御者を続けてもらい、そこで衛兵にでも突き出すつもりだった。


 今さら逆らう気もないだろうしな。


「ほら、とっとと出しなさい」

「は、はひっ!」


 そうして馬車が見えなくなったところで、俺は亜空間からバハムートを取り出した。


『……マスターが……全然……使ってくれない……きっとわたしが嫌いなんだ……ふふふ……もう自爆してしまおう……』

「待て待て待て! 別に嫌っているわけじゃないから! すぐに自爆しようとするな!」

『ほんとに……?』

「ああ、本当だって。それに俺にはお前の力が必要なんだ。自爆していなくなってもらったら困る」

『わたしの力が……必要……。ふ、ふふふ……ふふふふふ……わたし、マスターに、必要とされてる……っ!』


 亜空間に仕舞っているこいつは、こうして時々、取り出しては機嫌を直してやらないといけないのである。


 なお、ファナたちに先に行かせたのは、下手したら嫉妬で二人に向かってブレスを放ちかねないからだ。

 たとえ男であっても、俺が一緒にいると負の感情を溢れさせるほど嫉妬深いというのに、若い少女たちとなるとなおさらである。


「お、おい、本当に何なんだよ、こいつは……」

「こんな赤子がいて堪るかよ……」

「しかも今、どこから杖を取り出しやがった……っ!?」


 俺に慄いている盗賊たちへ、俺はバハムートの先端を向けた。


「ひぃっ……」

「い、一体何を……?」

「それじゃあ、近くの街まで飛んでいこっか」

「「「は?」」」

「まずは全員を結界内に封じ込めて」

「「「~~っ!?」」」

「続いて重力をゼロに」


 ふわふわ、と結界ごと盗賊たちが浮き上がる。


「最後に風魔法で吹っ飛ばす、と」

「「「~~~~~~~~~~っ!?」」」


 ゴウッ、と凄まじい風が吹き荒れたかと思うと、盗賊たちがまとめて空へと飛んでいった。

 それからバハムートに跨って、追いかけるように俺も空へ。


『ああああああああっ! マスターに乗っていただいているううううううっ! 素晴らしいオマタの感触がああああああああっ!』

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