第17話 子連れで冒険者やろうなんて

 試験会場へとやってきた。


 まぁ会場と言っても冒険者ギルドの建物の中だ。

 そこに俺と同じ受験者なのだろう、全部で二十人くらいの少年少女たちが集まっていた。


 これから冒険者になろうという人たちだし、比較的若い世代が多いようだ。

 まだ十歳かそこらの子供もちらほら見受けられた。


 さすがに生後二か月ちょっとの赤子は俺くらいだが。


 午前中は筆記試験で、午後は実技試験になっている。

 そして筆記を突破した者だけが、午後の実技に進める仕組みらしい。


 ファナやイリアから聞いたところによると、筆記で問われるのはごくごく簡単な一般常識と、冒険者に必要な基礎的な知識だという。


 合格ラインは七十点。

 出題内容が毎回それほど変わらないこともあって、難易度は高くないそうだ。


 ……ただし冒険者志望の人間は頭が弱い者が多いせいか、突破率はあまり高くないという。


 実技の内容については、その回によって異なるらしいが、大抵は街を出て魔物を倒したり、実際の依頼をこなしたりといった、実戦形式の試験になるらしい。


 両方合わせての合格率はだいたい三十パーセント程度だという。


「ちっ、誰だよ? 試験にガキを連れてきてやがるのはよ? 子連れで冒険者やろうなんて、随分と冒険者ってもんを舐めてんじゃねぇか」


 筆記試験のため着席していると、俺を見てそう舌打ちする少年がいた。

 どうやら誰か受験者が、産んだばかりの子供を連れてきたと思ったらしい。


「試験中に泣き出しやがったらうるせぇだろうが。誰のガキだか知らねぇが、せめて外に出しておきやがれ」


 俺は誤解を訂正した。


「いや、僕が試験を受けるんだけど?」

「……は?」


 苛立っていた少年の目が点になった。


「あ、あ、あ、赤子が喋りやがった!?」

「うん。見ての通り喋れるよ。試験がんばろうねー」

「な、何なんだ、こいつは!?」


 ざわざわと会場内が騒めく中、試験官がパンパンと手を叩く。


「静かにー。そろそろ試験を始めるぞー。……その赤子のことは気にするなー。俺も理解が追い付かんが、ギルド長が直々に受験を許可されたそうだからなー」


 腑に落ちない顔をしつつも、受験者たちはそれぞれの席についていく。

 問題用紙と解答用紙が配られ、筆記試験がスタートした。







 一時間の筆記試験が終わった。


「あああ、疲れたー。こんなに長く座ってたの初めてだぜ……」

「どうだった? ちゃんとできたか?」

「ぶっちゃけ自信ねぇな。半分くらいは埋めたけどよ……」


 体力自慢の冒険者たちにとって、長時間に渡ってじっと座り続けることは、それだけで苦痛を伴うものだったようだ。

 それに出来の方もあまり芳しくなかったという声が多い。


 ……いや、めちゃくちゃ簡単だったけどな?


 ぶっちゃけ子供レベルの常識問題ばかりだった。

 当然ながら昔と今では常識も変わっているはずなので、この二日の間、ファナに色々と質問して知識を補完していたのだが、それだけで十分、完答することができたくらいだ。


「それでは三十分後に結果を発表する。時間になったら再び集合するように」


 採点は三十分で終わるらしい。

 せいぜい二十人程度だしな。


 三十分程度ならここで待ってるとしよう。


「すごい、本当に喋る赤ちゃんだ!」

「かわいいー。ねぇ私にも抱っこさせて!」

「ねぇお父さんやお母さんはどうしたの?」


 そんなふうに受験者の女子たちに可愛がられたりしつつ、待つこと三十分。

 試験官が戻ってきた。


「ではこれより合否を発表していく。えー、まずはアゼール。……不合格」

「ま、マジか……これで二回連続の筆記落ち……」

「続いてイレイラ。……合格」

「やったわ!」

「それからエミデル。……不合格」

「くそおおおおおおおおおっ!」


 受験者の名前が読み上げられ、その次に合否を告げられる形らしい。


「バルザー。……不合格」

「はぁ!? 何でだよ!? 全部ちゃんと書いたはずだぜ!?」


 試験官に詰め寄ったのは、試験前、俺にイラついていたあの少年だ。


「……確かにすべて埋まっていたが、正解は半分以下だった。点数は47点だ」

「よ、47点だと……」


 クスクス、と他の受験者たちから失笑が漏れ聞こえてくる。


「次に行くぞ。……レウス」


 おっ、俺の番だ。


「合格だ」


 よし、無事に突破できたようだぞ。


「おいおい、あり得ねぇだろ!? そんなガキが合格で、何で俺が不合格なんだよ!?」


 再び声を荒らげたのは、先ほどの少年、バルザーである。

 なんでもなにも、お前は合格点に届いてないだけだろ。


 試験官は少し面倒そうに言った。


「……君がなんと言おうと、彼は間違いなく合格だ。ちなみに点数は100点。全問正解だ」

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