第25話 そんな注意は無視するけど
「お姉ちゃん、早速だけど何か依頼を受けてみたいんだけど。何か良いのある?」
「え、そ、そうね……」
まだ困惑している受付嬢のイリアだが、さすがはプロフェッショナル、すぐに気を取り直して依頼を探してくれた。
「これなんてどうかしら? ちょうどの今の時期、高ランクの冒険者にとっては一番稼ぎのいい依頼よ」
差し出された依頼書に目を通してみる。
【繁殖期のオークの討伐】
今年も森に棲息するオークたちの繁殖期がやってきました。数が増え過ぎると、森から出て人里を襲う危険性が増えるため、できる限りオークの数を減らしてください。報酬は成果に応じます。
「オークは危険度Cの魔物だから、Cランクのパーティか、Bランク以上の冒険者にしか推奨できない依頼なの」
危険度というのも、前世にはなかった仕組みだった。
どうやら魔物には必ず危険度というものが設定されていて、基本的に同ランクの冒険者が二、三人いれば、問題なく討伐することが可能という認識のようだ。
なお、ゴブリンロードの危険度はBらしい。
「持ち帰ったオークの素材の質や量に応じて、報酬が支払われるわ。特にオーク肉は需要が高いから、かなり報酬がいいのよ」
オーク肉は魔物の肉の中でも特に美味いからな。
と、そこまで紹介してから、イリアはふと何かを考えるように首を傾けた。
「って、幾らBランクだからって、いきなりレウスくんが挑むにはちょっと難易度が高すぎるかもしれないわね……。現場でオークの血抜きをしたり、運搬したりしないといけないし。だから大抵の冒険者パーティは専門のサポーターを雇うのよ。でも、赤子のレウスくんじゃ、依頼しようと思っても、なかなか応じてくれる人がいないかも……」
「大丈夫、血抜きくらい自分でできるから」
「自分でできるの!?」
前世でもよくその辺のオークを捕まえては、焼き肉とかにして食ってたしなー。
運搬も問題ない。
何せ俺には魔法で作り出した亜空間がある。
ここに保管しておけば、いちいちオークの巨体を持ち運ばなくていいし、時間も経過しないので腐る心配もなかった。
そんなわけで俺はこの依頼を引き受けることにした。
オークの棲息地である森は、街から西へ四十キロほど行ったところにあるらしい。
「んー、それにしてもやっぱり目立つな」
冒険者ギルド内でも、赤子の俺が一人で歩いていると、めちゃくちゃ注目されてしまう。
ぎょっとした顔でこっちを二度見する冒険者も少なくない。
中には「ま、迷子? お母さんは?」と話しかけてくる者もいた。
その度に「僕も冒険者だよ」と返すと必ず仰天される。
まぁ冒険者なんて数も限られているし、俺の噂もすでに結構広がっているようなので、そのうち静かになっていくはずだ。
問題は街中だ。
人口も多いし、しばらくこの状態が続くことだろう。
しかも多くの人の目につくと、厄介な輩に目を付けられる可能性も増えてくる。
街を歩くときだけは変身魔法を使った方がいいかもしれないな。
『ずっと使っておけばいいのでは?』
「それだと合法的におっぱいを触れなくなるだろ」
『もはや隠さなくなりましたね……』
今日は街を出る予定なので、赤子の姿のままでリントヴルムの柄に跨ると、空へと飛び上がった。
このまま空を飛んで目的地へと向かうつもりだ。
毎回いちいち城門を通過するのも面倒だからな。
そうして空を飛び続けることおよそ一時間。
それらしき森が見えてきた。
「うん、確かにオークが沢山いるみたいだな」
空から森全体を索敵し、簡単にオークの分布状況を確かめる。
一応、イリアからは森の奥深くには立ち入らず、入り口辺りにいるオークを狙えと言われていた。
森の中心から外れた場所にいる個体は、その多くが群れから追放された〝はぐれ〟であり、単体でいることが多いからだろう。
Bランク冒険者なら一人でオークを討伐できるが、複数を相手するのは厳しい、と口を酸っぱくして言われたっけ。
「ま、そんな注意は無視するけど」
ちまちま単体を狩っていくなんて面倒だ。
群れを一網打尽。
それが俺の前世からのオーク狩りスタイルである。
俺は大規模な群れを発見すると、そこに向かって真っすぐ降りていった。
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