第16話 中身は大人の男ですが
確かに赤子が一人、公園や広場で野宿しているなんて笑えない光景かもしれないな。
というわけで俺はファナの厚意に甘えることにした。
ふっふっふ、これも赤子の特権だな。
俺が大人の男だったら、警戒されて部屋に入れてもらうことすらできないだろう。
『……中身は大人の男ですが』
大事なのは中身じゃない、外見だ。
そうしてファナの胸に抱えられ、連れてこられたのは先ほどの冒険者ギルドに勝るとも劣らない大きな建物だった。
「ここ」
「へー、随分と立派なマンションだね」
「ん。いいところ」
彼女が借りているのは高級集合住宅の一室らしい。
結構稼いでいるのだろう。
「他にお金使わないから。住む場所くらいはと思って。でも一軒家は広すぎるし」
それでも一人で住むには十分過ぎる広さの部屋だった。
リビングにキッチン、それに部屋が三つ。
ほとんど物が置かれていないので、余計に広く感じられる。
「冒険に出てることも多い。だからほとんど寝るだけ」
言いながら、ファナは俺をふかふかのソファの上に置いてくれた。
「食べ物はミルク?」
「ううん。普通のもので大丈夫だよ」
森ではすでに木の実や焼いた肉なんかを食べていた。
魔法で胃腸を強化しているため、すでにそこらの大人より好き嫌いなく何でも食べられるだろう。
「それは助かる」
ファナは自分の胸を軽く触りながら、ちょっとだけ申し訳なさそうに言った。
「……私はおっぱい出ない」
子供産んでないもんね。
まぁたとえ出なかったとしても、吸わせて(ry
そんな俺の思考を読んだわけではないだろうが、何を思ったのか、ファナはいきなり服を脱ぎ出した。
いや、別におかしくないけどな。
ここは彼女の家だし、俺は見ての通り赤ん坊だし、裸になったところで何も問題はない。
……ついジロジロ見てしまうが、決していやらしい気持ちで見ているわけではないぞ。
うん、張りがあっていい胸をしているね。
「お風呂入ってくる。一緒に入る?」
「入る!」
もちろん即答である。
身に付けていた服――森にいたときに動物の毛皮で作った――を脱ぎ捨て、即座に生まれたばかりの姿になる俺。
『……マスター?』
目などないはずのリントヴルムが半眼で俺を見てきているような気がしたが、気のせいだろう。
だいたい赤ん坊なので一緒にお風呂に入るなんておかしなことじゃない。
「ん。入ろう」
そうして俺は同じく生まれたままの姿の彼女に抱え上げられた。
ふにふにふに。
……ふむ、生乳はやはり最高だな。
せっかくなので、この魅惑の隙間に顔を埋めさせてもらうとしよう。
転生したっていうのに、残念ながらママのおっぱいを貰えなかったからな。
まぁ狼かーちゃんのも生乳と言えば生乳だったが……ほとんど乳房はなく、乳頭がちょこんと付いてるだけだったし。
『……エロジジイ』
いやいや、一応これでも性欲はゼロだぞ。
アレだって、さっきからずっと小指の先っちょ程度の大きさのままだ。
なにせ今の俺は赤ちゃんだからな。
それから身体を洗い合ったり、抱きかかえられながら湯船に浸かったり。
俺は美少女とのお風呂を堪能したのだった。
二日間、俺はファナの家で世話になった。
彼女は連休を取っていたようだが、今日あたりから再び冒険に出るそうだ。
「ちょっと遠出する。しばらく戻ってこない。その間もこの部屋使う?」
「え、いいの?」
「ん。構わない」
なかなかありがたい申し出だった。
この赤子の姿だと、たとえお金を稼げるようになったところで、家を借りるのは難しそうだし、果たして宿だって取れるかどうか。
「これ合鍵」
「お姉ちゃんありがと」
「無くさないでね?」
「大丈夫。ここに入れておくから」
俺は受け取った合鍵を亜空間の中に収納しておいた。
「……今どこに消えた?」
「魔法で作り出した亜空間だよ」
一応、森で手に入れた食料なんかも入っている。
今はまだ俺の魔力量の限界で、せいぜいちょっとした屋敷くらいの大きさしかないが、前世だとそれなりの街が丸ごと入るくらいの容量はあったはずだ。
しかしやはり赤子の姿は最強だな。
俺のことを完全に信用してくれているようだ。
『罪悪感とかありませんか?』
なにそれおいしいの?
今後もこの赤子の姿を最大限、活用していくとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます