第48話 あたしは騙されないわよ

「……は? あ、あ、あ、赤子が喋ったああああああああああっ!?」


 アンジェが仰天して叫び声をあげる。


「ん。レウスは喋れる赤ちゃん」

「そ、そんな赤子がいるわけないでしょうが!?」

「いるよ? ここに」

「嘘でしょ……」


 信じられないという顔でマジマジと俺を見てくるアンジェ。

 俺もお返しとばかりに彼女の大きな胸をマジマジと見てやった。


「喋れるだけじゃない。戦える。だからBランク冒険者」

「こんな赤子が……あたしと同じBランク冒険者……? そんなはず……」

「間違いない。そいつはBランク、それも圧倒的な実力を認められて、前代未聞の登録時からのBランク認定だ。アタシが保証する。なにせ、アタシがこいつの冒険者試験を担当したんだからな」


 横から割り込んできたのはマリシアだ。


「登録時から!? あたしでもCランクスタートだったっていうのに!?」


 わなわなと唇を震わせるアンジェ。


「そんなわけだから、よろしくね、アンジェお姉ちゃん」

「っ……あ、あたしは騙されないわよ! 何か特殊な魔法でも使ってるんでしょ! こんな赤子がいるはずないものっ!」


 どうやら信じてくれないようだ。

 憤慨した様子でアンジェは離れていってしまった。


「はっ、にしてもテメェ、聞いてるぜ。あの試験の後も、また随分と暴れまくってくれたみてぇだな」

「んー、そんなにかな?」


 俺が首を傾げていると、マリシアのパーティメンバーたちも声をかけてきた。


「君がレウスくんか。マリシアの命を救ってくれたらしいね。ぜひお礼を言いたい」

「うちもうちもー。にしても、話には聞いてたけど、マジで赤ちゃんなんだねー。こんな子がゴブリンロードを倒すとか、全然想像できないんだけどさー」


 メレという名の男性と、ミルルという名の女性だ。

 マリシアは剣士だが、メレは僧侶戦士、ミルルは魔法使いらしい。


 ちなみにバダクたちのパーティは、バダクが大剣使いで、チルダが魔法使い、残る三人はそれぞれ治癒士のヒルトルン、槍士のフレッシュ、そしてシーフのヘミルアという構成だ。

 チルダ以外は全員男である。


「この部隊のリーダーは誰がいいだろう? 一応、決めておいた方が探索がしやすいと思うんだけれど」

「バダク、テメェに任せるぜ。仲間の数も多いし、慣れてんだろう」

「……分かった。みんなに異論がなければ、この部隊は僕が率いさせてもらおう」


 反対の声をあげる者はいなかった。

 ファナもアンジェもソロ冒険者だし、人を纏め上げるのは苦手そうだしな。


 ただし、アンジェだけが釘をさすように言った。


「ふん、異論はないけど、あたしに余計な命令はしないでよ」

「はは、それは気を付けるよ」


 そんなわけで、俺たちはダンジョンの入り口へ。

 聞いていた通り断崖絶壁になっており、その中腹辺りにぽっかりと開いた洞窟があった。


 そこからロープが地面まで垂れ下がっていて、どうやらこれを使って登っていくようだ。


 とはいえそこは上級冒険者たち。

 ロープを使わずとも、僅かな岩の出っ張りを利用して、すいすいと岩壁を攀じ登っていく。


 アンジェは手も使わず駆け上がるように登っていき、ファナは風魔法を使って舞い上がるようにしてダンジョン入り繰りまで飛翔した。

 なお俺はそのファナの胸に張り付いている。


「ファナお姉ちゃん、調子はどう?」

「すごくいい。魔力が明らかに消耗しづらくなった。これなら長く魔法を使い続けられそう」


 俺が魔力回路を治療してあげた効果が出ているようだ。


 ダンジョンの入り口に全員が集合したところで、バダクが呼びかける。


「さあ、みんな準備はいいかい? ギルドの話だと、通常は出現しないような魔物が何体も確認されているそうだ。それも、推定だけれど危険度B以上の魔物だ。油断せずに行こう」

「「「おうっ!」」」


 そうして俺たちはダンジョン内へと足を踏み入れたのだった。

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