第67話 その常識が間違ってる

「って、ダンジョンの壁に穴を開けたの!?」


 アンジェが仰天したように大声で叫ぶ。


「そうだけど?」

「いやいやいや、ダンジョンの壁は壊せないでしょ!? 常識よ!?」

「常識? じゃあ、その常識が間違ってると思うな」


 ダンジョンの壁は確かに硬い。

 一見すると普通の岩のように見えるが、魔力を帯びているせいか、ただの岩の何倍もの強度を持っている。


 そのせいで壊すことができないと勘違いしているのだろうが……。


「それ以上の力をぶつけてやったら普通に壊れるよ。まぁ労力に見合わないから、あんまりやらないけど」


 通れる道を通った方が楽だし早いからね。


「ただ、壁や床をぶち破らないと、行くことができない領域もあるんだ。ここみたいに」

「……あんたといると、常識がどんどん破壊されていくんだけど……」

「ん。師匠は博識」


 そんなやり取りをしている間に、魔物たちがこちらに襲いかかってくる。


「っ……来るわっ!」

「迎え撃つ」

「グルアアアアアッ!」


 真っ先に躍りかかってきたのはアームグリズリーだ。


「はぁっ!」

「~~~~~~ッ!?」


 振り回された巨腕を躱して懐に飛び込んだアンジェは、その腹に強烈な拳を叩き込む。

 アームグリズリーの巨躯が吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に思い切り激突した。


「……へ?」

「グルァ……」

「ちょっ、弱くない!? ほんとにアームグリズリー?」


 一方ファナは、その硬い装甲を物ともせず、アーマービートルを斬り倒している。


「ん。弱い」

「ガルルルルッ!!」

「っと」


 そこへ背後からグリフォンが滑空してきたが、軽く跳躍して回避。

 さらに俺が教えた天翔を使って空中を蹴ると、グリフォンの翼を両断してしまった。


「ガルァァッ!?」


 グリフォンは墜落して地面に叩きつけられる。

 すかさず滑空すると、首の後ろに剣を突き出す。


「シャアアアアアッ!」


 グリフォンの絶命とほぼ同時、猛毒の牙を持つ全長十メートル級のデビルスネイクが、アンジェにその牙を剥いて飛びかかる。


「はぁぁぁっ!」

「~~ッ!?」


 だがアンジェはその下顎を撃ち抜くような蹴りを見舞い、デビルスネイクの頭を大きく吹き飛ばした。

 苦しげに頭を振っているデビルスネイクへ、追撃とばかりに空中ジャンプで迫ると、今度は脳天に踵落としを決めてしまう。

 デビルスネイクはそのまま動かなくなった。


 それから二人は危険度Bに相当する魔物の群れを圧倒した。

 そうして危なげなく一掃してしまうと、互いに顔を見合わせる。


「ねぇ、これって、もしかしてだけどさ……魔物が弱いんじゃなくて……」

「……ん。たぶん、わたしたちが強くなった」


 どうやらようやく自分たちの急成長ぶりに気が付いたらしい。


「す、凄いじゃないの! 危険度Bの魔物がこんなに雑魚に思えるなんて! 一度にどれだけ来ようが、今なら余裕で殲滅できる気がするわ!」

「師匠のお陰」


 ふっふっふ、お礼に生乳で抱っこしてくれてもいいんだぞ?


 まぁ俺の指導のお陰なのはもちろんだが、二人ともなかなかセンスがいい。

 この短期間で天翔をマスターしてしまったし、身体強化を維持した状態での戦いにも慣れてしまった。


「うーん、でも、この領域の魔物でもあまり訓練にならないね。よし、それじゃあ、もっと奥まで進もうか」







 未発見領域を進むことしばらく。

 俺たちはその場所に辿り着いていた。


「じゃあ、今からお姉ちゃんたちにはあいつと戦ってもらうよ。多分、ちょうどいい訓練になると思うな」


 広大な空間だ。

 その奥に待ち構えているのは、身の丈二十メートル以上はあろうかという人型の魔物。


「って、こいつ、ボスじゃないのおおおおおおおっ!?」

「ん……危険度Aのアトラス……」


 ここ未発見領域のボスモンスター。

 それが巨人の魔物アトラスだ。


「オアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 こちらの侵入に気づいて、アトラスが大咆哮を轟かせた。

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