第38話 人格者のようだ
「話というのは?」
そう訊ねたのはBランク冒険者のバダクだ。
チルダもメンバーの五人組冒険者パーティが、冒険者ギルドの招集を受けて、会議室へと集められていた。
状況をイリアが説明する。
「はい。実はロットさんたちのお陰で、ここ最近、多発していた赤子の連れ去り事件の犯人らしき人物が分かったんです」
ただ、とイリアは神妙な口調で続けた。
「……どうやらBランク冒険者の皆さんでなければ、対処できないような相手かもしれなくてですね」
元々はCランク冒険者のロットとラナが担当していた依頼だったが、彼らに応援が要請されたのはそのためだった。
ロットとラナの二人が、すでに犯人に顔を見られてしまっているというのもあるが。
「なるほど。それで俺たちに話が来たってわけか」
「そうなんです」
「ところで、その犯人らしき人物ってのは?」
「それが――」
イリアが告げたその人物のプロフィールに、バダクたちが驚く。
「何だと? それは本当なのか?」
「ええと……彼によれば、ですけど」
「うん、間違いないよ。追跡魔法で居場所を突き止めたからね」
「「「っ!?」」」
秘かにイリアの背中に張り付いていた俺は、ひょっこり顔を出しながら断言する。
特に意味はないがサプライズ登場である。
するとチルダが顔を引き攣らせながら後退った。
「ひっ!?」
「お姉ちゃん? 僕、別に怖くないよ?」
「あああ、あなたも関わってたの!?」
赤子スマイルが効かないくらい怯えている。
うーん、精神操作の効果が切れてきちゃったのかな?
また後でこっそりかけ直しておこう。
「……また君か。一体どれだけ活躍すれば気が済むんだ?」
一方、バダクは呆れている。
「とりあえずお兄ちゃんたちは正面から普通に訪ねる感じで。僕は先に忍び込んでおくよ」
「ももも、もしかしてあなたも参加するのっ?」
「そうだよ。またよろしくね、チルダお姉ちゃん」
「なんだか嫌な予感しかしないんだが……」
◇ ◇ ◇
バダクたち冒険者パーティは、とある建物の前にやってきていた。
スラム街の入り口と言ってもいい場所に立つそれは、決して綺麗な建物ではないが、中から子供たちの騒ぐ声が聞こえてきて、平和的な印象を受ける。
そこは孤児院だった。
今から十年ほど前に、とある人物が街のスラムの子供たちの貧しい生活に胸を痛め、私財を投じて作ったとされる施設である。
バダクたちが事前に調べた情報によれば、それにより最近はスラムで子供を見ることがほとんどなくなったという。
「周辺の住民たちに訊いてみたが、ここの院長は素晴らしい方だと口をそろえていたな」
「慈善活動が評価されて、領主様に城へ招待されたこともあるらしい。ただ、自分は当然のことをしたまでだと言って、辞退したそうだが」
「聞けば聞くほど非の打ちどころのない人格者のようだな」
そんなことを話しながら、彼らは敷地内へと足を踏み入れる。
壊れかけた呼び鈴を鳴らすと、しばらくして姿を見せたのは六十代、いや、七十代くらいの男性だった。
「私はバダク。冒険者をしている者だ。この度は突然の訪問、大変申し訳ない。……貴殿がこの施設の院長であるブレット殿であらせられるか?」
「ええ、いかにもわたくしが院長のブレットでございます」
いきなり現れた厳つい集団を前に、男性は篤志家らしい穏やかな笑みとともに応じる。
そして彼の方から提案してきた。
「詳しい事情は分かりませぬが、せっかくいらっしゃったのです。よければお茶でも飲んでいってくだされ」
こちらを警戒している様子もない。
それどころか、簡単に迎え入れようというその態度に、バダクたちは少々戸惑いつつも、ひとまずそれに応じることにしたのだった。
そして通されたのは、食堂らしき場所だった。
子供たちが揃って食事を取るためのものだろう長いテーブルが幾つか置かれており、彼らは院長から促されて、各々椅子へと腰を落ち着けた。
バダクは切り出す。
「もし気を悪くされたなら申し訳ないのだが……実は貴殿にはある容疑がかかっていてな」
「容疑、でございますか?」
「ああ。そうだ。貴殿が……ここ最近、街中で頻発している、赤子の連れ去り事件の犯人ではないか、とな」
「ほう、それはそれは……」
一瞬だが院長の瞳の奥が光った気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます