第78話 お陰で形勢逆転です

 アンジェに顔面を蹴られ、盗賊の一人が吹っ飛んでいく。


「「「……え?」」」


 唖然としたのは他の盗賊たちだ。


「おい、何だ、今の?」

「か、勝手に吹き飛んでいった……?」

「そんなわけがあるかよ」


 どうやらアンジェの蹴りが速すぎて、ほとんどの奴らが目で追うことすらできなかったらしい。


「があっ!?」


 彼らが当惑している間に、別の盗賊が悲鳴を上げて倒れ込む。

 そのすぐ近くに立っているのは剣を抜いたファナだ。


「な……っ!?」

「何でそこに!?」

「こ、この女がやりやがったのか!?」


 いつの間にそこに移動したのだと目を剥く盗賊たち。


「ん。弱い」

「ほんと、雑魚ばかりのようね」


 そこから二人による蹂躙が始まった。


「ぎゃっ!?」

「ぐへっ!」

「ば、馬鹿ながぼっ!?」


 あっという間に半数以上が二人にやられ、盗賊たちが大いに慌て出す。


「つ、強すぎる!?」

「何なんだよ、こいつらは……っ!?」

「どう考えてもただの小娘じゃねぇぞ!」


 また一人、蹴り一発で盗賊を吹っ飛ばしたアンジェが、鼻を鳴らしながら自らの正体を明かした。


「こう見えてあたしたちはBランク冒険者なんだけど」

「ん。これからベガルティアに、昇格試験を受けにいく」


 さらにファナがそう告げると、盗賊たちは慄然となった。


「この歳でBランク冒険者だと!?」

「し、しかも、昇格試験!? こいつら、Aランク候補ってことか!?」


 それを受けて、盗賊の親玉が御者を糾弾する。


「おい、てめぇ! とんでもねぇ連中を連れて来てくれやがったな!?」

「ひっ……ま、まさか、冒険者だとは思っておらず……っ!」

「ベガルティアっつったら、国中から冒険者どもが集まる、冒険者の聖地だろうが! ちゃんと事前に確認しておきやがれ!」

「ひぇぇぇっ……お、お許しをっ……」


 青い顔で情けない声を出す御者を余所に、アンジェたちが残りの盗賊たちを片づけるべく動き出す。


「クソったれがぁぁぁっ!」

「遅い」

「ぎゃあああっ!?」

「「「親分!?」」」

「こんな奴らに敵うはずがねぇ! に、逃げろっ!」


 親玉があっさりファナに斬られてしまったことで、逃走を試みる盗賊たちもいたが、


「アースシェイク」

「「「~~~~っ!?」」」


 アンジェが土魔法で起こした地震で、地面にひっくり返ってしまう。


「逃がすわけないでしょうが」

「「「ひいいいいっ!」」」


 と、そのときだった。


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁっ!」


 叫んだのは先ほどまで真っ青になっていたはずの御者だ。


「ひはははっ! なんとも間抜けな小娘どもですねぇっ! 大切な赤子を馬車に残しておくなんて! お陰で形勢逆転ですよぉっ!」


 俺の首根っこを片手で掴み上げ、哄笑を響かせる。

 おいおい、そんな雑な持ち方したらダメだろ、赤ちゃんなんだぞ。


「この赤子がどうなってもいいんですかねぇっ!?」


 アンジェが呆れたような顔で応じる。


「その赤子もBランク冒険者なんだけど?」

「へっ? は、はははははっ! 何を馬鹿なことを! どこからどう見てもただの赤子でしょう!」

「ほんとだよ、御者のおっちゃん」

「本当なわけな――は?」


 口をポカンと開けて、間抜けな顔をする御者。


「ほんとだってば」

「あああ、赤子が喋ったああああああああああああっ!?」

「喋るだけじゃないよ? よいしょっと」

「~~っ!? ぎゃっ!?」


 仰天している御者の腕を取ると、そのまま力任せに捻って身体ごと地面に叩きつけてやる。


「ほらね」

「な、な、な……」

「ていうか、移動中ずっと後ろで普通に喋ってたんだけど、聞こえてなかったの?」

「そそそ、そういえば、声が三人分あったような気も……」


 まさか赤子が会話しているとは思わなかったらしい。


「おい、何だ、あの赤子は!?」

「大人をひっくり返しやがったぞ!?」

「ん。わたしの師匠。わたしよりずっと強い」

「そ、そんなわけぐはっ!?」

「はいはい、形勢逆転ならずね。いい加減、大人しくしてなさい」


 それから盗賊たちが全滅するまで、一分もかからなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る